カタカナTシャツが若者に売れるワケ。

<<前提となる産業的・文化的視点>>

2015年頃から、ハイブランド(carven/A.P.C/Guess/agnes b./coach...)がこぞってカタカナを利用したため、国内ブランドやセレクトショップがオリジナル商品を制作し追随した。日本のファッションのトレンド市場では、しばしば、このような流れでモノが流行します。

■ハイブランドにおけるカタカナ使用

ハイブランドにおける日本語やカタカナアイテムの流行は、2015年前後から継続的に見受けられました。火付け役となったのは、CARVENウィメンズの2015ssシーズン(https://www.fashion-press.net/collections/3471 [FASHION PRESS CARVEN 2015SS])。胸元に赤字で書かれた「カルヴェン」という文字が非常に印象的でした。(添付写真:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/12924/224491より)

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これまでも、日本語や漢字は、ファッションシーンに限らず欧米でも一定の支持がありましたが、ここに来て初めて、カタカナという新たな日本語が発見され、ファッションのメインストリームで、クローズアップされることとなりました。かつて、英語がかっこいい言語・文字として日本に入ってきたのと同様に、今後、ひらがなや漢字に加えて、カタカナが"cool"なものとして、海外でより一層受け入れられるようになるかもしれません。

■アニメ・マンガ文化の浸透による、カタカナという新たなジャポニズム

また、カタカナ文字が発見された背景として、日本のアニメ・マンガ文化の浸透が挙げられるのではないでしょうか。日本のアニメ・マンガは、欧米でも広く浸透しており、"侍"や"茶"と並ぶ日本文化の象徴のひとつとなっています。若者を中心に、絵やストーリーだけでなく、そこで使われる日本語にも馴染みが出てきているのではないでしょうか。たとえば、「かわいい(kawaii)」という言葉も、すでにグローバルで通じる言葉となりつつあり、Instagramでも、「#kawaii」というハッシュタグは、アニメやファッションの文脈で、4000万件近く投稿されています(2019年9月現在)。カタカナは、マンガの中で、擬音語や擬態語としても多用されており、そのことがカタカナが知られる一つのきっかけであると考えられます。


<<生活者・日本の若者視点>>

カタカナTシャツが求められている理由は、まずはじめに「新規性」が挙げられます。「こんな場所にこんなものがあった」と、その新しい小さな発見をメインストリームに押し上げて、トレンドを作り上げてしまう、ファッション業界お得意の習慣によるとも考えられます。
しかし、カタカナが若者に受け入られる背景には、この時代ならではの理由が隠されていると、筆者は考えます。ここからは、カタカナTシャツ流行の背景を、現代の若者の視点から考えてみたいと思います。

■「レトロがかわいい」

2016年ごろからブームとなった写ルンですや、チェキ、そして、現在流行してる、ラジカセやレコード、などにも見られるように、若者の間でレトロ回帰が進んでおり、「レトロなもの=かわいい」と感じる若者の数は増加傾向にあります。カタカナTシャツが「かわいい」と支持される背景には、大正から昭和初期の広告にあるようなカタカナの書体や表記を、「レトロ=かわいい・センスがいい」と感じるからではないでしょうか。

■「ダサいがおしゃれ」

Balenciaga(バレンシアガ)のダッドスニーカーや、Vetments(ヴェトモン)のエクストリームシルエットの流行にもみられるように、「”わかりやすくスタイリッシュなもの”とは逆のもの」、ともすれば「"ダサい"と見えかねないもの」を上手くスタイリングに取り入れることが、現在のファッションのメインストリームに入り込んで来ています。
近年の若者は、「オシャレかオシャレじゃないか」「スタイリッシュかスタイリッシュじゃないか」といったファッションにおける既存の概念・観念で判断されることを嫌がり、大人たちの古いゲームから離れ、自分がどう感じるのかをより大切にするようになってきていると考えられます。サイズの概念やオシャレかそうじゃないかという観念を超越しているところに、今っぽさがあるのではないでしょうか。
カタカナは、英語の表記に比べて「スタイリッシュでない」からこそ惹かれ、カタカナの、少しダサくてかわいいルックスが、今の若者の気分にぴったりマッチしているのではないかと考えられます。

■「シュールさがタイムラインで際立つ」

未だ、英語の書かれたTシャツが世の中の大半を占める中で、カタカナが胸元に大きく書かれていることには、シュールさや異質性が伴います。
SNS全盛で膨大な情報量の中で生活する現代、インパクトや異質性がないと、タイムラインに出ても、その情報は一瞬で埋もれ、見流されてしまいます。Instagramのストーリーズや、TikTokでは、変顔や、シュールな画像が好んであげられているように、そうしたものでないとSNS上では生き残っていくことはできません。
実際、ファッッション写真においても、先ほど述べたBalenciagaやVetmentsに代表されるように、異質なポージングや誇張されすぎた身体表現の流れがあり、現代ならではのムーブメントの一つとなっています。(参考:https://imaonline.jp/articles/bookreview/20180815posturing/#page-2 [IMA - Book Review Holly Hay & Shonagh Marshall]/ 添付写真:同サイトより)

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また、SNS文化の中で育った現代の若者は、昔に比べ、自己表現や自分の立場をはっきりと主張することに慣れてきていることも一因であると考えられます。誰にでも伝わりやすい内容とシュールな見た目を兼ね備えているカタカナTシャツが、SNS上での態度表明やコミュニケーションのネタとして機能しているのではないでしょうか。

■「”外国への憧れ”から、”外国人感覚”へと移行する若者」

「カタカナ=外国人が使う日本語」と捉え、カタカナTシャツが、”外国人感覚を持った私”を表現するツールとして機能しているのではないでしょうか。
多くの若者は、youtubeやNetflixなどを通じて、海外のコンテンツにも慣れ親しんでいます。そのことから、単純に、「"英語がわかること、英語で表現すること"がスタイリッシュでかっこいい」という旧来の感覚から、「"(日本人であることをわきまえながらも)外国人の視点を持っている、理解している。下手に英語かぶれではない"ということがかっこいい」という感覚へ変化しているのではないでしょうか。外国人と同じような視点で、カタカナや日本語を魅力的だと再認識できる点が、現代の若者の感覚であると考えられます。


最後に

今回は、若者の間でブームを迎えているカタカナTシャツに注目して、その背景に潜む要因を考えてみました。それぞれの視点から、綺麗で整えられたもの、秩序、予定調和な世界から回避・逸脱を試みる若者の心理が見えてきたように思います。最後までお読み頂きありがとうございました。

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