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探偵と名探偵と悪の話

小学校の卒業文集に、将来の夢として弁護士と書いた。社会科見学か何かで、裁判所を見学したときに、厳かな雰囲気に感銘を受けて、被告を守るような仕事に就けたらいいなと思ったからだ。

でもほんとうは、名探偵になりたかった。

名探偵に憧れるようになったのはいつの頃か覚えていないけれど、きっかけは覚えている。幼い頃に推理小説をよく読んでいたからだ。

青い鳥文庫に、はやみねかおる著「夢水清志郎シリーズ」がある。ボクはこのシリーズがとても好きだ。

主人公は中学生の三姉妹の長女の亜衣ちゃんだ。(ちなみに次女が真衣で三女が美衣だ。I、my、meからもじってる)

事件を解くのが夢水 清志郎(ゆめみず きよしろう)だ。論理学の元教授なので、あだ名は教授だ。特異な記憶力の持ち主で、何年生まれ、何歳、血液型などの基本情報は忘れているが、いざ事件を解決するとなると、誰もが見過ごした欠片を過去から集めてくる。

個人的に気に入っているのは、家に2つあるソファに名前を付けているところだ。美湖と美由という。なんで女性の名前なんだろうか。

どのタイトルなのかは忘れてしまったのだが、印象に残ってる夢水清志郎のセリフがある。うろ覚えなのであしからず。たしかこんな感じ。

「事件を解決するのが探偵、関わる人全員が幸せになるように事件を解決するのが名探偵」

あえて真実を暴かない選択肢を名探偵は持つことができる。そこがかっこいいなとしびれたように思う。将来は名探偵になろうと思った。真実だから何でもいい、というわけではないのだ、ということに感激した。

真実を明らかにするだけではなく、どのように明らかにするのかを設計するのが大事で、そのためには人の気持ちへの想像力が求められることを学んだ。優しくならないといけないな、と。

中村文則という作家は「悪」を主題に面白い小説を書き続けている。「掏摸」という作品の中で、悪役が「悪」を定義するシーンがある(確かあった、うろぼえです)。

「悪とは、当人の運命をデザインすることだ。そして本人は自ら進んで、その選択肢を選んでいるように思わせなければならない」

この悪の定義は、世界や社会への深い知見を知った上で、どのようにその真実を露見させるかをコントロールし、都合の良い運命を演出することだ。

この言葉を読んだとき、夢水清志郎の言葉に通じるものを感じた。どちらも原理原則を知った上で、どのようにそれをデザインするか、が問題なのだ。ベクトルの向きが、幸せや悪かの違いにすぎない。

よく悪役が正義側?の主人公に、「おれたちは似ている」みたいなことを話すシーンがある。それは上記のような同じ型の思考をしているからかもしれない。夢水清志郎も怪盗クイーンとどこかでお互いを深く通じあっている。

ちなみにボクはこの思考の型を使って、目の前の人がどうやったら笑ってくれるだろうか、なんて考えることが好きだ。だからいろんなことへの好奇心があるのかもしれない。

(了)


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