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評価値表示が嫌い

将棋ソフトによるリアルタイム評価値表示が嫌いだ。日に日に嫌悪感が強まっている。

将棋連盟ライブ中継アプリはもちろん、ほとんどの動画中継、NHK杯、そしてついにはAbemaトーナメントでも評価値が出るようになった。評価値のお陰で将棋を指さない将棋ファン(観る将)にも現在の形勢が伝わりやすく、将棋を観戦するハードルを下げている。それでも評価値が嫌いだ。

将棋ソフトによる評価値は、将棋としての正しい形勢判断を表す指標の一つではあるが、必ずしも人間の形勢判断を表しているものではない。評価値表示は野球のスコアと同様のように語られることもあるが、それは違う。対局を観戦するということは、まず対局者がその局面をどのように見ているかが重要だ。将棋ソフトによる評価値はそれを表していない。将棋ソフトによる評価値を正とすることが将棋観戦の土壌となってしまうのは誰も幸せになれないのではないか。戦っているのは人間だ。

先日、解説無しの中継であるが、動画のコメント欄を見てみると評価値がどう動いたのみならず、正解(第一候補手)を指さなかった、マスクを外したというようなコメントがたくさん流れており、はっきり言って地獄のようだった。それは対局を観戦していると言えるのだろうか。対局室、対局者のピリピリした空気が映像で流れているのに、そういうところがまるで伝わっていない。

私みたいな素人だと、解説があって初めてプロの将棋を楽しめる部分があるのは間違いない。解説の役割は非常に大きい。逆に言うと解説が無いと楽しめない。自分なりに楽しもうとはするが、解説の有無によって観戦の満足度は大きく異なる。解説によって手の意味が分かるようになるのはもちろん、対局者の心理に近づくことができる。だから対局者心理に触れない解説は面白くない。そういう意味で藤井九段の解説は秀逸だ。ただ、当然全局、すべての時間を通して解説をつけるのは難しい。だから将棋ソフト評価値が参考情報として必要になる。評価値が嫌いな私でも、『藤井猛全局集』で藤井九段の棋譜を並べた後は評価値を参考にしている。

しかし豊富な解説があれば、将棋ソフトによる評価値は不要だ。先日「囲碁将棋TV」で行われた名人戦第1局の中継では「人力評価値」が表示されており、これは秀逸だった。

評価値は常時形勢判断が可視化されている点だけでも優れている。解説がついているような中継や番組では、将棋ソフトではなく人間の形勢判断がもっと分かるようにならないだろうか。また、将棋連盟ライブ中継アプリでは、棋士の解説がもっと豊富に入るようにならないだろうか。

将棋ソフトによる評価値表示は、どうか最終手段であって欲しい。

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