特許は叩くと固くなるのか?

特許は叩くと固くなるという実しやかな噂がある。
例えば、情報提供による権利化阻止に失敗し、特許権が成立した場合、又は異議申立による特許権の取消を狙ったが特許権が生き残った場合、特許権が潰しづらくなり、かえって困るといった話しである。
元審判官等の特許庁の出身の先生で、審判部内で維持決定された事件について、無効にはしにくいよね…といった話しを伺ったこともあるので、まんざら嘘ではない可能性も…?

しかしながら、これらの権利化阻止手段及び権利取消手段が無効審判に影響を与えるかは検討されていない。
ということで、情報提供及び異議申立の少なくとも一方が行なわれ、かつその後に無効審判請求が行なわれた事件を抽出して検証してみた。
母集団は、異議申立制度が導入された年以後(正確には、2015/4/1施行)に登録日を有する特許権において、無効審判が請求された事件を対象とした。

・母集団の抽出
・・検索式:1*2*3
  検索条件1:(出願日)20020101以後 
  検索条件2:(登録日)20150101以後
  検索条件3:(無効審判)有 
・・調査日:2022/04/06
・・検索結果:ヒット件数:282件

抽出され事件のうち、審決が確定している事件または審判が取下げられている事件の内訳は以下のとおりであった。

・事件結果の分類(審決確定分)
 請求不成立:95件
 請求成立(一部成立、対象請求項全削除による審判却下を含む):24件
 審判請求取下:49件

請求成立事件及び請求不成立事件について、情報提供及び異議申立の有無を確認し、情報提供の有無及び異議申立の有無で、成立・不成立の件数を集計し、請求成立審決及び請求不成立審決の割合を算出した。

表に示すように、情報提供又は異議申立が行なわれた事件では、請求成立の割合が、いずれも行なわれていない事件と同程度であり、数値上は、いずれを行なっても特許の固さは大きくは変わっていなかった。
他方、情報提供及び異議申立の両者が行なわれている事件では、面白いことに、他群と比較して請求成立の割合が高く、特許が柔らかくなっていた。しつこく権利化阻止及び取消を図る事件については、権利化阻止及び取消に失敗した理由を分析し、無効審判請求に反映している可能性が考えられるため、この点はさらなる検討が必要である。

巷でいわれているように、特許を叩くと固くなるということはなさそうである。無効資料の善し悪しは精査する必要があるが、特許が固くなるとして情報提供及び異議申立をためらう理由は(費用がかさむことを除けば)ないといえるだろう。

なお、無効審判で判断がひっくり返った事件と、判断がひっくり返らなかった事件との違いについては、現在分析中である。

(作成日:2022/04/19)

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