【小説】ガチャと私
【第一話】 発熱の罠
赤いコートを着た紗里は見覚えの無い町にいた。
ついさっきまで38℃の熱で家のソファで横になっていた。
「しかも、この原色みたいな赤いコート。私のじゃないし、全然趣味じゃない!」
紗里が混乱していると、何処からともなく祭囃子の太鼓や笛の音が聞こえてきた。
音の鳴る方へ歩いて行くと、太鼓の音が紗里の耳の中に鋭く捻じ込んできた。
紗里の意識が遠のいていく・・・
気がつくといつもの実家のソファの上で寝転んでいた。昼の0時31分。辺りを見渡すも変った様子はない。
唯一の変化といえば、不思議なくらい体がふっと軽くなっている事。そういえば熱も下がっている。
スマホが鳴った。
「今すぐ叶ヶ浦の泉の畔に来い。」
「・・・」
「今お前に起きたこと、説明する」
「誰!?」
「時間がない。私の名前は・・・」
「名前は・・?」
突如空間が歪むような感覚に襲われ、景色が変化していく。
夢をみているような感覚が続く。景色はモノクロ、セピア、原色、パステル・・・まだらに混ざりあい・・・
気がつくと紗里は、見知らぬ森の中にいた。赤いコートを着ていたが、そんなことを気にすることはなかった。
目の前に伸びる道、後ろにも伸びているが、迷う事なく前方に歩みを進めた。
しばらく歩くと、目の前に泉が現れた。そこには見覚えのない男が立ってこっちを見ていた。
「急げ!紗里!」
続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?