「すばらしき世界」を観て~介護現場のシーンについて(※ネタバレあり)

(書きかけて放置していたのを今頃気づいた(笑)。このまま闇に葬ってもよかったのだが、読み返してみたら映画を見た時の感情が湧き上がってきたのでひっそりと供養することにする。)


いい映画だった。時間を作って観に行って良かったし、人にも勧められる。

役所広司、やっぱり好き。存在感、迫力、人間の可笑しみを絶妙なバランスで見せてくれる。もちろん他の配役も素晴らしかったし、西川美和監督の演出ありきの作品の良さ。

...感想がつまらん(笑)。語彙力の無さが辛い

以下、ネタバレ。終盤の介護施設でのエピソードについて書く。

13年の刑期を終えて出所した三上だが激昂しやすい性格は治るもんじゃない。真っ直ぐで正義感が強いと言えば聞こえはいいが、気持ちより先に手が出る上にいい加減で止めることが出来ない。階下の住人が騒がしいと言っては怒鳴り散らし、サラリーマンにしつこく絡んでいたチンピラを半殺し?にする。全て自分の正義を通すためなので、つまり反省しない。それでも支援者たちは見捨てることなく寄り添っていくのは、三上自身の人間的魅力もあるだろうが、罪を犯した人間が更生出来る世の中であるべきだという信念があるからだ。いつしか私も、何とか真っ当な生活を送れるようにと祈りながら観ていたように思う。

ケースワーカーの井口の紹介で前科ありを承知で採用してくれる介護施設に就職が決まり、支援者たちに祝ってもらう。皆どれほどに三上を心配し力になってやりたいと思っているかが良く分かるシーンだ。そこで口々に言うのが「理不尽に思うことがあっても吞み込め」「我慢して目を瞑れ」である。このアドバイスが正解かどうかは分からないが、短気でやりすぎてしまう三上には釘を刺したくなるのは仕方ない。三上自身も繰り返した失敗と皆の気持ちを思い、二度と短気は起こさないと誓うのだが。

ある介護職員が他の職員に暴行を受けている場面に出くわす三上。彼を守ろうとモップで叩きのめすシーンが表れるがこれは妄想で、結局手も出さず口も出せずにその場を立ち去ってしまう。彼には発達障害があり仕事の失敗が多く、利用者の命にかかわるような事例があったことが分かるのだが、それについて会話をする職員たちの心ない言動の数々が自身にも向けられているように感じ動揺する。机上の鋏を見つめる三上に、止めたい気持ちとやるせない憤りに混乱する。そして彼は「呑み込み」何事もなく一日を仕事を終えた。

この介護職員たちの言動について、どう解釈するだろうか?障害者や前科者を就労させることで経営者は補助金を得るという、明らかに不満げな様子だ。障害のある彼の仕草を面白おかしく真似をし皆で笑う。酷い場面である。でも、直ぐそのあとに自分の部屋が分からなくなった利用者を優しく介助する場面が差し込まれる。分かるだろうか?彼らも真っ直ぐに仕事に従事しているのだ。

介護現場は外から見るよりもかなりハードだ。相手が高齢者で認知機能が衰えていたとしても、一個人として対応する必要があるので、暴力はもとより拘束などもむやみに出来ない。たとえ相手から傷つけられることがあっても耐えて仕事を全うするのが介護施設職員なのだ。

主人公側から見て「可哀そう」とか「あいつが悪い」とか思ってしまうのは仕方ないが、この世は簡単に善悪を分けることが出来ない。誰かの悪は誰かの正義だったりする。

私たちの心にいろんなモヤモヤを残したまま三上はこの世を去る。葛藤や後悔がとめどなく存在するこの世の中だけど、やっぱり人生は素晴らしいと思いたい。

Life is beautiful ~すばらしき世界

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