ノルディックウォーキングのススメ

コロナ禍を機会に、ランニングを始めた人が多いようだ。アシックスが世界12カ国を対象にした調査によると、以下のデータがある。

「新型コロナウイルス感染症拡大前から定期的にエクササイズを実施していると回答した人の36%が、外出自粛前よりも活発にエクササイズをしている」
《心身における影響や今後のランニング習慣など ランニングに関する意識調査を世界規模で実施』》 (調査期間:2020年4月1日~5月31日 調査対象:14000人)

僕の職場である、池袋の某百貨店のランニングシューズ売場でも、5月の営業再開後はランニングシューズの売上が好調だった。
「テレワークで運動不足を解消しようと思って、ネットで適当に買った靴で走ってみたら、膝や腰が痛くなったので、人に観て貰って靴を買おうと思って来ました。」こんな声も多く頂いた。
接客の際に、やんわりと二点忠告している。
一つは、「通勤がなくなって歩数が減ってるのに、いきなり走りだすのは無理がある。」
もう一つは、「そもそも、適当に選んだ靴でも数キロ走れない身体のほうを、見直すべきである。」
同じランナーとして、出来れば『自立』したランナーになって欲しいからだ。

前者は、歩行『量』の問題なので時間をつくれば問題ない。後者は、歩行の『質』の問題でこれを一般の方が保つのは難しい。
この『量』と『質』を底上げするのが、ノルディックウォーキングだ。コロナ禍の今こそ、ノルディックウォーキングが最も有効なスポーツであることを述べようと思う。

ノルディックウォーキングの起源は1930年代のフィンランドに遡る。
クロスカントリースキー選手の夏場のトレーニングとして、砂浜でスキー板を使わず、ポールだけで歩いたり、走ったりしていたようだ。
普及状況は、2007年の時点でフィンランドでは総人口の16%がノルディックウォーカーであり、世界では約800万人がノルディックウォーキングを楽しんでいるという。《ノルディックウォーキング 2015 三浦望慶》

全身の90%以上の骨格筋を使うことで、通常のウォーキングに比べて筋稼働率と消費カロリーが高くなる。ポールで上体のバランスを保つことで、左右差の少ないリズミカルな歩行になる。その結果自然と距離が伸び、歩行『量』が増えるのである。

では、『質』とは何か? それは身体を機能的に使って歩くこと。その為には『しっかり骨盤を前傾させて、立つ』ここから始めるべきだ。

僕が身体の使い方でお世話になっている、カイロプラクティックドクターの小野寺さんは、欧米人が骨盤の前傾が当たり前なのに対して、日本人の骨盤が後傾しやすい理由が、イスにあると考えている。

「骨盤のポジションの面から日本人と欧米人のランニングフォームを見ると、その違いは明らかで、大勢のランナーのなかでも日本人はすぐに見つけられる。それほど、日本人と欧米人は骨格面で違いがある。実はこの骨格の違いは、生まれたときは日本人と欧米人であまり差がない。しかし、筋骨格が形成されていく成長期の段階の何らかの違いで骨盤のポジションに差が生じるようだ。原因ははっきりとはわからないが、僕は日本の学校のイスが子どもたちに合っていないからではないかと思っている。イスが体に合っていないと、姿勢が悪くなり、骨盤が後傾していってしまう。成長期の姿勢の乱れは骨格形成において影響が大きい。欧米人は骨盤が前傾しているため、普段から股関節と股関節まわりの大きな筋肉を使っているので、そもそも歩くのが速い。トレイルレースの登りでは歩くことが多い、体重が重そうな人やおじいさんでも、登りが速いのはこのためだ。これに対して、日本人が骨盤を前傾のポジションにもっていくには、かなり意識しなければならず、時間をかけて体に覚えさせていくしかない。そもそも、骨盤を前傾させる感覚がなく、間違ったボジションの人が多いので、やろうと思っても難しい。だから、僕はそれを繰り返しランナーに意識させてきた。」《マウンテンスポーツマガジン VOL.13 トレイルラン 2019 春号》

つまり、あなたが猫背であっても、それは普段使っている道具や環境の要因もあるのだ。
ならば、道具選びで身体の使い方を変えていくことで、日常の姿勢や歩きの『質』を向上させていくことが十分可能だと僕は考えている。

残念ながら、ノルディックポールを使えば、誰もが骨盤前傾のポジションを維持出来るわけではない。だが、ポール無しの歩行と比較すると、間違ったポジションに陥るのを、回避出来る可能性はある。間違ったポジションは、骨盤以外の『足首から頭までの関節をも』前に倒した、反り腰や猫背の状態だ。ポールを支柱とすることで、上半身が起きて安定したポジションをキープできると、反り腰や猫背の状態を防ぐことが出来る。

さらに、ノルディックポール特有の、手首を後ろに返すアクションによって、背部、胸部、肩、腕の筋肉が体重移動に利用される。このユニークな身体の使い方は、四足動物の歩行に近い動作といわれている。この上半身の稼働率の高さが、全身のおよそ90%の骨格筋を使うスポーツといわれている所以だ。

   《日本ノルディックウォーキング協会HPより》


ノルディックウォーキング特有の身体の使い方は、座位で業務に集中してしまう、テレワーカーにとって、素晴らしいコンディショニングツールとなるはずだ。

ちなみに、機能的に身体が使えるポジションは、骨盤『だけを』前傾させることだ。これを『ニュートラルポジション』という。
僕のように靴を販売する人間も、履いた人が一日中履き心地の良さを保ち続ける指標として、『ニュートラルポジション』を目指す。その為に、靴と日常の動作をセットで提案することにしている。

『ニュートラルポジション』になると脊柱の『生理的湾曲』が発生する。
(理想の背中はS字のカーブを描いている。)
『生理的湾曲』は、二足歩行の人類が獲得したスプリング機能、つまり『バネ』である。例えば体操の選手が、凄い高さから着地しても身体を痛めないのは、この『バネ』が機能しているからだ。
何度でも言いたい。『ニュートラルポジション』と『生理的湾曲』が重要だ。
だが今これを読んでいる、あなたの姿勢はどうだろうか? 身体に合っていない椅子に座りPCに向かっていないだろうか? スマホの画面を注視しすぎて『ストレートネック』になっていないだろうか?

人体にとっての『ニュートラル』とは、『中立』でであり、そして『自立』であると僕は考える。
『ニュートラルポジション』で立つと、地面に対して真っ直ぐ体重が掛かる。すると、路面の情報を正確に感じとることが出来る。
歩き続けると、地面に突きさすポールから、土の湿り気や芝の感触の変化を感じる。季節の秋から冬への移行を感じることが出来る。
しかも、歩くたびに肩周りは自由になって、まるで翼が生えたように身体が軽くなっていくのを感じる。
今月の歩行距離は半月で100キロに到達する予定だ。まったく飽きない。むしろ距離は伸びている。来月は200キロ歩こうと計画中。
ポールを持って『ニュートラル』な自分を探しに外へ出よう。

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