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猟期の猟記#1 集中しろよ、おれ。

11月中にマタギの方々と一緒に山に入った時の記録。

11月の初旬。繁っていた草やらはもうまったくと言っていいくらいなかった。
マタギの英雄さんとは何回も山に入らせてもらったけれど、銃を持った英雄さんと山に入るのはこれが初めてだった。
「これから山に入るときには、小声で。」「仲間を呼ぶときは口笛で。」
そう言って英雄さんが口笛を吹く。追う側になったことをなんとなく理解する。

英雄さんはほんとうにいろんなことに気がつく。雪はまだ降っていない。なのに熊の足跡を発見。藪の中にあるのに。熊の糞、大量にあった。熊が木に登った跡。それがいつくらいに登ったものなのかすぐに見当をつける。
「下だけ見て歩くんじゃなくて、遠くを眺めたり音を聴いたりして歩いていかないといけないんだよ。」と英雄さんは小声で言った。
それを言われるまでは、英雄さんの後をついて行くことに夢中で(こんなところふつう通らないよねというところを英雄さん含めマタギの方は歩いていくので、純粋に山登りが楽しいのです)、「熊を追う側」であるという意識が希薄だったのだと思う。それからはできる限り山の音に意識を集中させたようとした。息を殺して、耳を澄ませた。自分の足音がほんとうにうるさいなと思った。

おれは集中力がない。
今日先輩猟師に「せっかく罠の免許持ってるなら鹿とるための罠仕掛けたら?」って言われたのを山を歩きながら思い出して、ああそれの勉強しないとなあとか。でも鹿ってどうやって解体するんだろう?とか。鹿の解体ってなるとあの人に一回相談してみて、どうやって勉強すればいいかとかきいてみてもいいかもしれないなあとか。ああ、忘れないようにメモしたいな、とか。
みんな銃のこと詳しいから、おれも勉強しないとなあ、あ、銃を知るといえば、手に入れたら一回全部ばらしてどうやって銃が成り立ってんのかちゃんと一回みたほうがいいかもなあ、そういえばにかほ市でレザークラフトのお店があってその店主が「独学でレザークラフト学ぶなら100円ショップで売られてる財布でもなんでも解体してみると、いいですよ」って言っててそれやりたいと思っていながらやれてないなーとか、

ぜんぜん集中してない。

一方、前を歩く英雄さん。英雄さんの左肩にストンと枯れた葉が落ちてきた。
英雄さんはそれに気づかない。音を立てないように歩きながら、熊を探している。僕はまだ集中していない。だって、葉っぱが落ちてきても気付かない英雄さんの集中力に密かに感動していたんだもん。・・・なんていうか、俺は何をしに山に入ってたんだ?

でもま、全くと言っていいほど集中していなかった自分でも、普段山に入るときと何かが違うなと思った。それは、熊がいたらいいな、と思って山に入っているという点。いつもは熊に怯え、遭遇したくないなと思ってホイッスルをピーピーならしたり、ちょっと大きな声をだしてみたりしながら山に入っていた。でも猟になると、熊と遭遇したいから気配を消して足音も鳴らないようにして、自分が先に熊を見つけるんだ、という気持ちで山に入る。
その自然に視点とか役割が切り替わる感じが、心地いいのか、気持ちが悪いのかなんだかよくわからない。なんだろう、もっとニュートラルな状態であらねばならないような気がする。少なくともマタギの人は、猟だからといってなにか大きな変化があるような感じではない気がする。もちろん声を小さくしたり気配を殺したりということはあるだろうけど、なんだかもっと深いところでは特に変わっていないんじゃないか、というか・・・。

・・・

ふっと空気が緩み英雄さんの喋るボリュームが大きくなった。とりあえず何事もなく初猟が終わった。また書きます。

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