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「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」見ました

shimotakaido

京王線で新宿から10分、明大前駅のひとつ隣、下高井戸駅前は再開発からも免れ、昭和の名残がある商店街が並ぶ牧歌的な街ですが、下高井戸シネマも、昭和の「名画座」「二番館」の風情を残す良い映画館です。半年前くらいに封切りされ、配信やテレビ放映にはまだ、みたいな作品を上映してます。

ここでエドガー・ライト監督の最近作「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」を見ました。昨年11月に封切られていた作品ですね。

エドガー・ライト作品としては4月公開の「スパークス・ブラザーズ」を先に見てしまったけど、アメリカの制作/公開順だと、この順番で正しいのです。

「ラスホ」(勝手に略す)は、モダンホラーですね。前半はモダンで、後半に行くほどホラーになっていく。あと、やっぱりエドガーは青春映画が好きだねって感じですね。

現代のロンドンと、1960年代のロンドンが交錯する物語。まあ、すでにいろんなメディアでライターの方が解説してる内容と重複しますが、いちおう書いておきます。

イギリスの田舎町に住む少女エリーが、ファッションデザイナーを目指してロンドンの学校に上京(日本人感覚でこう書くしかないw)します。

彼女は両親を亡くしていて、祖母に育てられています。祖母の影響もあり、1960年代の(高度経済成長時代)華やかな「スウィンギング・ロンドン!」時代への憧れが強く、ファッションもレトロ、音楽も懐かしいアナログレコードばかりを聴いている。次第に夢や妄想で60年代の風景が見えてくる彼女を、祖母が心配します。

The Knack ...and How to Get It

この祖母を演じているのは、リタ・トゥシンハムです。
有名な代表作は、1965年のデヴィッド・リーン監督の大作「ドクトル・ジバゴ」なんですが、ぼくら世代に印象的なのは、同じ1965年に制作された「ナック」ですね。

2本のビートルズ映画を制作したリチャード・レスター監督が、その「ヤァヤァヤァ!」「HELP!」の間に撮った、隠れた名作。(1980年代に初期ビートルズを意識したファッションで「マイ・シャローナ」がバカ売れしたバンド「ナック」もこの映画から名付けられた、と言われている)

まさにスウィンギング・ロンドンのリアルタイムに作られた青春映画で、田舎からロンドンに出てきて都会に翻弄される無垢な娘を演じて、観客をキュンとさせてました。

まあ自分は70年代に初めてテレビで見て、80年代にリバイバル公開やビデオで見ましたが。ほんとに可愛かったです。最初は素朴な田舎娘なのに、どんどん美少女に見えてくる、たまらない演出。

この人が実際におばあさんになって、いま2020年代に、この話のこの役をオファーする、というのが、エドガー監督の映画愛を感じて泣かされます。

The Collector

そしてエリーが、ソーホーの夜の街に出ていくと、必ず出くわす謎の老人がいます。エリーは、自分の夢の中に出てくる1960年代のソーホーで、女をだまして集める悪い色男デヴィッドの成れの果てに違いない、と疑うのですが。。

この老人役を演じているのが、やはり1965年に! ウイリアム・ワイラー監督の名作サイコホラー映画「コレクター」で、女性をコレクションのように監禁する狂気の青年を演じて一世を風靡したテレンス・スタンプです。これはよくテレビ放映されてたので、ご覧になった方も多いと思います。

この人が実際におじいちゃんになって、いま2020年代に、この話のこの役をオファーする、というのが、エドガー監督の映画愛を感じて泣かされます。

007 James Bond

劇中、エリーが過去のロンドンに迷い込んでいくと、これも1965年の007シリーズ第4作「サンダーボール作戦」が公開中のでっかい看板が目に入ります。

そしてエリーが現代のロンドンで間借りする部屋の大家のおばあさん、この人も物語の重要人物ですが、

演じているダイアナ・リグという女優は007シリーズ第6作「女王陛下の007」(1969年)でヒロイン、ボンドガールをやってた人なのです。

ボンド役は1作きりだったジョージ・レーゼンビー

この人が実際におばあちゃんになって、いま2020年代に、この話のこの役をオファーする、というのが、エドガー監督の映画愛を感じて泣かされます。

「ラスホ」完成後に亡くなられたそうで、映画の冒頭、タイトルバックに「ダイアナに捧ぐ」というテロップが出てきます。

さらに、エリーがバイトするソーホーのバーの女主人役で出てくるおばあさんも、マーガレット・ノーランという女優で「ヤァヤァヤァ!」にも出ていて、007シリーズの第3作「ゴールドフィンガー」であの! 全身金粉にされてしまったボンドガールだった人らしいです!

この方も「ラスホ」完成後に亡くなられたそうで、惜しいことです。

やっぱ1960年代へのこだわりがすごいですね!

ホラーとしても、様々なホラー映画へのオマージュがあると思うんだけど、ぼくは血まみれホラー苦手なので、そこは詳しい方にまかせます!

あとはまあ、ネタバレにならない程度に言うと、現代らしいポリコレというか、少女を娼婦扱いでボロボロにしたオッサンたちが惨殺されてることがわかった、てとこでも「それは普通に正しいことなのよ」ていう感じとか。

あとエリーを助ける彼氏の存在、最近の映画にありがちな、主人公が勝ち気な少女だと、助ける男はちょっと気の弱そうな善良な黒人の少年、てとこか。このへん今の時代の映画だな〜と思いました!

あと、言うまでもないと思いますが、音楽の使い方もいちいち全部素晴らしかったです!
あのジョージ・ハリソンが1980年代にカバーして大ヒットした「セット・オン・ユー」のオリジナルバージョンを使ってたのが特にイイと思いまいした。

音楽も、60年代の曲ばかり使われてんだけど、パーティーのシーンでスージーアンドバンシーズがかかって、60年代じゃない! あ、でも、現代の場面だからいいのか。いや、現代としたら古すぎるわ! と二度突っ込みした。

主人公のエリーは、1960年代の悪霊に悩まされ、現代の世界でも服飾学校でイジメにあったりしますが、ラストには双方丸く収まるシーンもあって、エドガー監督に救われる思いです。

みなさんもまた、DVDや配信でぜひ見てください。(ぼくは〜後半怖すぎるので、たぶんテレビで放映されても前半しか見れないかも〜。。)

2022年4月21日 かとうけんそう


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