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ステージ撮影のコツ

もうやらないと思っていた写真講座。
何故なら仕事での撮影や講座に、ボロボロになった身体が追いつかないと感じていたから、なのだけれど、諸々のしがらみで受ける事になってしまった。
 
実施するのは「ステージ撮影講座」
 
本格的なイベントの現場を撮る面白さや難しさを、実際に感じてもらう事を目的とした講座で、専門的な知識や経験が必要となるが、自分にとっては一番馴染みがありかつ経験も多い撮影なので、ある程度の知識がある人が失敗しないで撮るためのコツを教える事は容易いのだ。
 
ステージ撮影と言ってもその幅は広く、規模の大小、屋外・屋内の違い、機材の量、演目によっての制限等々、とにかく経験が物を言う撮影ではある。
なので、受けた講座は「実際の音楽イベントを撮影する」という事を主としていて、ステージ撮影で注意すべき点や撮影技術についての考え方や活用法をレクチャーし、撮影に同行してアドバイスし、提出された作品に講評する、というパターンで実施した。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO2000 f/3.5 1/6s 15mm

写真は、去年の講座の様子。
 ※今回は講座のみで、受講の様子は撮影はしていないため
 
実際に観客が入っている現場を撮影するチャンスは、普通は殆ど無い。
そもそも撮影がOKな有料イベントは少ないし、あっても知り合いのバンド等が「記録で撮って欲しい」と依頼された場合くらいだと思うので、出演者に撮影許諾を得て開催する講座抱き合わせイベントなんて、とても希有だと思う。
 
なので、撮影できるチャンスを与えるだけでも撮ってみたい人には価値があると思うが、どうせ撮るなら失敗しない方が楽しいし、私のノウハウを生かしてもらえるなら教え甲斐もある、と。
 
と言う事で、講座の中で伝えた撮影状のコツを、簡単にして紹介してみよう。
 
「露出はマニュル」(変化する明かりに惑わされない)
「記録はRaw」(色温度や露出調整の自由度を上げる)
「予測して早めにシャッター」 (準備の大切さ)
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」(連写)
「トリミングを恐れない」   (現像での可能性を認め、活かす)

簡単に言えば、この5つ。
 
ステージ上は特殊な明かりがあって、かつ演出によっては変化が激しい。
色温度や露出調整をオートにしておくと、演出に沿った舞台上の雰囲気とは違う写真になりやすく歩留まりが悪くなる。同時にシャッター速度が遅くなる様な照明だと手ブレも誘発しやすくなる。
 
なので「露出はマニュル」で調整するのを基本にする。
 
顔に当たる光は一定になる傾向があるので、露出基準は顔の明るさで決める。
また、色温度は演出意図を大事にするならタングステンなど電灯色に固定して、現像時に調整するのが、失敗が少ないやり方だ。
 
現像時に色や明るさを調整するなら、調整幅が圧倒的に広い「Rawデータ保存」が理想的。記録容量が小さいからと「jpeg保存」にしていると、現像時に画像全体に一律で加工しかできない事から美しい現像が難しくなる。
問題は、容量が大きく読み書きが早いメモリーカードが高価だって事なのだが、安価で性能の低いカードを使うと、どんなに良いカメラでも性能を発揮できないので、ケチってはいけない物だと認識して欲しい。

EOS 5DMarkⅣ SIGMA 14-24mm F2.8 DG HSM A
ISO1600 f/3.5 1/40s 20mm

マニュアル撮影時、感度はIS01600〜2000位が良好だと感じている。
高画素なカメラほどハイスピードシャッターが求められ、暗部のノイズを消すためには感度を上げすぎない事が求められるので、結果的には明るいレンズ使用でシャッター速度を稼ぐ必要がある。
 
この写真に使ったシグマの広角ズームにはスタビライザーがついていない。
超広角域では機材の重さがある程度あれば、1/30秒のシャッターでも手ブレを押さえ込むのは難しくないので、ISO1600でちょっと絞ったf/3.5でも1/40秒で切れたから、ご覧の通り手ブレ皆無で撮影できた。
シグマのアートシリーズは画質優先でレンズ径が大きい事から重量があり、それが手ブレ防止に役立っていると感じるが、如何せん重いので慣れと体力が必要なのが悩ましい。
EFの広角ズームはここまでの性能を出せないので多用してきたが、RF15-35mmはかなり優秀になった上にISまで付いているので、R5になってからはシグマの出番はかなり減ってしまったのは言うまでもない。
 
ステージ撮影においては、OVF(光学式ファインダー)の一眼レフカメラの方がステージの明るさよりファインダーが明るくなりやすいEVF(電子ビューファインダー)より有利な部分はある。
 
EVFの場合、芝居等暗転がよく使われる舞台においては目潰しになりやすく、機材によっては若干の遅れも気になる事もあるが、時代遅れとなりつつあるデジタル一眼レフカメラを使い続けるのは難しい今、その微妙な遅れには別のアプローチで対応する必要がある。
 
それは「予測と連写」
 
デジタルカメラはメモリーカード次第で連写の枚数がかなり多くできる事と、どうしてもシャッターを押してから実際に撮れるまでのタイムラグがある事から、予測して早めにシャッターを切る技術や、連写の中で最善を狙う技術が必要になる。

EOS R5 RF70-200mm F2.8L IS USM
ISO4000 f/3.5 1/250s 124mm

ドラムのスティックがちゃんと写る瞬間をミラーレスカメラの1枚撮りで撮る事できる人は、相当に遊手な予測撮影ができる人だろう。(私にはできません)
タイムラグが少ない機材はプロ・ハイアマチュア機になってしまいやすく、必然的に機材コストが上がってしまう。
加えて、ハイスピードシャッターで撮るためには、明るいレンズ(F2.8以上)であって欲しいので、レンズコストも上がりやすい。
 
なので、動きの速い演奏を捉えるためには、演奏のクセを見て動きを予測し早めにシャッターを切ってそのまま連写、というのが一番効率が良いのだ。

EOS R5 EF50mm F1.8 STM
ISO1600 f/1.8 1/125s

単焦点レンズなら明るいレンズでも安価になりやすいので、レンズ交換を苦にしない人なら、ズームではなく単焦点レンズを何本か持って撮るのも良いと思う。
 
客席に置かれた音声卓廻りの暗さはかなりのものだが、撒き餌レンズのEF50mm F1.8なら開放で1/125秒でシャッターが切れた。
このスピードなら、ボディ内ISがあるR5だったら手ブレを止める事は容易い。
 
「予測して撮る」には、シャッターチャンスの他に、被写体の可動域の予測も含まれる。
 
と言うのは、動きのある被写体全てが予測不能な動きを見せる事が多いからで、そんな動きをしても見せたい部分が全部写っているようにするには、被写体の可動域を予測して広めに捉えるしかない。
ちょっとルーズなサイズで撮れた写真は、後でトリミングして理想的な構図にすれば良いワケで、高画素化が進んでいるデジタルカメラなら多少のトリミングでの荒れは許容範囲に収まるはずだ。
 
だからトリミングを恐れる必要は無い。
但し、トリミングは視線(視点)誘導を意識して、撮影意図を考えて行わないと間抜けな写真になりやすい事も、注意すべき点だと言える。

トリミング前                  トリミング後

フライヤー(チラシ)用にこんな写真を撮るとして、演奏している事を意識させるために弦の揺れと弦を押さえる手を意識させるために、弾く手を切って視点を誘導した。
 
まだ、視線誘導をする手段としては、ほんの少しのトリミングで写真の意味が変わってしまうだけでなく、色情報をコントロールする事もまた有効と言える。

      撮影時のカラー            フィルムトーン処理 ilford Pan F Plus 50

顔の部分を強調するために、同系色のバックの色を排除して髪と顔のコントラストを強調する事で視線誘導を狙った。
 
勿論、これらの手法や考え方は、作品としての撮影・現像のためのもので、記録撮影となると、別に大事にするモノがある事を忘れてはならない。
 
それは「グループを撮る時は、全員の顔が写っていること」
 
1人1人の個別写真とグループの写真を数枚渡すとなると、グループ写真は全員の顔が見えないと写っていない人にとっては意味の無い写真になってしまう。
そのため、そのグループの個性が出てかつ全員の顔が写る1枚というのは、記録写真にとっては最重要だと考えるべきだ。

EOS R5 EF50mm F1.8 STM
ISO1600 f/3.2 1/200s

グループショットで、全員の顔が写る構図は間違いなくこの構図。
だけど、あまりにも正直過ぎでつまないカットになりがちで、記録としての意味はあっても、演奏した時の高揚感などは希薄になるので、押さえの1枚として撮ったら別確度で撮る方が望ましい。
なので、ステージサイドへ行って、この1枚を撮った。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO4000 f/3.5 1/200s 27mm

全員の顔が写っていて、演奏の雰囲気もそれなりに出ている。
こういった場合には、手前のギター奏者にピントを持ってくるとフルサイズセンサー機は被写界深度が浅いので、広角と言えどもかなり後ろがボケがちとなる。
なので、ボーカル辺りにピントを置いての撮影になった。
 
グループの記録としてはステージ全面の1枚と、このサイドからの1枚で十分だと思うが、グループの個性が乏しい1枚だと感じたので、こんな1枚も撮り加えた。

EOS R5 RF15-35mm F2.8L IS USM
ISO4000 f/3.5 1/200s 24mm

手前のギター奏者は辛うじて横顔だが、何かに隠れているワケではない。また奥のベース奏者もギターの左手が被っているけど、ちゃんと写っていて問題無い。
この派手なアクションが特徴的なバンドだったので狙っていたので、こっちの方が個人的には好きな1枚になった。
 
記録撮影だったら、後はそれぞれの1ショットを撮って終了となるのだが、講座では「テーマ」を設定しての撮影と提出を求めていたので、こういった全員が写ってる必要は無い。と言うか、極端に言えばプレーヤーが写ってなくても良いワケで、ひょっとしたら誰かは裏方ばっかり撮って組み写真にしてくれるんじゃないかと、ちょっとだけ期待していたりもする。

「リズム」

私が何となく「リズム」を意識して組んでみたもの。
 
プレーヤーの動きや物理的な構成の中で、リズムを伴って見て欲しいと考えてく組方なのだが、記録では無い撮影は自由で楽しい事を、久しぶりに思い出す撮影にもなっていた。
 
ステージ撮影は、夜景よりも派手で非日常的で、楽しいものだと思っている。
そして、撮りたいと思ってもそうそう撮れるチャンスがあるワケでは無い。
 
参加者の1人が「こんな楽しいイベントを見れる事を考えたら、参加費が安すぎるって思いました」と言っていたけど、横浜市の市民利用施設が文化事業としてやっているイベントなので、安価に文化活動の場を提供するのは大切な事。
なので、撮影とイベント参加の両方を楽しんでいただけたら、施設側としては幸甚なわけで、私も講師を受けた甲斐があったと喜べたのは言うまでも無い。
 
写真は趣味で好きなモノを撮って、好きな形でアウトプットできるのが最高だと思っているけど、非日常的なシーンが撮れるチャンスがアマチュアには殆ど訪れないのは残念だとも感じている。
 
そして、非日常なシーンを求めて旅に出ようと思ったりもするのだけど、旅先では撮影欲より食欲のが増してしまうのが・・・悩みのタネですね。

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