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ボブ・ディランさんへ

ボブ・ディランさんへ
ぼくは、14歳の時にあなたに遭遇しました。
ビートルズに狂っていたぼくは、当時少しブルージーな表情をした面々がジャケットに登場し印象的なビートルズ・フォー・セールというアルバムがお気に入りで、フォーキーなサウンドとカントリーなリズムがなんとも自分にフィットしていたのです。
ジョン・レノンさんがあなたの影響を受けサングラスや同じ様な帽子を身に付けハーモニカ・ホルダーを使っていたというのは後から知るハナシですが、サウンドや言葉がディランしていると知り、あなたが気になって仕方がなかったのです。
"ディラン"という言葉に何かマジックがある様な気がしてたまりません。
ビートルズのビデオに「はげしい雨が降る」の映像がありましたが、白黒の映像や短い髪からビートルズよりも前のシブい人かと思ったし、同時期に聴いたフリーホイーリン・ボブ・ディランもアコースティック・ギターとハープ、そしてあのシブい声、ヒット曲で代表曲の「風に吹かれて」でさえ、自分が聴いてきた英国のロックバンドとの違いにビビったものです。ザ・フーやレッド・ツェッペリンの様なラウドなロックやストーンズの様なセクシーなブルースロックともギター一本で互角なインパクトは強烈であったわけです。
でもあなたは、まだ22歳だったのですね。
そして当時のガールフレンドのスーズ・ロトロさんとセルフ"フライデー"写真まで掲載し、ジョン・レノンさんが後にヨーコさんとやった事の元ネタだな、とピィーンときましたよ。
あまりにシブいのでぼくは、通ぶって「やっぱ、ディランだよ。」なんて言ったり、様々なあなたの楽曲をカバーした曲を聴いては「ディランのバージョンのがいいね!」なんて言っていましたがまだ、それほど熱心に聴いてはいませんでした。
いやらしいもんで、ぼくは17歳高校3年の最後の文化祭であなたの「見張塔からずっと」を1人で演奏して歌いました。ぼくが入っていた部活はフォークソング部という名前だったので「フォークソング部なのに誰もフォークソングやらないんでディランやります。」とゆずなんか演っていた後輩に嫌味を言いつつやりました。嫌な奴です。人のせいにする訳ではないですが、こういう嫌な言動もあなたの影響です。
でもよく考えたらこの曲、もうあなたがフォークの貴公子というレッテルから抜けフォークソング以外の音楽に幅を広げロックの可能性の中で名作を作っていた頃の曲ですね。あなたに関係なく僕はただの嫌な奴でしたね。あなたのせいにしてすみません。

18歳になってモテたくてブリンギング・イット・オール・バック・ホームを買いました。
このアルバム・ジャケットにもスーズさんとは違う女性が登場していましたし、こちらを睨むあなたの目つきやちょっと哲学的で小難しそうな感じがカッコよかったのです。
モテませんでしたがまんまとディラン熱にかかり、さらに同じ頃観た映画ノー・ディレクション・ホームでのマンチェスターで演奏されたライク・ア・ローリング・ストーンのライブ映像であなたはパンク・ロックよりもパワフルに裏切り者と叫ぶ観客を煽り戦う様に嵐の様に演奏する姿に惚れ、あなたは、ぼくのヒーローの一人になったのです。
直ぐにヘア・ジェルを買い髪の毛をあなたみたいにしようとしましたが、上手くできませんでした。ので日本に帰ってきて直ぐにブロンド・オン・ブロンドのジャケット写真をもって美容室へ行きパーマをあてました。
数々あるアルバムを聴く度に「これも名盤か!」と思わせられてきました、「もうこの時期のは聴かなくても良いかな?」と思いつつ忘れた頃に聴くと、やっぱりあなたの素晴らしさに驚くのです。
なので、あなたが来日すると聞きましたけど、最近は昔の曲も昔の様には歌わないしギターも弾いていないと言うではないですか、なので、期待とは違う思いがありましたが、なんという事でしょう!
あなたこそが20世紀のポピュラーミュージックだったのですね。20世紀の音楽の巨大な木の様な、はたまた黄泉の音楽でした。
それを生きているあなたが現代にステージで表現する様は、ただただこの時間を体験し続けていたい。そんな思いでした。
思えば最新作もそんなアルバムですもんね。
そしてぼくが求める理想のサウンド一つが自分の骨に染み、あなたの声が気持ち振るわせ、我が道を行くの様な60年代の曲も今のフィールで演奏されて、僕は鼻の奥がツーンとなりましたし、最後に演奏なされたエヴリィ・グレイン・オブ・サンドでの強烈なハープについ涙ぐんでしまいました。
あなたがあの時間あの場所で音と空気、世界を支配し音楽そのものとなっていたように感じます。出音も素晴らしく、予定調和のない、過剰な演出が全くないステージやライティングも音楽そのもの何かを問いただしていたように、ぼくは受けました。
一昨日やったデッドのカバーはやらなくて残念でしたが、最新アルバムからキー・ウェストが最高だったのでOKです。でも途中で止めたBrokedown Palaceちゃんと聴きたかったな。
36年生きてて一番心にフィットするコンサートでしたよ。
少しだけ今の細野さんのバンドと方向性同じだなと思いましたけど。

あなたに会ったら聞いてみたい事がたくさんあります。キッスの真似をして白塗りをしてみた時の気分、スーズさんと別れて「くよくよするなよ」を書いた時の事、ぼくは言葉と音楽の組み合わせの素敵さこそがあなたの唯一無二な所だと常々思うので、文学としてあなたを担いだ権威的なアワードに大して沈黙していたあなたがカッコいいと思いましたけど、その本心。
ぼくは今、あなたが初めて日本でツアーをした時と同い年です、アルバムで言えばストリート・リーガルや武道館をあなたが作った時期です。この後の歳を重ね、人生の時計を進めるというのはどう言う事なのでしょうか?

15歳の時にポール・マッカートニーを観ました。
19歳の時にザ・フーを観ました。
そして36歳でついにあなたを観ました、今までロンドンや東京で機会はありましたが、初めて観ました。
ぼくは今、たくさん大変な時期を過ごしていますが、あなたはフォーエバー・ヤングという曲でハードワークしろと歌っていますね。
今回のツアーもまさしくそう言うことなのでしょうね。

チケットを手に入れて数日、待ち遠しかった。こんなにライブの日が楽しみだったことは今までで一番です。
まるで10代の頃あなたに夢中になった頃の様にあなたの事で頭がいっぱいです。

ぼくは、未だに世の中を全て見透かしている様なあなたの目つきの様になりたいと思っています。

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