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アメリカの美大で学んだこと06:コンセプトを考える

コンセプトアーティストの仕事で大事なことの一つに「提案する」ということがあります。

ビジュアルのコンセプトを提案する際のフォーマットは、はっきりと決まっていないことも多く、、、提案する時に何を気を付けたらいいかわからなくなってしまうことってあるかと思います(僕はかなりあります。笑)この工程をどうこなすかは結構人それぞれですし、正解はないので状況によっても変えていくものだと思います。

それでもいろんな状況で共通して大切なこともあると思うので、今回はコンセプトを考え提案することを学んだ大学時代の課題について。

※ちなみに今回は、あまり教授の言葉的なものは出てきません。それはこの課題の僕の作品が、教授に見向きもされず言葉をもらえなかったからです。笑 なので今回は失敗から学んだお話しです。笑

急にざっくりとした課題が出た

最終学年に入った頃の授業でした。この頃になると実践的な課題も多くなってきます。仕事だと思って授業を受けるようにと、教授にもよく言われていました。

ちなみに実践的な課題というのはデザインする対象の物(もしくは人やロケーション)の年代や特性、キャラクターの性格、絵のスタイルまで、きっちり指定されている様な課題です。

少しはそんな課題に慣れつつあった頃、急にざっくりとしたフォーマット(指定されていることが少ない)の課題を教授から与えられました。

「次の課題では皆さんに箱と鍵をデザインしてもらいます。」

初めに生徒は「悪い箱」(開けるとネガティブなことが起こる)と「良い箱」(開けるとポジティブなことが起こる)のどちらかを選ぶ。そしてそれに付随するコンセプト(設定)を各自考えて「箱と鍵(箱を開けるために使う)」をデザインする、というようなものでした。

「次の授業までにどんな箱と鍵にするか各自考えて、ビジュアルで提案してください。」

教授にそう言われ、その日の授業は終了です。

課題へのアプローチ

コンセプトがなくては始まらない課題なので、どんな箱と鍵にするかを決めるところからはじめました。

初めはリサーチとブレインストーミング。並行して身の回りの物、映画やゲーム、色々なところからインスピレーションを得ながら考えていきます。

そんなことを続けるうちに渾身のコンセプト(だと自分では思っていた)を考えつきます。箱を「船」、鍵を「不思議な力をもった石」と設定し、「石(鍵)を載せることによって変形し空を移動できる船(箱)」というコンセプトです。

そしてこのコンセプトに基づき、石(鍵)のデザイン3パターン、船(箱)のデザイン3パターン、そして求められてもいないキャラクターまで勝手にデザインして、クリティック(講評)初日を迎えます。正直、自信満々でした。笑

「あとはクリティックを受けて今回出したパターンの中からどの方向に進むか教授(アートディレクター役)と話し合って、その後選んだデザインを完成させてこの課題は終了や!」っと。

ここまで読んで、「えっ、その設定は飛躍しすぎじゃない?いいの?」と思った方もいると思うのですが、、、その通りです。笑 このnoteを書きながら「当時の自分は何考えてたんだ」って自分で思っています。笑

ただ、これは課題が終わってから気づくのですが、今回の間違えの根本は「考えが飛躍しすぎなこと」ではなかったのです。

自信満々の課題の結果は、、

クリティック初日の授業が始まり、壁に貼られた課題の作品を教授が眺めます。

教授は話す価値があると思った作品(見るべきところがあるもの、クリティック会話からクラス全体が学べるもの)から順に講評を行っていきます。

10分、30分、1時間、、、次々と、クラスメートの作品がクリティックを受けていきます。自信満々だった僕は、当然自分の番が来ると思ってワクワクしながら待っていました。

しかし、僕の作品について教授もクラスメートも触れることのないまま授業は終わりを迎えました。

時間の長い授業だったので、かなりの数の生徒がクリティックを受けることができたにもかかわらず、、、。

何がいけなかったのか

当日は教授にダメだった理由を聞く気力もないほどへこんで、家に帰ったのを覚えています。(スルーされるって一番へこみますよね、、笑)

悔しくて悔しくて、何が悪かったのかその後じっくり考えました。クリティックを受けていたクラスメートとの違いは何だったのか。後日答え合わせ的に考えを教授に話してみたのですが、合っていました。

ダメだったのは、コンセプトの数、そして幅のなさです。

ダメだったところを図解してみる

今回僕がやったのは課題の枠組みを理解する→コンセプトを考える→それに基づきデザインパターンを複数提案するということです。図にすると下の画像のような感じです。

concept01のコピー


デザインパターンの元となるコンセプトが一案だけ

当時の僕はこれでいいと思っていたのですが、コンセプトアーティストはコンセプトを考えビジュアルを提案するのが仕事です。当然提案したあとチームで話し合って方向性を決めていきます。上の図のやりかたではそもそものコンセプトが一案しかなく、教授(アートディレクター役)と話し合って方向性を決めることができません土台となるコンセプトが一案しかないのにその先のデザインの話はできませんよね。

なのでおそらくこういう形式でやったらよかったのかなと今になって思うのが下の図です。いい評価をもらっていたクラスメートはこれができていました

画像2


こちらでは課題の枠組みを捉えたあとにコンセプトを複数考えています
そして各コンセプトを反映したデザイン案を作る

こうすると、教授(アートディレクター)との話し合いの可能性が広がりますよね。コンセプト案を比べながら最適なものを探せるので、上っ面のデザイン話ではなく、進む方向性の話が深くできる。仮にデザインだけ見せてコンセプトが伝わらなければ、それを元にデザインの修正もできます。

なので僕がやったやり方では必要な話し合いをする余地がないというのが今回の一番の問題だったのではないでしょうか。

もう1つ気をつけなきゃいけないこと

ここからは仕事を始めてから学んだことなので「アメリカの美大で学んだこと」からは外れますが、関連する内容なのでこのタイミングで書いてみます。

僕が今回の課題で提案した「不思議な力をもった石と空を移動できる船」「箱と鍵」のコンセプトとしてはすごく突飛なものでした。突飛なものが悪いというわけではないのですが、実際に仕事でコンセプトを提案するには案に幅が必要なことって多いですよね。先ほどの図だとコンセプトが三案あるわけですが、今ならきっとこんな三案を考えると思います。

_コンセプト➀
石と船(実際に課題で提出したコンセプト)
_コンセプト②
家と鍵(箱を家と見立て、鍵はそのまま家の鍵。主人公が作ったカラクリ箱である彼の家は、鍵を回すと疲れて帰ってきた主人公を癒す仕掛けが始まる。)
_コンセプト③
おじいさんの箱と鍵(老夫婦が昔の思い出の品を入れた箱。鍵は去年なくなってしまったおばあさんに預けていたが、現在はどこにあるのか不明。二人の思い出に再び出会うべく、おじいさんは今日も鍵を探す。)

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図をみると先ほどの三案が割と幅を持って並んでいるかと思います
「家と鍵」も割と突飛で綺麗な幅ではないですが、許してください、、笑

幅を持ってコンセプトを提案できると、その後の話し合いもより深くなるし最適なものを探し出せる確率も上がるのではないかと思います。

※補足ですが、どの案が一番最適だと思うのか「自分で意見を持っておくこと」も大切だなと思います。オリジナリティに触れた記事でも書いたのですが、その意見こそがアーティストの個性になりますし、意見がないと案だけ出して判断は丸投げになってしまいます

アメリカの美大で学んだこと04:オリジナリティってなに?
https://note.com/kenta_design/n/n529d0e3c36b6

まとめ

デザイン案の前に「コンセプトを複数持ち提案することが大切」なのではないか、そして「コンセプト案には幅があった方がいい」のではないか、というのが今回紹介した課題から(そしてその後の仕事から)学んだことでした。

やっぱり誰でもすぐにビジュアルを描きたいし、コンセプトを複数考えるには時間がかかるんですが、いいものを作るには本当に必要なことだなぁと今になれば思います。

案がいっぱいあることが大切なんではなくて、案を複数出す過程でたくさん考えること、そして話し合いが深まることが何より大切なんだと思います。

自信満々の状態から打ち砕かれてショックが大きかった分、今でも大事にしようと思えることでした。ちなみに偉そうに書いてる僕は、卒業後についた仕事で今回書いてある事が全然できていなかったのでたくさんの注意を受けました。笑 根気強く教えてくれたボスにも感謝ですね。今でもまだまだですが、ちょっとずつ僕自身もできるようになりたいなと思います!



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