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アメリカの美大で学んだこと01:知ると良く描ける

新しい作品を描き始める前って、これから描く物や事象についてリサーチをすることってありますよね。

仕事をしていても絵を描く前に写真資料ですり合わせをしたり、現場まで足を運んで取材したりと、割と時間のかかることだったりします。「リサーチが作品のクオリティを決める!」みたいなことを言う人もいたり、、、

人によってはこの作業、めんどくさいと感じることも多いみたいですね。

よく知ってた方が描きやすいのはなんとなくわかるけど、本当に重要なんでしょうか?というのが今回のトピックです。

リサーチって重要?

あくまで僕の意見ですが、ものすごく重要です。可能なら絵を描くたびに写真資料だけでなく現場まで行って絵のトピックになる物や事象を体感したい。それくらい深くリサーチしてから描く作業に入りたいと思っています。

理由は、「自分は自分で思っているより物事を良く知らない」のと「体感して知っている物や事はより良く描くことができる(説得力が出る)」からです。

松ぼっくり描ける?

突然ですが、松ぼっくりのイラストの仕事がきたら、みなさんまず何をしますか?

おそらく見ずに描けるほど松ぼっくりを描き慣れてる人は少ないと思うので、写真を探す、もしくは外で実物を拾ってきて見て描く、というようなことをするんではないでしょうか。

僕もそれくらいで十分と思っていましたが、そうじゃない時もあるんだと気づかされる授業が大学でありました。

教授「松ぼっくりを3つ拾ってくるのが宿題」

ある授業で宿題が出ました。松ぼっくりを3つ拾って家に帰り、そのうちの1つを3時間かけてデッサンしてきなさい、と。

僕もクラスメイトも歓喜しました、だって今までの宿題に比べてめちゃくちゃ楽だったからです。3時間見て描くだけ、ちょっと完成度あげようと思って2時間粘っても5時間で終わる。おぉ、久しぶりに友達誘って飲みにいこうかなくらいに思ったのを覚えています。

教授「分解してみなさい」

2日後の授業に拾った松ぼっくりとデッサンを持って行きました。普段は宿題の絵のチェックから授業が始まるのですが、この時は少し違いました。

教授「1時間あげるから松ぼっくりを分解してみなさい、鱗片(はねのような部分)を一枚一枚バラバラにしてみなさい」と。

みんな困惑しながら、なんとなーく分解作業をはじめました。ちなみになんでたかが松ぼっくりの分解に1時間もかかるかと言うとアメリカの松ぼっくりはデカイくて硬いので、割と力作業になるんです。僕の拾ったものも15センチほどでした。(気になる人は「アメリカ 松ぼっくり」で画像検索。20センチ以上のものも普通にあるので頭に落下してきたら大怪我です。)

分解を終えて気づく

さて、分解作業の終盤になると芯の部分が見えてきます。このあたりで観察力のある生徒は気付きはじめます。

「あれ?鱗片の付け根って螺旋状になってる?」と。

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↑芯はこんな感じ

むむむ、と思っていると教授がニヤニヤしながら言います。

「芯の部分が螺旋状になってるのに気づいたところで、拾ってきた残りの松ぼっくりを観察してみて」

ランダムな放射線状に見えてた鱗片の外側の広がりが、よーくみてみると少し螺旋状に広がっていることに気づきます。

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↑分解する前はこう見えてた(こうだと思い込んでた)

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↑分解後はこの螺旋の繋がりに気付ける

「次はあなたの描いてきたデッサンを見て」

全く螺旋状に描けてなかったですね。鱗片の外側(松ぼっくりの表面)にあるうっすらとした螺旋の規則性が全く捉えられていなかったんですね。3時間のうち最初の20分は観察に使ったので、観察不足ではなかったはずなのに、、、。知ってるつもり、見てるつもりになってただけなんですよね。

知らないと見えない物もある

多分これ、最初に教授から「渦状に生えてるから注意して描いてね」って言われても、おそらく上手く描けなかったなと思うんです。

わざわざ1時間かけて分解して、芯までじっくり観察して、松ぼっくりがどういう構造でどこから鱗片が生えてて、鱗片の長さはこれくらいだから見えてる外側はこれくらい螺旋が反映されてて、、、ってことを体験したからやっと「観る」ことができた

ちなみこの授業のあとの宿題は再び松ぼっくりのデッサンでした。改めて描いてみて生徒はみんな驚きます。しっかりと構造を理解して描いた松ぼっくりの「松ぼっくりらしさ」に。決して技術の話ではなく、どれだけ知ってから描けたかがこんなにも影響することに気付きます。

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↑2回目に描いた松ぼっくり

この授業で学んだこと

この授業のレッスンは2つあると思っていて、、

僕らは自分で思っているより物事を良く知らない

これは実は気付けるとすごく楽しくて、日常から色々観察したくなります。別記事で書きますが、僕は日頃から外に出てスケッチブックに絵を描くのが好きなのですが、それとも繋がりが深かったり。それとこれに気づくと、ちょっと謙虚になれるような気がします。

体感して知っている物や事はより良く描くことができる

こちらはやっぱり絵の説得力に繋がってきますよね。良く知らないものを描こうとすると、なんとなく抽象化されてしまったり(抽象化が必要な場合もあるけども)します。

知らない前提でより知るためのリサーチが大切

普段から目にする物でも、実は良くわかってないことってたくさんあって、それをより深く理解するための作業が、絵を描く前のリサーチなんだと思います。そしてなんとなく描いた物と、しっかり自分の中に落として描いた物の差は出ます。見る側からは「ここの部分の構造が甘いからこの絵はだめだ」なんて感想はなかなか出ませんが、この部分の「誠実さ」は見る側まで伝わると思います。

そしてもう一つ、リサーチは積み重ねでもあります。毎回絵に出てくる全てのものを詳しく体験し、リサーチするって言うのはできないことの方が多いです。だからこそ日々観察、そしてそれを自分の中の引き出しに入れておくことで、絵描きとしても成長できるじゃないでしょうか。




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