見出し画像

ガン細胞プログレッションは、自律神経系の調節を受けている

タイトルは、
乳がんプログレッションへの自律神経支配と活動の影響
『Genetic manipulation of autonomic nerve fiber innervation and activity and its effect on breast cancer progression』
https://www.nature.com/articles/s41593-019-0430-3#Sec34

【感想】
神経系と免疫系の相互作用は思った以上に奥深い。熱や痛みを伝える侵害受容神経は、CGRPやSubstancePなどの液性因子を放出することで血管透過性を高め、皮膚への好中球の浸潤を促進することが知られている。今回は末梢神経系の中でも自律神経系についてだ。ガン組織に張り巡らされた自律神経系のうち、交感神経系ががんプログレッションに対し正に制御し、副交感神経系が負に制御しているという内容で、表現型が劇的なので衝撃を受けた。

本研究の特徴は、がん組織選択的な自律神経系の操作技術が大きなドライビングフォースを生み出している点だ。薬理学的な手法による自律神経系操作では、多くの生理活性変化が生じてしまうため、がん組織における自律神経系の役割の重要性を濁してしまう。著者らは、アデノ随伴ウイルスベクターを用いたガン組織における自律神経系選択的な遺伝子発現同導入法により、ガン組織における自律神経系の役割について証明している。
表現型が劇的で(AAV-DTAでの神経除去系が少し気になるが,それについてはCreERTなどで詳細に検討していた)、ガンー自律神経系相関の存在を頭に入れておくべきという認識を持った。
またTHプロモーター、ChATプロモーターAAVを用いた交感神経系と副交感神経系をそれぞれ制御する実験系は、汎用性の高い実験系だなと感じた。

さらに交感神経除去および副交感神経刺激により、免疫系のうち制御性T細胞(FOXP3,marker)が減弱し、CD4,CD8陽性T細胞でのIFNγが発現増大することから、自律神経系による免染障害機構の賦活化機構がガン細胞への縮小を導いている可能性がある。ガン細胞の免疫チェックポイント機構に重要なPD1-PDL1の分子も増減するため、免染チェックポイント阻害との組み合わせはあまり良くないかもしれないが、自律神経系が免疫系のホメオスタシスを調節している重要な知見であると感じた。

自律神経系がどのような分子メカニズムを介して、ガン細胞プログレッションと免疫系の調節を行っているのかについてはこれからの課題と思われる。ガン細胞に対して、直接的あるいは間接的な経路のいずれの制御が大切なのだろうか。

【Abstract】
ガン及びガン成長における自律神経支配の影響については明らかになっていない。
ヒト乳がん移植マウス(化合物誘導乳がんラット)を用いて、遺伝学的な制御によって自律神経系を操作する方法を確立した。この方法でガン細胞における交感神経系を刺激すると、ガン細胞のプログレッションが加速したが、副交感神経を刺激した場合では逆にガン細胞の縮小がみられた。さらに、ガン細胞に投射している交感神経系を選択的に除去することで、ガン細胞の縮小と種々の免疫チェックポイン機構に関わる分子(PD-1, PD-L1, FOXP3)の発現が減弱した。これらの効果は、薬理学的な交感神経系ブロック(α及びβアドレナリンレセプター阻害薬)に比べて大きなものであった。これとは反対に、副交感神経系の遺伝学的な刺激によりPD-L1, PD-1の発現は低下した。乳がん患者におけるレトロスペクティブ解析は、がん組織での交感神経系の神経密度の増大、副交感神経系の神経密度の減弱をそれぞれを示しており、これらは治療結果及び免染チェックポイント分子発現とも高い相関性を示した。以上の結果より、ガン組織に認められる自律神経系がガン細胞プログレッションに影響を与えることが示唆された。

【結果】
AAV-THプロモーターを用いた交感神経系の機能制御法

AAV-TH(promoter)-NaChBac(T220A) 刺激系
AAV-TH(promoter)-DTA 除去系
・刺激系により、BT-549 cell移植ガン細胞が増大し、肺に転移
・除去系により、BT-549 cell移植ガン細胞が縮小
・刺激系によるMDA-MB-231移植ガン細胞の増大分はプロプラノロールにより抑制されるが、通常のMDA-MB-231移植ガン細胞プログレッションは抑制されない。
・除去系によるMDA-MB-231移植ガン細胞の縮小、劇的すぎないか?
・stress負荷は、BT-549 およびMDA-MB-231のプログレッションを招く。この増大分はプロプラノロールにより抑制される一方で、AAV-DTAでは激減する、劇的に

Hras128/DBH-tTA-2A-Cre rats
AAV-TH(promoter)-NaChBac(T220A)  Dox-cre依存的刺激系
AAV-TH(promoter)-floxed-DTA  Dox-cre依存的除去系
・Dox-cre依存的除去系により、MNU誘導ガンが縮小する
・Dox-cre依存的刺激系により、Dox処置に依存してMNU誘導ガンがプログレッションする

Hras128 rats
AAV-TH(promoter)-floxed-DTA
AAV- -DTA  タモキシフェン投与-cre依存的除去系
・タモキシフェンの投与に依存して、MNU誘導ガンが縮小する
タモキシフェンを投与していない場合は、他のコントロール群と同程度のガンプログレッションが引き起こされる
⇒DTA実験系の妥当性が示されている

AAV-ChATプロモーターを用いた副交感神経系の機能制御法

交感神経での実験系の反対の表現型が出現する。


【学習】
BT-549 cells (Human Breast Carcinoma cell line)
MDA-MB-231:Human Breast Cancer
プロプラノロール;β1受容体とβ2受容体を遮断する、アドレナリン作動性効果遮断薬
フェントラミン;可逆的α1・2受容体非選択的遮断薬
chronic restraint stress,;チューブに閉じ込めるストレス
N-methyl-N-nitrosourea (MNU)-induced breast tumors;N-メチル-N'-ニトロ-N-ニト. ロソグアニジン(MNNG)やN-メチル-N-ニトロソ尿素(MNU)は胃,大腸,小腸等に多臓器発がんを引き起こすこと. が実験動物で確認されている

【テクニカル】
AAVのretrograde取り込みによる自律神経系への遺伝子発現技術
chronic restraint stress

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?