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“総合型地域スポーツクラブ”という思想

 総合型地域スポーツクラブ マネジャーの上杉健太(@kenta_u2)です。先日、母校の早稲田大学スポーツ科学部の学生さん達とオンラインでお話をしました。テーマは『就活』。今の私の仕事は、大学を出てすぐにやるべき仕事ではないなと思うので、仕事の紹介をするというよりも、転職を含めたキャリアデザインの話をさせていただきました。そこで話していて気が付いたのですが、私はよく考えたら、大学1年の時に地元の三鷹市にフットサルクラブを立ち上げて運営していたので、そこから数えると地域スポーツクラブの運営をして17年8ヶ月も経つのです。その内、総合型地域スポーツクラブの運営は6年8ヶ月。学生さんに「一貫していて凄い」とか言われて、「私って一貫しているのね」と気付くといういい加減な男です。(一貫しているつもりなんて全くない。ただその時にやりたいことをやっているだけ。『一貫』に美学も持っていないです)

 今日は、いつも総合型地域スポーツクラブを説明する時に気持ちが悪いなと思う正体について考えた結果についてお話してみたいと思います。話した結果、やっぱりモヤモヤしちゃったらごめんなさい!(最初に謝る反則技)
 テーマは、「“総合型地域スポーツクラブ”という思想』にしたいと思います。

 結論を先に言うと、「総合型地域スポーツクラブって、型で捉えるよりも、『思想』で捉えた方がいい」ということです。
 総合型地域スポーツクラブを説明する時によく出てくるキーワードは、『多世代』『多種目』『多志向(多目的)』の3つです。あとはこれに『地域住民主体』というのもついてくることがあります。これらの要素を満たしていることが助成金を受ける条件になっていたりもするので、総合型地域スポーツクラブに“なる為に”、この『型』を作りにいくクラブも多くあると思います。
 『型』があることは全然悪いことではないし、総合型地域スポーツクラブを標準化する為には必要なことなのだろうと思うのですが、ただ『型』を作ればいいかといえば、そうではないと思うんですね。『多世代・多種目・多志向』の型を作るのは、何の為なのか。どんなメッセージを発信する為なのか。どんな状態を実現する為なのか。そっちの方が大事だと思います。それを今日は、『思想』という言い方で進めたいと思います。

【思想(しそう) の意味】
1 心に思い浮かべること。考えること。考え。
2 人生や社会についての一つのまとまった考え・意見。特に、政治的、社会的な見解をいうことが多い。
3 哲学で、考えることによって得られた、体系的にまとまっている意識の内容をいう。
   ~goo辞書より~

思想①:スポーツは生涯やるもの

 いわゆる『生涯スポーツ』というものですね。日本では良くも悪くも、学校体育・部活動というものが整備されていて、まずはスポーツ(運動)は学校でやるものという価値観で育っていきます。地域スポーツクラブでやる子どもももちろんたくさんいますが、それでも”習い事”としてやっている場合も多く、つまりスポーツの教育的側面に期待をしていて、教育課程の卒業と共にスポーツをやめていってしまう人が多いというのが現実だと思います。部活を”引退”したり、就職して働き始めたらスポーツをやらなくなるということですね。スポーツのキャリアがぶつ切りになってしまうという問題が日本にはずっとあったのだと思います。
 そこに対して”総合型地域スポーツクラブ”という思想は、「いや、スポーツずっと続けようぜ」というメッセージを発信します。どうやってメッセージを発信するかというと、『どの世代でもスポーツが始められる・続けられるようにスポーツの場を用意することで』、です。小さな子供から大人、シニア世代まで、世代別・レベル別・志向別の活動クラス(単位)を用意する。例えばたかぎスポーツクラブのテニス部門では、年長さん(6歳)の『キッズクラス』があり、小中学生に上がるとエンジョイ系の『のびのびクラス』と競技系の『エースクラス』を選べます。高校生以上は、『初心者』『初級』『初中級』とレベル別クラスがあり、さらに『悠々』という女性やシニアのかたがのんびりテニスをする志向のクラスがあり、試合に出続ける『トップチーム』があります。それぞれのコンセプトで活動するサークル活動もあります。会員本人が望めば、クラブでずっとテニスを続けていける環境が整っているんです。もちろん、ニーズの全てを完璧にたかぎスポーツクラブだけでカバーするのは難しいですが、それでも、「うちのクラブなら誰でも、いつからでも、いつまでも、テニスができますよ!」というメッセージを発信できる状態になっています。型でいうところの、『多世代』『多志向』を揃えるのは、これを言う為ですね。
 とはいえ、「俺はテニスじゃなくてフットサルやりたいんだよ!」というニーズもあります。もちろんスポーツは1つではありませんから、”総合型地域スポーツクラブ”という思想は、複数の種目を用意しに行くわけですね。「もちろん、フットサルでも生涯スポーツの環境を整えにいきますよ!」というメッセージを発信します。たかぎスポーツクラブの場合、先に作り上げていったテニス部門ほどにはまだなっていませんが、フットサル部門にも、キッズ・ジュニア・Jrユースと世代別のクラスがあり、エンジョイMIX・サークルと大人向けにも志向別に活動があり、生涯スポーツ環境を整えつつあります。
 この『生涯スポーツ』という思想は、総合型地域スポーツクラブの最もコアな部分だと私は思っています。なのでまずは、一つの種目でいいから生涯スポーツ環境を実現するというつもりで、テニス部門を立ち上げ・育てていきました。「総合型地域スポーツクラブは、長く続いていくことが一番大事」と言い続けているのも、『生涯スポーツ』を実現する為です。

思想②:スポーツは寛容

 言い方が難しいですが、”総合型地域スポーツクラブ”という思想は、『スポーツのあらゆる在り方』を肯定します。スポーツには様々な側面や要素があります。
・遊び
・教育
・コミュニティ
・経済活動
・エンターテイメント
・ボランティア
・健康
・競技(勝敗)
 それぞれの団体や個人が、それぞれのスポーツに対する価値観を持っていて、活動をしていると思います。時にそれらの価値観は、衝突することがあります。「スポーツとはこういうものだ!」と一つの側面に限定した主張は、もう一つの側面の存在を否定してしまうのですね。それに対して、”総合型地域スポーツクラブ”という思想は、「まぁまぁまぁ、『スポーツ』はあなた方のスポーツに対する考え方を全て受け入れてくれますよ」というメッセージを発信します。勝敗を決める為にスポーツに取り組む人も、気晴らしや楽みの為にスポーツに取り組む人も、スキルを獲得したくてスポーツに取り組む人も、健康になりたくてスポーツに取り組む人も、全て認めるということです。
 このメッセージをどうやって発信するかというと、『多志向』の活動クラスを用意することです。例えばたかぎスポーツクラブの場合、ジュニア世代では、『のびのびクラス』のようにエンジョイを大切にするクラスがあり、大会などでの勝利も目指す競技系クラスもあります。また、ヨガや太極拳、健康体操のように、競技性がない活動もたくさんあり、会員はそこでは健康の維持の為に集まり、体を動かすことや仲間とのお喋りを楽しみます。これらの活動を、全て対等な存在としてクラブは用意します。どんな目的でスポーツをやろうが関係ない。全て認めるんです。同じクラブの屋根の下で
 もちろん、クラブの経営資源によって、どれだけの志向を用意できるかは決まってきます。多志向のクラスが用意できていないからと言って、スポーツの寛容性を認めていないことにはなりませんが、メッセージを発信する為にはやはり用意できていた方がいいです。(クラブ単体でできなければ、他団体と一体となって取り組めるといいですよね!)

思想③:スポーツに垣根はない

 『多世代』も『多種目』も『多志向』も、実は地域レベルで見れば絶対に実現できていると思います。会員を広く募集しているかとか、ちゃんと外から発見できる形でプロモーションしているかとか、そういう問題はありそうですが、恐らくほとんどの地域には、既に色々なスポーツ団体や活動があり、それらを全体で見ると、たぶん『多世代』『多種目』『多志向』は実現できていると思います。
「じゃあ総合型地域スポーツクラブはいらないじゃないか」と言うこともできると思います。でも現実的には、総合型地域スポーツクラブはいるんです。なぜなら、それらの団体とか活動の間には、垣根があるからですね。やはり団体には団体の目的があり、ルールがあり、文化があり、歴史があります。誤解を恐れずに言うなら、どんな組織も最優先するのは自己の組織の利益です。例えば野球クラブは、野球をする人を増やしたいと思うものです。野球をやっていた人が野球をやめてサッカーを始めれば、止めようとするものです。競技人口の減少が深刻な問題となっている種目もあると思います。自分の種目の競技人口を増やそうとする活動は必要だし、リスペクトされるべき行動だと思います。しかしそれは時に、プレイヤーの取り合いも生み出してしまうんですね。そうなると、プレイヤーからすると、「本当はちょっと野球飽きてきたし、ちょっと嫌なやつもいるし、サッカー行きたいんだけど、やめにくいな~」となって、本当は合っていないスポーツを続けざるを得ない状況になったりします。
 ここに対して”総合型地域スポーツクラブ”という思想は、「いや、そんな垣根ないよ。どんどん種目変えればいいし、何なら色々やりなよ」というメッセージを発信します。このメッセージを発信する為に、総合型地域スポーツクラブという型は、一つの屋根の下(クラブ)の中に『多世代』『多種目』『多志向』を用意するのです。そうすれば、種目や志向が違うことによる垣根はかなり低くなり(残念ながらゼロにはなりません)、年齢が上がったり、怪我をしたり、気分が変わったり、何か環境が変わってスポーツに対するニーズや目的が変わっても、いつでも気軽に種目や志向を変えることができます。
 総合型地域スポーツクラブという1つのクラブでこれをやることで、クラブの利益を追求していくことと、地域住民が自分に合ったスポーツを選択し続けるということが対立関係になることなく実現できます。自分の利益よりも他者の利益を優先するって、難しいじゃないですか。みんな自分がかわいいですから。なので、総合型地域スポーツクラブが自らの利益を追求すればするほど、地域住民が自分に合ったスポーツを選択し続けられる環境が整っていくという型は、重要だと思っています。なので、総合型地域スポーツクラブという一つ屋根の下で『多世代』『多種目』『多志向』を実現しておけるといいんですね。(もちろん、他団体と価値観を共有して繋がれればそれでもいいと思いますし、他団体の利益を考えることができれば最高!)
 ちなみにたかぎスポーツクラブでは、このメッセージをさらに強める為に、クラブ内で複数種目を取り組む人に会費の5%を割引をしているのですが、これにより複数種目登録者が増えることはなかったことをご報告いたします。


 というわけで今回は、総合型地域スポーツクラブという型は、思想として捉えた方がいいと思います、というお話をさせていただきました。思想から出発して型を作り、メッセージを発信し、社会を変えていく。そんな流れをイメージするといいのかもしれません。
 時に私たちは目の前の問題に必死になるあまり、大きな目的とか本当に実現したい状態を忘れてしまいます。型は色々変わることがあると思いますが、思想は変えずに、常にメッセージを発信し続けられるようにしたいですね。頑張ります!


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総合型地域スポーツクラブや筆者の挑戦のリアルな実態を曝け出しています。自ら体を張って行ってきた挑戦のプロセスや結果です! 総合型地域スポーツクラブをはじめ、地域スポーツクラブの運営や指導をしているかた、これからクラブを設立しようとしているかた、特に、スポーツをより多くの人に楽しんでもらいたいと思っているかたにぜひお読みいただきたいです!

総合型地域スポーツクラブのマネジメントをしている著者が、東京から長野県喬木村(人口6000人)へ移住して悪戦苦闘した軌跡や、総合型地域スポ…

総合型地域スポーツのマネジメントを仕事としています。定期購読マガジンでは、総合型地域スポーツのマネジメントに関して突っ込んだ内容を毎日配信しています。ぜひご覧ください!https://note.com/kenta_manager/m/mf43d909efdb5