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あの頃のドイツはどこへ〜最大のクライシス〜(後編) サッカーのお話#7

※こちらは、先日書いたNoteの後編です。
先にそちらをお読みになった上でこちらを読むことを推奨します。


ゲルマン魂が消えた理由

ここからは、ゲルマン魂が失われるに至った理由を考察していこう。
考えるに、以下の3つが上げられると思う。

1.Pep招聘の光と影
2.移民増加によるドイツ人の欠如
3.国内リーグの競争力低下

これらの要因をもう少し深掘りしてみよう。

1.Pep招聘の光と影

Pepとは、誰もが知っている稀代の変人でManchester Cityを欧州1のクラブに育て上げた誰もが認める名将である。
彼は戦術好きで、ことあるたびに新しい戦術を生み出しては世界を驚かす。彼の影響力はサッカー界では絶大で、彼に魅せられたサッカーファンは五万といる。
そんな彼が名を上げたのはBarcelona時代のTiki-Taka戦術であって彼がBarcelonaの指揮官を退いた後、次なる職場として選んだのはドイツの名門Bayern Münchenであった。
Bayern Münchenは言わずと知れた世界的名門であってドイツで現在11連覇中の最強クラブである。FCBの調子はドイツの代表の調子と言われるほど、両者の関係は密接である。そんな世界最強のFCBがCL優勝後、さらにチームをアップデートするべく招聘したのが彼であった。
当時、ドイツのサッカーは全盛期でありCL決勝をBundesligaの2チームが戦っていた。
Pepは、バイエルンにポゼッション戦術をもたらし、縦に速いドイツ特有のサッカーにボール保持という新たな要素が加わった。間違えなくドイツサッカーが発展し、新たなステージに足を踏み入れることを誰もが信じて疑わなかった。誰もが光を見たし、光を目指してドイツは着実に進歩しているはずだった。しかし、結果としてはFCBはその期間にCLを獲得できず、BundesligaのサッカーチームはCLの決勝に足を踏み入れることすらできなかった。
そして、最悪の事態を招いてしまった。
それこそが、ドイツ人の個性、つまり「ゲルマン魂」を殺したことである。
Pepの師匠的存在と言えるManuel Lilloはかつてインタビューでこのようなことを述べている。
「ポジショナルプレーの敗北」
今ではマンCが欧州を獲り、世界一のクラブとされる。だからこそ、ほとんどの人々にはこれを疑問に思う人がいるだろう。
彼が言いたかったことを簡潔にすると
「ポジショナルプレーの影響によりマシーンのような選手は増えたが、スーパーな選手は生まれなくなってしまった。」
ということである。
ここで注目したいのは、WirtzやMusialaのようなスーパーな選手ではなく、マシーンのような選手が増えてしまったということ。
そう、これこそがドイツ人の気質を消した一つの要因だと考える。
つまり、Pepの影響によってドイツ人的なファイターサッカーは綺麗で秩序の保たれたサッカーに変貌してしまったのだと思う。
Lilloの言う「ポジショナルプレーの敗北」、時流に迎合したドイツ人はサッカートレンドの敗北者になってしまったような気がする。

2.移民増加によるドイツ人の欠如

ドイツは移民を受け入れることによって、今までにはなかった身体能力を手にした。
そして、移民系の選手がいなければW杯も優勝を成し遂げることは不可能だった。
これ自体は間違えないし、サッカーのフィジカル化が進んでいる昨今ではとりわけアフリカ系移民の身体能力ほど喉から手が出るほど欲しくなる能力はないだろう。
現に現在のドイツ代表にはRüdigerやSané、Gnabryなど、かつてはBoatengなど過去と比べて格段にアフリカにルーツを持った選手が増えた。
他にも戦後のガストアルバイターの影響でドイツに流入してきたアラブ・トルコ系にルーツを持つGündoğanやÖzilのような選手も主力としてドイツ代表を引っ張ってきた。
彼らのおかげで勝てた試合も少なくなく、彼らがタイトルをもたらしてきたのは間違えないと思う。
しかし、その反面確実にドイツ人的なメンタリティは失われてきていると思う。先日も書いたが、Rüdigerの挑発走りやSanéの愚行などはドイツ人的メンタリティを持った選手に起こりえないことだった。
チームが最終的に勝つということよりも、自分の気持ちを優先してしまうような選手が多くなってしまったように見える。
特に、この傾向はアフリカ系の人種には多く見られる傾向のように思える。自分の知り合いのアフリカ系の人はとても陽気で、とても話していて面白い人間が多く、一緒にいても楽しいことが多い反面、彼らは自分の感情で行動してしまう節があるので関わり方は難しい。
また、集中力が低い傾向にもあるように感じる。
チームの規律を重んじ、コミットを高めるサッカーをしているドイツには確実に良い影響をもたらしていないように感じる。

3.国内リーグの競争力の低下

やはり、Bundesligaの競争力の低下はドイツサッカーの衰退を語る上で避けては通れないだろう。
誰もが知っているBayern München、ドイツの絶対的王者で11連覇という偉業を4大リーグとされている内の一つのリーグで成し遂げている。
今シーズンこそ、Bayer Leverkusenは安定していて、今シーズンのBayernの最大のライバルの最右翼となっているが、彼らにしろBorussia DortmundやRB Leipzigなどのライバルは継続して強いというチームはない。
また、昨シーズンや18-19シーズンなどFCBに問題があったシーズンは連覇中に何シーズンかあったはずであった。しかし、そのチャンスを不意にしてしまうのがFCBのライバルたちであって彼らの勝負強く無さも競争力低下の要因になっている。
よくこの手の話題で挙げられる話として、FCBが国内のチームから選手を強奪するというものがある。しかし、国内での移籍は他のリーグでも多いので、さほど競争力低下につながっているとは思わないし、むしろトップスター選手をリーグ内に保持するということは大切なので国内リーグの質の低下には大きく影響していないと思う。
しかし、FCB以外のチームの主力選手はステップアップで国外へ移籍してしまう。これこそが、ライバルチームが高い水準で安定させることができていない要因であり、Bundesligaの人気低下、ひいては競争力の低下をまねていると思う。
しかし、これが問題になっていたとしても今すぐに解決できる話ではない確実にない。
Bundesligaは、健全経営で有名なリーグであって赤字を出すことを許さない。常に収支の監査が入り、赤字を計上した場合は返済プランなどきめ細かい規定をクリアしない限りクラブの存続は厳しくなってしまう。
また、チームが誰のためにあるのかという考えの元、「50+1ルール」というクラブ経営に関するルールが存在し、サッカー界でトレンドの外資的資本が経営に入ることやオーナーシップを一人の大富豪によって握られるということは防がれている。そのため、他のリーグ、特に世界一のリーグであるPremialegueと比較してもクラブ規模は圧倒的に小さくなってしまっている。このスモールクラブとしての経営方針を取らなければならない、Bullを除いたライバルたちが継続的に強豪であり続けて、主力を自チームにとどめながらFCBと競争していくのは残念ながらなかなか難しい問題となっている。
これらの様々な要因の元、国内競争力が低下してしまっている。

ドイツが失ったものを取り戻すために

かつてドイツがEUROで敗退した以後、育成改革を懸命に行った。
結果、ドイツはW杯優勝にまで登り詰めた。しかし、そこに至るまでは10年以上単位の長い年月があった。育成改革を行った世代が20歳以上くらいになって初めて時代の興隆を迎えるはずである。
今回のクライシスを経て、DFBが育成改革に踏み切るのかどうかよくわからないが、確実にドイツは何らかの動きをするはずだ。(しかも、育成改革を行ったとしても自国開催のEUROには間に合わないしね。)
俺の知るドイツは、何度倒れても、何度ぶん殴られても立ち直り、最終的には相手を殴り返して最後の最後にチャンピオンになるチーム。
決して綺麗な殴り合いは求めておらず、むしろドイツらしく泥臭く殴り合ってほしいと思う。
「最後にドイツが勝つ」「勝ったものが強い」と言ってきた、ゲルマン民族たちが自国開催に向けてどのような動きをするか興味深い。
このままでは終わらない。それがドイツという国だと信じたい。
俺が魅せられたのは、そんな国だったから。

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