見出し画像

Th2免疫による”ガン細胞兵糧攻め”

Twitterでは毎日論文紹介をパワーポイントで紹介中
https://twitter.com/kensho_2021pham

タイトル
TGF-β suppresses type 2 immunity to cancer
『TGF-βシグナルはガンへのTh2免疫を抑制している』
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2850-3

【感想】
“Th2の兵糧攻め”、直接攻撃するのではなく酸素や栄養を運ぶ血管循環をシャットダウンするという素晴らしい活躍ぶりだなと感激した。

通常、TGF-βシグナルはTh1やTh2免疫細胞への分化を抑制している(おそらく生理的にはTh1/2バランスを調節)。ところが、乳がんモデルマウスにおいてこれらTGF-βシグナルをCD4陽性T細胞で阻害してやると、Th2免疫に分化・ドライブし抗腫瘍効果を生み出すという結果だ。
腫瘍組織内のガン細胞は低酸素状態(特に内側)に陥ってしまうため、何とか生き延びようとして微小血管を腫瘍組織内に引き込もうとする(環境適応)。ここでTGF-βシグナルを抑制してやった結果としてTh2-IL-4シグナルが活発化して何らかの形で、この血管変調を抑制して血管を整えてくれる。こうして腫瘍組織内に血管をひけなくしてくれる。まさに“Th2の兵糧攻め”だ。ガン細胞を直接攻撃するのではなく酸素や栄養を手に入れられないガン細胞が死に追い込まれるということだ。

【概要】
・CD4陽性T細胞でのTGF-βシグナルはガン細胞の発達を促進する
FVB/N-Tg(MMTV-PyVT)634Mul/J(乳がんモデルマウス)+ a floxed allele of the Tgfbr2 +Thpok-cre(成熟CD4+ T cellsでCreドライブ)=Thpok-cre;Tgfbr2fl/fl PyMT
乳がんモデルマウスでCD4陽性T細胞特異的にTGF-β受容体を欠損したマウスを作製
⇒このマウスでは、Tumour burdenが減少することから、CD4陽性T細胞でのTGF-βシグナル抑制が抗腫瘍効果につながる。

Thpok-creをFoxp3-cre(Treg)やCD8a-creに変えても抗腫瘍効果はみられない
⇒CD8陽性T細胞や制御性T細胞のTGF-βシグナル抑制は抗腫瘍効果につながらない。

・CD4陽性T細胞でのTGF-βシグナル抑制により腫瘍組織内の血管構造が整えられる
Thpok-cre;Tgfbr2fl/fl PyMTでは腫瘍組織内の血管構造が異なる
①血管傷害や血中成分の漏出がみられない。
②イレギュラーな血管新生は起こっておらず秩序を保った血管構造をとる
③ガン細胞は低酸素状態になっている(細胞死も確認)
⇒以下詳細
血管はCD31(血管内皮細胞マーカー)で評価されている。
血管膜の構成成分であるコラーゲンやフィブロネクチンがCD31と綺麗に重なる。
血中に投与したビオチンを腫瘍組織で染色するとビオチンが血管から漏れ出している。
低酸素状態はHypoxia Probe(HPP)で評価
細胞死はcaspase(CC3)で評価

・TGF-βシグナル抑制によって免除系で何が起こっているか
Th1とTh2の分化が促進されていた(Flowcytometry)
Th1はINFγ陽性分画が増加、Th1はIL-4陽性分画が増加で評価
Thpok-cre;Tgfbr2fl/fl PyMTかつ、INFγ欠損させたマウス
Thpok-cre;Tgfbr2fl/fl PyMTかつ、IL-4欠損させたマウス
を用意(めちゃくちゃマウス掛けあわせていて驚く)
INFγ欠損においては抗腫瘍効果が保たれる
IL-4欠損においては抗腫瘍効果が消失する
⇒このことは、TGF-βシグナル抑制による抗腫瘍効果にはIL-4が必要であることを意味する。つまりTh2免疫が重要であるということ(論文タイトルにつながる)

・TGF-βシグナル抑制によるIL-4シグナルで何が起こっているか
①Thpok-cre;Tgfbr2fl/fl PyMTかつ、IL-4欠損させたマウス
②Thpok-cre;Tgfbr2fl/fl PyMT
③IL-4欠損マウス
④Tgfbr2fl/fl PyMT

①―④のマウスでRNA-seqを行い網羅解析した。
中でもIL-4依存的かつTGF-βシグナルなしのT細胞で上昇している因子が、
抗腫瘍効果に重要な未知の因子なのでは?と考えた。
⇒つまり②で発現上昇して、①では発現上昇していないもの。
色んな因子が上がっている。
IL-4やIL-5なども発現上昇しているので、TGF-βシグナル抑制によって、
Th2免疫がポジティブフィードバックによりどんどん活性化している可能性が
示唆された。
co-stimulatory receptors and adhesion molecules such as Icam1, Il1r2, Il3ra, Tnfrsf18 and Tnfrsf4;
signalling molecules such as Jak3, Map2k3, Map3k10, Map3k11, Mapkapk2, Pik3c2b, Sh3bp2 and Zap70;
calcium, glucose and amino acid transporters including Orai1, Slc2a1, Slc2a8 and Slc7a5; and
glycolytic enzymes including Hk2, Ldha, Pgk1 and Pkm
secreted molecules
comprising TH2 cytokines Il13, Il4 and Il5
type 2 effector molecules
including Areg, Metrnl, R3hdml and Retnlg
transcripts encoding transcription factors
that function in major regulatory nodes of T cell activation and TH2 cell differentiation
Batf, Bhlhe40 and Pparg
結果は以上です。
TGF-βシグナルがTh2免疫を抑制している。IL-4以降のメカニズムは分からないが、TGF-βシグナルを阻害した結果、腫瘍組織内の血管構造が乱れ(血管傷害やイレギュラーな血管新生など)が改善されてガン細胞死が引き起こされ抗腫瘍効果につながる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?