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「○○人集まらなかったらバンド解散」が何故悪いのか。

 僕が小学生の頃、「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」という番組でタレントさんが組んだ音楽ユニット「ポケットビスケッツ」が、「署名が一定数集まらなかったらリリース取り消し」という企画をやっていました。(僕はブラックビスケッツ派)僕は「署名」という言葉をその時に初めて覚えました。

 バンド界隈にもありましたよね。10年前くらいにはたまに聞いた記憶があります。「ワンマンライブ100人動員出来なかったら解散します!」とか。最近全然聞かなくなりましたけど。こないだ久しぶりにそんな話題を目撃しましたので、個人的な意見ですがTwitterに収まらなかった内容を書いておこうかと思います。

 これは僕の中での商売の理論なのですが、人がお金や自分の時間(リソース)を使う場合、大きく分けて3つに分類されると思っています。

①幸せになるため(趣味、娯楽など)
②欲を満たすため(飲食、風俗など)
③嫌なことを回避するため(病院など)

 共通しているのは「今よりも上の感情、状態に行きたい」という事です。そしてこれは「どれか一つ」に分類される訳ではなく、3つのどの要素が大きいか。という事に重要なります。

 一つ付け加えておくと、どの業種が崇高かなんて事もありません。この業種ではこの要素を提供するのが望ましいのではないか。とかはあるのですが、基本的には商売に貴賎なし。です。

 例えば僕のお店(パン屋)の場合、基本的には食べ物なので②にあたるのですが、お店の味、雰囲気、接客次第で①の要素を提供する事が出来ます。(無添加や健康志向を謳う事によって一部の消費者に③の要素を提供する事も出来ます)その要素を大きくする事によって、同業チェーンのヴィドフランスなどのパン屋さんに勝つ事が出来るという考えです。

 これは提供される側が何を求めているかも重要です。味も接客も気にしない。食事は安くてそれなりに美味しければいい。という人は同業チェーンに流れます。というかほとんどの人がそうですので、資本を投入して薄利多売の人海戦術に持ち込めるチェーン店はやっぱり強いです。これは戦術が違うというだけです。

 また病院は③に当たりますが、いくつかある町の病院の中で、受付の人がとても愛想が良かったりすると違いますよね。それは①の要素を提供する事ができる病院という事です。病院なんてそんなに値段が変わるような業態では無いので、距離とかもありますが、通うとしたら重要な要素だと思います。

 ではここで音楽業界に目を向けると、かなりの割合で①の要素が強い業界なのです。少なくとも提供側は①を提供する事に最大限注力する事が重要だと思っています。「俺の音楽が無きゃ生きていけないんだろ?」とか「今はこういう音楽が流行ってるんだろ?」みたいに欲を煽る人の所にあまり見に行きたく無いですよね。性癖にもよるかもしれませんが。僕はあまり見に行きたくありません。

 お客さんは①の人も②の人もどちらもいます。どちらもいるというのは、当事者は①のつもりで来てるんですけど、周りから見ると目的がすり替わっている場合があるのです。演者に対する恋愛感情だったりとか、ファンのコミュニティ間の自己顕示欲だったりとか色々。完全に①でいられる人。ちょっと②が混ざっている人。②が混ざっていても自覚していて問題は起こさない人。いろんな人がいます。

 これはもう絶対発生しますので度が過ぎなければ僕は全然いいと思ってます。絶対に発生してしまうので、どこまで許容できるかはアーティストやファンのコミュニティによるのでは無いでしょうか。そういう部分を織り込み済みで対応出来るアーティストも数多くいて、それはそれで治安も保たれますよね。大変だと思います。

 前置きがとても長くなりましたが、つまり「この人数集まらなきゃうちら解散しちゃうよ?!いいの?!嫌でしょ?!」という、ファンに対して一種の脅しとも取れる行為に及んでしまうバンドは、今まで①を求めてお金と時間を割いてライブに来ていたお客さんを、全員一気に③に叩き落とす事になるのです。キツいですよね。これ見ている周りもキツいと思います。

 音楽で人に認めてもらおうと活動している限り、絶望的な事なんてこんな僕でさえ沢山ありますので、間違った手法で数字にこだわってしまう気持ちも分からなくも無いのです。それでもこれだけはやって欲しく無いと思っています。僕はこれは一種の「禁じ手」だと思っています。

 この「禁じ手」で一時的に伸びた数字の犠牲は、今まで応援してくれていた人の純粋な気持ちです。よほど精神的にタフでないと、一度③に叩き落とされた人が再度純粋に①を求めてライブに足を運ぶのは難しいと思います。

 その目標が達成されたとして、その後「バンド」がうまく発展するには、この犠牲の上に出来た数字を最大限利用して何も知らない新たなお客さんを多く獲得することです。テコの原理です。

 理論的に考えたらうまく行く可能性もありそうなのですが、「音楽」以外に「言葉」も武器にしなければいけないミュージシャンにとって、「禁じ手」は「言葉」の信憑性を失わせます。テレビのタレントならいざ知らず、自分の言葉で戦わなければいけないミュージシャンには致命的になると思っています。

 ファン100人の「信頼」を裏切って、新たなファンを10000人獲得する事によって得た数値上の「信用」は、「信頼」とは違うものです。

 僕は信頼こそが純粋な幸せを作ることが出来ると思っています。

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 以上、僕の中の商売の理論を駆使した町のパン屋さんなりの『「○○人集まらなかったらバンド解散」が何故悪いのか。』でした。140字で収まらないのでnoteへ。

 あくまで個人的な意見と理論ですので信じる必要は一切ありませんが、もっと全員がハッピーになれる手段をみんなで考えましょう。僕は僕なりにパンを焼きながら考えたりしています。

頂いたお金で本を買います。