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【俺の好きなレコードの事を書くパート1】Boz Scaggs / Boz Scaggs

  最近よく、色々な人に「アンタ、文章で色んなことを書いて発表したら?」なんて事を言われる。noteでは翻訳は別としてワタさんの最新アルバムを書いただけで、書いたら?と言われても特に書くことは無いのだけど、面白そうなんで文章をしたためようと思う。

 シリーズ的なものを作っていくかはわからないですが、好きなレコードについて書いてみよう。第一回はボズ・スキャッグスのセカンドアルバム「Boz Scaggs」について書いてみよう。

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 ボズ・スキャッグスといえば、大ヒット作Silk Degrees(1976年)が代表作としてAORを代表するアルバムとして未だ揺るがないが、このアルバムは1969年ボズがスティーブ・ミラー・バンドから独立して再びソロアーティストとして活動して最初のアルバムであり駆け出しと言える時期のアルバムです。

 ボズは、リズム&ブルースがルーツにあるミュージシャンで、このアルバムでは60年代後半のリズム&ブルースやソウル・ミュージックのフレイバーとカントリー・ミュージックからの影響がとても色濃く、後にルーツを洗礼させ都会的なサウンドでヒットした時期とは違った泥臭くむき出しのセンスが心を躍らせるアルバムになっています。

 ルーツにリズム&ブルースがあると書きましたが、このアルバムがレコーディングされた【場所】こそがそれを象徴しているかもしれません。
アレサ・フランクリン、エタ・ジェイムズ、ソロモン・バーク、ウィルソン・ピケット、クラレンス・カーター等、数々のソウル・ミュージックのレジェンドが名曲名演をレコーディングしてきたアラバマ州北部のマッスル・ショールズでの録音で、スタジオはマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオが使用されました。
このスタジオのハウス・バンドこそ前述のソウル・レジェンド達の名曲名演で演奏しソウル・ミュージック、R&Bという音楽ジャンルを作ったと言っても大げさで無いメンバーです。このスタジオ、地域に関しては映画「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」というドキュメンタリーに詳しく描かれています。

 このアルバムは、I'm Easyという曲で幕を開けます。機関車が駅を出発してこのアルバムという旅の始まりを感じさせるミドルテンポながら力強く蒸気機関車が失踪する雰囲気があります。
この曲の空気感、まさにアラン・トゥーサンのLast Trainやリトル・フィートのTwo Trainsと似たビートを持っています。もっともボズの曲の方がリリースが早いのですがニューオリンズR&Bマナーと言えるファンキーな演奏はジワジワと迫る高揚感がありますね。

 2曲目のI'll Be Long Goneでは、先ほどのファンキーでジワジワと熱い演奏とは打って変わってハモンドオルガンの演奏に導かれ静かに曲が始まります。歌の合いの手のようになるトランペットもムーディーですが、なにより跳ねたハイハットを刻み続けるドラム、最初のサビでパッと明るい雰囲気になだれ込むアレンジ、ゴスペルライクなコーラスがこの曲をただのジャズ色の濃いR&Bだけで終わらせていないのです。

 Another Day (Another Letter)はメロウなピアノバラードの趣を持っていますが、歌の後ろで効果的に演奏されるワウギター(演奏はデュアン・オールマンでしょうか?)の細かさが流石です。徐々に盛り上がるホーンセクションの素晴らしさ、フェイドアウトも完璧なバラードです。

 R&Bライクな曲が3曲続きましたが、Now You're Goneはカントリーミュージックのテイストが強くトゥワンギーなスライドギター、物悲しいフィドルの演奏が目立ちますが、ボズのカントリーな歌唱の素晴らしいテクニックも堪能できます。

 Finding Herイントロのピアノに導かれ、デュアン・オールマンのスライドが絶妙なフォーキーな曲です。マイナーキーで半音づつ下がっていくようなコード進行の曲は私の大好きなコード進行で、少しヨーロッパを感じる曲ですが、録音場所の影響でしょうか?湿っぽくならずカラッとしています。

 アナログ・レコードですと、A面最後にあたるLook What I Gotは、第一幕を締めくくる雰囲気をもったソウル・バラードですが、デュアン・オールマンの引くドブロ・ギターでのスライドがカントリー・ミュージックのフレイバーとなりフォーキーなメロディを持ったカントリー・ソウル(今作った言葉です)となっています。ボズの持つ様々なルーツ音楽を混ぜ合わせたと言えるかもしれません。

 ターンテーブルのレコードをひっくり返してB面を再生しましょう。
I'm Easyの話を書いた時に機関車、2組のアーティストのTrainのつく曲名に触れましたが、このWaiting for a Trainはのんびりと鉄道を待つようなブルーグラスな曲調です。ヨーデル歌唱も飛び出し、はっぴいえんどの空色のくれよんと似た雰囲気を持つグッドタイムミュージックだと思います。

 このアルバムのハイライトとなるLoan Me a Dime。フェントン・ロビンソンというブルースマンの曲をカバーしたものですが、12分30秒に及ぶ熱い演奏が記録されています。長尺のブルースロックと言えるかもしれませんが、ソングライターボズのオリジナル曲での自然体の歌唱とは違いヒリヒリとした肌触り、デュアン・オールマンの超絶なブルースギターと対になる緊張感が深く味わい深いです。そういえばこのアルバムの邦題は「ボズ・スキャッグス&デュアン・オールマン」と名付けられていましたね。
 もちろん歌とギターを支えるリズム・セクションの素晴らしさも目を見張ります。ベースのデヴィット・フッド、ドラムのロジャー・ホーキンスは後にジャムバンドと化したTraffcに加入してその腕前を存分に発揮していましたね。

 アルバムの最後のトラックは、アコースティックギターのアルペジオに導かれボズが熱く歌うSweet Releaseです。メロディの良さが耳に残ります。コーラス隊の歌をバックにデュアン・オールマンのギターソロとともにフェイドアウト、まるで過ぎ去る機関車を見送るようにアルバムは幕を閉じます。

 所謂ソングライターがアメリカ音楽のルーツを下敷きにサウンドを繰り広げていると言える作品ですが、聴けば聴くほどその良さが深まるアルバムですし、現代のささくれ、汚れ一つも許されないような潔癖さをもった音楽が好きな人もこの「揺れ」が良さというの風に感じられるのではないでしょうか?

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