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タイムマシンは可能なのか

K.S.R.C ResearchReport FileNo.010015
オリジナル公開日 1999/7/6 報告  報告者:KS
1999/8/20 追加報告  報告者:KS
Special Thanks:RA

 もしも、あの時こうしていたら・・・そんな夢を叶えてくれるのがタイムマシンである。
しかし、SFの世界では当たり前のこのマシンだが、実際に作ることは可能なのであろうか。

 まずは、時間とは何か。

 実は、時間と空間はかなり近い概念なのである。
天体までの距離を表す単位として「光年」という単位がある。これは、光が1年で進むことのできる距離である。距離の単位であるのに、”年”と付くのだ。距離を表す単位に時間の単位である”年”を使うことがあるほど、時間と空間は似てるのだ。

 空間には方向があるが(前後、左右、上下)、時間には方向が一方向しかない。時間と空間は似たもの同士ならば、時間にも未来以外の方向があるのではないだろうか?

 相対性理論ではよく「光円錐」という3次元のグラフを書いて説明する。これは、光の広がりを時間軸にそって立体化したモデルである。光円錐の時間軸は(他の物理法則のグラフと同様に)、未来方向もあれば過去方向もあるのである。

 相対性理論では、過去へのトラベルの可能性があるのだ。
「高速で動けば動くほど時間は遅く進む」というのは、相対性理論のなかでも有名な理論だ。

では、もし光速以上で動くことができたら・・・

 光速以上で動くことのできる物質として有名なモノは「タキオン」であろう。
タキオンは質量が虚数の素粒子であるが、質量が虚数となるような物質が存在するのであろうか。

 しかし、特殊相対性理論では、質量が虚数の解(タキオン)も除外されていないのだ。

もし、超光速粒子タキオンが存在すれば、例えば地球から放射された光(すなわち過去の映像)に次々と追いつくことができるので、地球の過去の姿を見ていくことができるだろう。逆に、タキオンでできた物質は、時間を逆行していくように見える。
 このような、タキオンの性質を利用すれば、タイムマシンを作ることが可能なのだ。

<追加報告> 

 タイムマシンの原理として有名なものに、「ティプラーの円筒」という構造体がある。これに触れないわけにはいかないだろう。
ティプラーの円筒の原理は以下の通りである。

「非常に高速(表面の回転速度が光速の半分より大)で回転している無限に長い円筒の周辺の物質のない空間では、因果律が破れタイムマシンとして動作する。」

もちろん、現実的な問題として、無限に長い円筒を作ることは不可能である。
そこで、この原理が実際のタイムマシンに応用できるかどうかのカギは「有限の長さの円筒でもタイムマシンになるのか」という点になるだろう。

 1974年、フィジカル・レビュー誌という物理関係ではメジャーな学術誌で、物理学者フランク・ティプラーは、有限の長さの円筒でもタイムマシン実現の可能性はあるだろうと主張している。(ここから「ティプラーの円筒」と呼ばれるようになった。)
 要するに、タイムマシンは実現可能だとティプラーは言っているのである。

 タイムマシンの製造が可能だとしても、タイムマシンを論じていく上で避けて通れないものに「因果律(タイム・パラドックス)」がある。
因果律とは原因があるから結果があるということを難しく言っただけだが、過去をいじったりすると原因と結果のまっとうな関係が成り立たなくなるというわけだ。
 一番よく引き合いに出される例は、過去に戻って自分の親(要するに自分という存在の原因)を殺したら、自分(要するに結果)はどうなるのか、という問題で、「親殺しのパラドックス」と呼ばれている。

 タイム・パラドックスの問題に関しては様々な解決法が考察されている。

 例えば、過去を改変しても、それに伴って自分自身も変化するために改変に気付かない、という解決法がある。

 あるいは、改変による”因果律の波”が過去から未来に伝わっていく際に、その波は瞬時に伝わらず到達までに有限の時間がかかるので、因果律が現在に伝わる前に改変を修正すればよい、という解決法もある。

 また、改変者自信が因果律の中に組み込まれてしまい、改変操作自体が実は史実になっていた、という方法もある。

 上記のようなタイム・パラドックスを避ける仮説は、どれもある意味では正しいのかもしれない。
というのはタイム・パラドックスは、そもそも可能な未来は一つなのか、言い換えれば時間軸は一本しかないのか、という点に依拠する問題だからだ。

 そして現在では、可能性の未来は無数に存在するという方向で、発展的に解決されている。
その解決法は、エヴェレットという物理学者が提唱した「宇宙分岐論」の考え方に基づいたものである。この理論では、タイムマシンによる移動その他、量子力学的な選択が起こる度に、その確率分布にしたがって宇宙が丸ごと分岐していくのだ。したがって、例えばタイムマシンで過去へ到着した瞬間に、その時点から、すべての可能な宇宙が分岐生成される、というのがその解釈だ(そのため、この理論は「多世界解釈」とも呼ばれている)。ただし、分岐した後の各世界(宇宙)は、もはや相互作用しないため、他の世界の存在を確かめる術はない。

 タイム・パラドックスの問題は解決できそうなことがわかったが、実はもう一つ、タイムマシンには大きな問題があるのだ。
それは「質量・エネルギー保存の法則」である。

 この宇宙全体の質量は、宇宙の生まれた150億年前から今日までずっと一定である。ある物質が消滅したように見えても、それは別の物質かエネルギーに姿・形を変えただけに過ぎないのである。

 さて、タイムマシンで過去(未来でもかまわない)に行ったとすると、その分の現在の重さは減ることになる。そして、代わりに過去(または未来)の世界の質量が増えることになるのだ。

 これは「質量・エネルギー保存の法則」に反する。

 はたして、その時に何が起こるのか?それは現代物理学でも解明できない。もしかしたら宇宙が崩壊するかもしれないし、何も起こらないかもしれない。

 が、この問題がタイムマシン問題での最大の問題であることに代わりはないのである。


<解説>

タキオン
 質量が虚数で、エネルギーを失うほど光速よりも速くなる超光速粒子が「タキオン」である。
対して、正の質量を持ち、どれだけ加速しても決して光速を越えることのできない粒子(電子や陽子等の普通の素粒子)を総称して「タージオン」という。
質量が0で常に光速で走る粒子(光子等)を「ルクシオン」という。

宇宙分岐論
 タイムトラベルを否定している車椅子の天才物理学者スティーブン・ホーキングが、タイムトラベルが不可能であることを示すのに用いた有名な言葉に
「タイムトラベラーは、今どこにいるのか?」
という言葉がある。
 要するに、タイムトラベルが可能ならば、そのタイムトラベラーは今のこの世界にも来ているはずで、それならば彼らはどこにいるのか、ということを天才らしく簡潔に表現した言葉ではあるが、これに対する回答がこの「宇宙分岐論」ということになろう。
 すなわち、現在の世界はたまたまタイムトラベラーが訪れていない世界に過ぎないのである。

質量・エネルギー保存の法則
 中学校の理科の教科書にも載っている法則。
18世紀、フランスの科学者ラボアジェが提唱したのが「質量保存の法則」だ。その後、19世紀にはドイツの科学者ヘルムホルツとマイヤー、イギリスの物理学者ジュールによって「エネルギー保存の法則」が定格化された。
そして、1905年、アインシュタインは特殊相対性理論で質量とエネルギーが同等であることを示し、「質量とエネルギーの総量の保存の法則」という一般化さえれた形で定式化している。

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