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「無意味」がもたらす意味をWebサービスに実装できるか?

私たちは、日常のあらゆる場面において、様々な情報を受け取っていますが、完璧な論理より、「これは何だろう?」と思わされるようなものに、つい気を取られてしまうことがあります。

そんな一見「無意味」に見えて、私達の潜在意識をくすぐる表現を、WEBサービスにも適用することができないかということを、最近、漠然と考えています。

『人間の本質とは、当たり前を当たり前として受け入れるのを拒否することである。』

引用:『スペキュラティヴ・デザイン』著 アンソニー・ダン フィオナ・レイビー スーザンネイマンのインタビューより

「意味」の飽和

ビジネスの世界では長い間、「論理」や「分析」に重きが置かれ過ぎたが故に、それらの見地によるアウトプットが飽和状態になっており、ロジックだけでは差別化が難しくなった、という文脈を見ることが増えてきました。つまり、「意味」の世界だけで戦うのは非常に厳しくなっているということです。

そんな今日においては、意識の世界で処理できる論理的な情報だけではなく、無意識に訴える情報の使い方を習得することが、大切になってくるのではないかと思います。

現実世界における「無意味」の実装

Takram社が配信しているPodCastでは、「無意味のデザインと建築」というテーマで、「無意味」な空間が持つ「意味」について考察がされている回があります。ここで言う「無意味」とは、本当に意味が存在しない無駄なものではなくて、一見、意味がないように見えて、無意識に訴えかける「何か」があるもののことを指しています。
例として、「石庭」や「豊島美術館」が挙げられています。

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画像引用:豊島美術館 | アート | ベネッセアートサイト直島 http://benesse-artsite.jp/art/teshima-artmuseum.html</h4>


龍安寺の石庭や、豊島美術館の吹き抜けの空間は、確かにそれそのものに意味はありません。しかし、それらが存在することにより、その建築における居心地の良さを作り出していると考えることができます。

その空間では、意識で理解することができる「意味」が欠如しているため、自然と人々は緩やかに自分の思考を巡らせます。その思考プロセスを経ることが、その空間に自分を関与させることにつながり、愛着が生まれるのかもしれません。

サービス利用者の満足度を向上させるために、利用者自身が関与する余地を作ることの大切さは、IKEA効果(家具を自分で組み立てることにより愛着が湧く)からも言えます。

「石庭」や「豊島美術館」が持つ「無意味」を、同じように、私たちが日々の多くの時間を費やしているWEB空間に取り入れることによって、より豊かな体験を作り出すことは可能なのでしょうか?

言語化が難しい問いであるため、答えは簡単には出ません。

しかし、普段私たちが使っているWEBサービスにも所々「無意味」に思われるオブジェクトが配置されていることに気がつくことがあります。それらのものを、ここではいくつか挙げて見たいと思います。


WEB空間における「無意味」なオブジェクト


Google SpreadSheets / Slidesのアイキャッチ画像

Webサービスのトップページにおける、アイキャッチ画像では、そのサービスのメリットを享受することで得られる自分のイメージを分かりやすく提示する画像が、用いられることが多いです。例えば、リモートワークを快適にするツールであれば、コーヒーを飲みながらリラックスした様子でデスクワークをしている人のイメージ画像などが利用されます。

しかし、GoogleのSpreadSheetsやSlidesのアイキャッチ画像は、それほど分かりやすいアプローチではありません。

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画像引用:Google SpreadSheets https://www.google.com/intl/ja_jp/sheets/about/

こちらは、Google SpereadSheetsのログイン用TOPページです。複数の人がロードバイクを漕ぎ進める画像が用いられています。

一見しただけでは、SpreadSheetsとこの画像の関連性は分かりません。しかし、少し考えてみると、「チーム作業の効率化」というSpreadSheetsがもたらすメリットを、無意識的にイメージさせているのでは、と仮設を立てることはできます。メリットを無意識的にイメージさせることで、分かりやすい画像を使った時に比べ、「売り込まれている」と感じるユーザーの心理的反発を起こさせない効果をもたらしていると考えることができます。

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引用:Google Slides https://www.google.com/intl/ja_jp/slides/about/

更に面白いのがGoogle Slidesで、蜂蜜採集の画像が用いられています。こちらに関しては、少し考えたところで、サービスとの関連性を読み取ることはできません。しかしながら、このサービスを利用することに対する期待を、どこか抱かせるイメージ画像です。

強いて考えるとすれば、普段見たことのない蜂の巣の断層という未知、蜂が出てくるかも知れないスリルさも含めて、木枠 ≒ スライドの中には、その類の"驚き"が詰まっていることを重ねているのかも知れません。


MediumやDropboxの挿絵

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画像引用:Medium https://medium.com/membership</h4>

こちらは、Mediumの会員登録画面です。一見、「無意味」なコラージュ画ですが、どこか学ぶことによるステップアップ感を期待させるオブジェクトです。

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画像引用:Dropbox iPhoneApp https://apps.apple.com/jp/app/dropbox/id327630330</h4>

こちらは、Dropboxのiphoneアプリでファイルが上手く取得できない時のエラー画面です。犬が塀に阻まれることにより、お目当てのアイテムが取れないという例示であるということは理解できますが、もう一つ塀を隔てたところにもう一匹の犬が描かれることによって、途端に意味が解釈できない絵となっています。

このような、「無意味」を盛り込むことにより、エラーによるフラストレーションから意識を逸らすことを意図しているのでしょうか。

MediumやDropboxについては、これ以上に意味が解釈できない「無意味」なオブジェクトが登場します。

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画像引用:Medium https://medium.com/


こちらはMediumのローディング画面です。ローディングが進むに連れ、箱が積み上がっていくのですが、全く何かの意図を汲み取ることはできません。

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画像引用:Dropbox https://www.dropbox.com/ja/login/

こちらはDropboxのログイン画面です。3人の人が謎のフィールドで遊んでいるイラストなのですが、こちらもやはり意味を解釈することはできません。

しかし、このような「何だろう?」と思わせる「無意味」なオブジェクトを、コンテンツの入り口で見せることによって、ユーザーがそれを理解しようと、自然と感性を研ぎ澄まし、頭を働かせることに繋がり、より深い感度でコンテンツに接することを可能にしていると思います。


Slackの動的なエラー画面

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画像引用:Slack https://slack.com/intl/ja-jp/


個人的に一番好きなのはSlackのエラー画面です。画面の全てが意味不明です。しかも、フィールドを左右にスクロールすることができたり、子豚や鶏に触れると飛び上がったり、といった動的な実装まで施されていて、かなりのこだわりようです。

こちらもDropboxのエラー画面と同様、不具合に対するフラストレーションを逸らす効果があると思います。

これは実際に以下のURLから体験してみてください。

https://slack.com/intl/ja-jp/error

少し調べたところ、スラック・テクノロジーの創業者であるスチュワート・バターフィールド氏が、コミュニケーションツールであるSlack事業を始める前に開発していた、Glitchというゲームのエンジンをそのまま利用しているようです。

まとめ


主要なWEBサービスにおける、「無意味」なオブジェクトの事例をいくつか挙げてみました。これらからいくつか学び取れることがあります。

・そのサービスを利用したときの自分を、無意識的に想像させることができるメタファー的画像の利用により、サービス利用に対する高揚感を自然と持たせることができる。
・ほとんど意味が解釈できないが潜在的な意識を惹く挿絵を利用することにより、ユーザーの能動的な創造性のスイッチをオンにして、コンテンツをより深く体験してもらうことができる。
・エラーにおけるフラストレーションを、逸らすことができる。

「無意味」をいかに利用していくかというのは、難しい問いではありますが、これを追求していくことで、論理だけで戦う世界から、少しは逸脱することができるのではないでしょうか。

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