見出し画像

5.ベトナム社会

ベトナム社会主義共和国はその名前の通り社会主義国になりますが、1986年のドイモイ(刷新)政策により、市場経済の導入と海外投資の受入れを徐々に開放しています。しかし、開放する業種をコントロールしているのと、行政は社会主義のままなので手続きがとても複雑です。日本では、医療や金融等、特定の業種以外は行政の許認可は必要ありませんが、ベトナムでは全ての業種において、事業ライセンスを取得する必要があります。私は菓子製造業のライセンスを取得していますが、販売する事は出来ません。

改革開放により、経済も社会も価値観も急速に変化していく過程で、法整備が追い付かず現場判断に委ねるケースが多くなり、有力者への忖度や、賄賂に繋がっています。賄賂に関してはもはや制度化されており、行政手続きや交通違反の際には必ず必要になります。ベトナム人であればそれぞれのケースでの賄賂の相場を知っています。菓子製造業のライセンスで、菓子を販売出来るか否かに関しても、ベトナム人スタッフに聞くと「販売しても大丈夫」だそうです。要は、当局が査察に来た時、「いくらかかるか」の違いだけのようです。(どんなに完璧に準備しても、払わないという選択肢はありませんし、足元を見られるので、外国人が対応しない方がいいです)

ビジネス上の立場を利用して私的な利益を得る事の是非は、とても難しい問題です。日本においても接待やお土産など、私的な心づけを渡す文化はありますし、欧米ではチップを渡す習慣があります。賄賂に関しても難しい問題なのですが、少なくとも日本の価値観で善し悪しを判断すべきでは無いと考えています。私は誰かに強制されてベトナムでビジネスを営んでいるのではなく、ベトナム市場でビジネスをさせてもらう立場になりますので、その国のルールに沿ってゲーム(ビジネス)を進めていくべきだと考えています。

また、政府は国内企業を育成したいため、外資系企業の参入に制限を掛けています。もともと、外資100%を認めず国内企業との合弁が基本でした。それも徐々に緩和されてきているものの、まだ一部の業種では投資規制が残っています。逆に、ベトナム政府が求めている外資系企業は、

・ベトナム企業が持っていない高度な技術が必要な事業(例:スマホ製造)

・雇用を創出する事業(例:縫製業全般)

・多額の投資をしてくれる事業

になります。表向きは外資規制を撤廃しつつありますが、実情は事業ライセンス取得の所で、「望ましい外資系企業」しか参入できないような要件となっています。国内企業の経営基盤が外資と比べると弱いので、ある程度の規制は必要になります。

経済が急速に変化しているベトナムでは、法改正が追い付かず現場(役人)判断に委ねるケースが多くなります。その為、人により言うことが異なるのは当たり前で、事前相談した通りに書類を準備しても、当日、書類不備で再提出になる事が何度もありました。そして、指摘通りに修正しても担当者が変われば、別の所を指摘されるので、いつまで経っても申請を受け付けてもらえません。そうした状況では、渡す方が悪いのか、もらう方が悪いのかは別にして、賄賂で解決する事になります。

また、賄賂を渡す事が当たり前となっている社会なので、役人も賄賂をもらえば申請を通さざるをえません。そうすると、申請者も適当な申請になりますし、役人の意識も低い状態になってしまいます。食費衛生許可申請の工場検査でも、約束の日時に来た事は一度もありませんでした。役所に電話をしても誰も出ない為、スタッフが役所まで赴き、何度もお願いして、やっと現地に来てくれるという状況です。

約束通りに物事が進まない社会の為、スタッフも役所を急がせるという発想はありません。相手のタスクは自分がコントロールできる範囲ではないので、待つしかないという考え方です。コントロールできない様々なマイナス要因を強引に克服し、”必死にやり切る”という日本サラリーマンの”美徳”もベトナム人には理解できない価値観です。また、日系企業では決められた期限を守る事は必達事項です。期限は守られる事を前提にスケジュールが組まれていますので、ベトナムにおいて日本と同じ感覚でバッファを持たせずスケジュールを組んでしまうと、リスケが頻発し、日本人には大きなストレスになってしまいます。

良い悪いではなく、こうした社会背景や商慣習を踏まえ、環境に柔軟に対応できるスキルを身に着けることが、グローバルビジネスを成功させる鍵になると考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?