柘榴

何が起こった?

僕の前に舞う赤い液体はなんだ?僕の眼前で今まさに崩れ落ちていくこの細い体躯は誰のものだ?

もう、わかっているんだろ?

違う、彼女じゃない…

いや、彼女だ…認めろよ……

そうだ、本当は知っている。ただ認めたくないだけ…。彼女が今、この世から消えたという事実を……。だが…。

視界が鮮血の輝かしい紅に染まった。


その日の午後、僕と彼女は僕の母に頼まれ、裏の果樹園へと来ていた。丘の上は多種多様な果樹であふれ、たわわに実をつけていた。僕たちの仕事は頼まれた果実をとってくること。

僕たちはまだ八歳で背も低い。こんな高い位置にある実には手が届くはずもなかった。けれども、僕らがこの仕事の担当だった。なぜなら、木は僕のことが好きだから。僕が近づくと木の方から枝をたわませ、僕たちの持つ籠にその熟した実を落としてくれた。あまりにも木に好かれるものだから、僕の隣の幼馴染はときどき拗ねる。それが、可愛くて僕もときどき意地悪をしてしまうんだ。

「頼まれた実は取り終わったし、休憩しようか?」

「うん、そうだね!いつもの場所で!!」

いつものように丘の頂上の柘榴の木の下に座る。この木がこの果樹園で一番大きい。父さんが子どものころからあると言っていた。この木陰に座ると、熟れた柘榴の実が一つ落ちてくる。この木から僕らへのプレゼント。半分に分けると二人で食べる。種は木の根元へ、口元に紅い果汁をつけたままの彼女をからかい、実を分けてくれた木をお礼の代わりになでる。いつもの幸せな昼下がりだった。

……突如として破裂音が響くまでは…。



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