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アメリカの美大で学んだこと07:魔法の正体

今回は何だかフワッとしたタイトルをつけてしまいました。笑 

さて、みなさんの中に絵を描いている方はどのくらいいるのでしょうか?

絵を始めたばかりの頃って、自分以外の絵がうまい人たちは魔法のような能力をもっているように感じませんでしたか?

どうやって描いているのか想像がつかないし、自分がどんなに練習してもそんな風になれるとは思えない。彼らのことを「違う世界からきた魔法使い」のように感じていた時期が僕にはあります。

その時期はとにかくしんどかったです。絵は好きなんだけど、彼らみたいな特別な力がない僕は一生このままなんじゃないだろうか。彼らの使う魔法のような素晴らしい何かは、自分が学んでいることの延長線上には存在しないんじゃないか。そんな不安がずっと頭の中にありました。

今回は彼らの魔法の正体を少しだけ知れてしんどさが和らいだ大学での経験を書いてみたいと思います。

慣れると見えてくるもの

大学の一年目が終わった頃、ド素人から始めた僕も少しだけ絵が描けるようになってきました。どのジャンルでも少し理解が進むと、その分野を極めた人たちの凄さがよりはっきりとわかるようになりますよね。憧れのアーティストと自分との差が明確に見えるようになり、落ち込んだりもします。

ちなみに絵を描くことを一年続けると、得意なことや苦手なこともはっきりしてきます。僕はとにかく人工物を描くのが苦手でした。特にビルや家など大きめの人工物です。外でスケッチをするとどうしても描かなければいけないのでスケッチをすることが苦痛になってしまいました。

上手い友達にコツを聞いてみても、なにやら難しそうな技法の話が出てきたりして、「そんな技法使いこなせるなんて才能じゃん、、」と本気で思っていました。 

一年やってビルすらまともに描けない自分が、憧れのアーティストたちと同じ舞台に立てる日なんてこないんじゃないか、、、

基礎の基礎

ちょうどこの頃、ものすごく地味な授業が始まります。最終的には大きな気づきを与えてくれるのですが、、、正直楽しくはなかったです。笑

この授業ではひたすら立方体を描きます。厚紙で立方体を作り、その立方体を見ながら描くという課題が毎日出されます。

形を正確に捉える練習なので一つの立方体を描くのに10分以上かけて(陰影は描かないので線を引くだけで10分以上かけます)、とにかくゆっくり丁寧に描くように指示されます。毎日3時間以上はこの作業をやっていた記憶があります、、、ホントに地味ですよね。

ちなみにこの授業で立方体を描くときは二点透視図法という技法を使って描きます。中高生の時に美術で習った方もいるのではないでしょうか。

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二点透視図法ってこんなやつ

数週間後、厚紙の立方体を取り上げられ、頭の中で想像して描くように言われます。少しだけ難易度が上がりました。

描いた立方体は教授に提出するのですが、奥行きのズレなどが「誤差えんぴつの線一本分以内(教授の判断)」でないとオーケーは出ません。精度を上げるため徹底的に繰り返し描きます。

なにやら大事な基礎らしいけども、この学期中ずっとこれをやるつもりなのか、、、?

次のステップ

授業開始から1ヶ月半が経ち、立方体のみを描き続ける課題をやめ、新たな課題を出すと教授が宣言します。ついに解放される、、授業中じゃなければクラスメートとハイタッチしてるところです。

「新しい課題では街を描いてみよう、立方体を使って。この課題の名前はキューブシティだ。」

少しこの課題を説明すると「立方体を積み上げたり並べたりして、何となく道路やビルに見えるようなものをデザインし、街っぽいものを描く」ということです。立方体を切ったり加工したりはできる範囲でやってもいいとの説明がありました。

全然解放されてなかったんですね。要はさらにたくさんの立方体を描くってことです。

文句を言っても始まらないので、とにかく課題に取り掛かります。

この課題では頭の中で想像した街を描くので上から街を見下ろすも、逆に見上げるも自由です。さらに街のデザイン、道路っぽい物(立方体のみで構成するため、本物の道路のようにはなりません)や建物っぽい物の配置も自由なのでたくさんのラフを描いていきます。

いつの間にか

何枚ラフを描いたかは覚えていませんが、描き続けているうちにあることに気付きます

「そういえば街っぽいもの(ビルっぽいもの)が描けるようになってる

実物を見ながらでも描けなかったビルや街が、想像からある程度描けるようになってるんです。あんなに苦手だったのに。

でもこれはあくまでも立方体を積み上げているだけなので、実物のビルを描けるかと聞かれれば、、、まだ自信はありません

そこで、いったん街に出てビルを描いてみることにしました。

、、、なんと描けました。改善点はたくさんあるんですが、以前と違うのは自分ではっきりと分かります。

なぜ描けたかというと、立方体を正確に描けるようになったことで、ビルの見え方がこんな風に変化したんです。

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ビルが描けるという魔法の正体

ビルが苦手だった僕は、ビルを描ける人たちを本当に違う種類の人間なんじゃないかと思っていました。それこそ一般人と魔法使いぐらい違うだろうと。

でも「ビルが正確に描けるという魔法」の正体は「立方体を正確に描けるという技術の積み重ね」だったんです。

そして、「立方体を正確に描けるという技術」の正体は「線が真っ直ぐ引ける、透視図法が使えるという小さな技術の積み重ね」だったんですね。

正体を知ると楽になる

魔法のように理解が追いつかない素晴らしい能力も、小さいな技術を積み上げると習得できると、この時気付けたんです。今回は「ビルを描く」ということでしたが、まだ理解できていないそのほかの魔法もきっと小さな技術の集合体です。今回と同じように分解していけば、きっと身につけられるんだと実感できました。

今の学びが自分の目指す場所に続いていないんじゃないかという「しんどさ」は、これに気付けてからずいぶん楽になりました

僕自身まだまだ半人前なので、いまだに正体のわからない大魔法を使ってくる著名アーティストを見て面食らうこともありますが、分解できると知っていればそんなにダメージはありません。笑 

なのでもし今同じように悩んでいる人がいるならば、まず「魔法は分解できる、そして細かい技術として習得できるもの」だということだけ知ってもらえたら嬉しいです。すぐに正体を暴けなくても大丈夫です。知っているだけで、ダメージは減ります。大事なのはまだ自分が理解できない大きな魔法(技術の集合体)を目の当たりにして疲弊しないことだと思います。

その上で、分解する過程を楽しめたならもう最高ですよね。絵を描く仲間がいるならば、「この技術とこの技術を組み合わせたら、こんなことできるんじゃない?」と色々話しながら実践するのもオススメです。

もし魔法が存在するならば

最後にひとつだけ僕の勝手な意見を書いてみます。もし絵に魔法があるとするならばそれはアーティスト自身の経験からくる「物の見方」だと思います。なにを綺麗と思うか、なにが嫌いか、その人をフィルターとして出てくる物が唯一のマジカルな部分ではないでしょうか。これについては前にオリジナリティの記事で書いたことに似ているので、よければそちらもどうぞ。

アメリカの美大で学んだこと04:オリジナリティってなに?
https://note.com/kenta_design/n/n529d0e3c36b6




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