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インドネシアの首都移転プロジェクト

2022年、インドネシアでは「首都移転プロジェクト」が始まります。インドネシアの現在の首都は、ジャワ島西部に位置するジャカルタですが、新しい首都は、カリマンタン島。ジャカルタから約1200キロ離れた場所です。

首都移転先はカリマンタン

首都が移転する場所は、現在は森です。ジャカルタからはかなり離れていますし、オランウータンが住む森と地下資源があるくらいで、観光地もないので、現在首都圏に住んでいる多くの人にとっては、ほとんどなじみがありません。

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(新首都建設予定地を視察するジョコ・ウィドド大統領(写真左)
Harapan Jokowi Terhadap Ibu Kota Baru di Penajam Paser Utara, Kalimantan Timur

それで、首都建設予定地について、政治家が「tempat jin buang anak(幽霊が子供を捨てる場所)」と発言したことがSNSで炎上しています。慣用表現とはいえ政治家がこんな発言をするのは良くありません。とはいえ、都市部の住民からすると、そういう認識の地域だということなのでしょう。

それでも、各種世論調査では、インドネシア全体では50%前後の人がこの首都移転に賛成しているのだとか。現在首都圏に住む人にとっては「劣悪な生活環境が改善されるかもしれない」という期待が持てること、地方に住む人にとっては「今まで置き去りにされていた地方の経済が発展するかもしれない」という期待が持てることが、主な理由のようです。

実際、ジャカルタ近郊の住民たちは、慢性的な渋滞や洪水、地盤沈下に悩まされています。知人からも「渋滞が解消するなら歓迎」「ジャカルタは過密でうんざり」という声が聞かれました。

また、ジャカルタがジャワ島西部に位置し、人口も政府機能も経済も一極集中だったため、ジャワ島とそれ以外の島々のインフラの格差には、すさまじいものがあります。ですから、「生活が少しでも便利になるなら」と新首都を歓迎するカリマンタンおよび周辺の島々の人々が多いことにも納得がいきます。建設ラッシュが訪れることは必至ですから、雇用機会の創出にもなるでしょう。

新首都の名称は「ヌサンタラ」

さて、首都移転の是非とは別に話題となっているのが、新首都の名称「Nusantara(ヌサンタラ)」です。

ヌサンタラは元々「群島」を意味する古い言葉で、現在ではインドネシアの国土や人々全体を指す言葉として使われます。これについても賛否両論あるようで、「インドネシアそのものを意味する単語で、首都の名前としてふさわしい」という意見もあれば、「多くの島々を指す、しかも元々ある単語を1つの都市の名前にするのには違和感がある。もっとユニークな名前の方が良い」という意見もあります。さらに語源やインドネシアの歴史に目を向ければ、もっと深く議論できるテーマであるようです。

首都移転プロジェクトの問題点とは

インドネシアの首都移転プロジェクトには、もちろん問題点もあります。

例えば、費用を国費では賄いきれないということ。外国から借金をした場合、返済できるのかという不安や、首都を移転することにお金を使うくらいなら、もっと優先すべき課題があるだろうという不満を漏らす人もいます。

他に、カリマンタンの森林を破壊することや現地の人々の土地を奪うことへの心配、何度となく白紙撤回されてきた首都移転計画が、今さら実現するのかどうかという疑問、そして首都機能移転に伴って予想される種々の混乱への不安もあります。新首都を迎える側の住民にも、首都と共に移住しないといけない立場の人にも、きっと心配や苦労があることでしょう。同じインドネシア人とはいえ、意見はもちろん様々です。

ただ、不安ばかりでもなく、「ジャカルタは「旧都」となり、経済の中心地としてにぎわい続け、新首都と共に二大都市圏を築けるだろう」という楽観的な希望を述べる人もいます。

インドネシアの首都移転プロジェクト。本当に、できるのでしょうか・・?


執筆:鈴木理美

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【参考・トップ画像】
ジャカルタからジャングルへ…インドネシア「首都移転狂騒曲」に潜む現実的な問題点
インドネシアはなぜ「幽霊が出そうな」僻地に新首都を建設しようとしているのか

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