見出し画像

未来が来る

未来が現実に追いついてくる
喜ばしいことなのかもしれない
けれど、
未来がひとつ現実になるたびに、たくさんの、感情的に無限の、と言ってもいいけれど、可能性が殺されていく

可能性はイノセント
現実は暴力

ひとつ未来が現実になるたびに、可能性は過去の中の「在ったかもしれない」けれどももう実現することはない地平線の中に消えていく

未来は可能性を食べて生きている

友達と、過去の人でも「いい感じ」でいね欲しいよね、なんて話す

雪の中の街は眩しくて、わたしたちは目を細める
未来が見えないことを望むかのように

足元でキュ、キュ、と雪を踏み締める音がする
冬の日差しは、夏に似ている
強く、眩しくて、まぶたを通して、まるでわたしたちが生きていることを諭すように赤く光る

記憶、は、映画の予告の断片のようだ
記録ではなくて、それぞれが繋がってもいない
過去は過去で、記憶は記憶で、それぞれの世界は接続されていない


わたしたちには今しかない
この瞬間がいつもわたしたちの人生の(そんなものがあるならば)全てだ

冬の空気は皮膚と世界を断絶していて、清潔で悲しい物語の予感がする

雲の渦の中に満月が昇っていて、寒さに滲んだ目に光が染み込んでいく

みみをそぎ落として自殺した画家のことをわたしはあまり好きではないけれど、月の夜の絵だけは好きだったな、と思う

雪国の地方都市は空が広くて、でも小さな星は見えないくらいには空気が霞んでいる

月だけが、夜空の主のように輝いている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?