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腫瘍組織におけるインターフェロンの多様な機能と免染チェックポイント阻害薬との関係性

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タイトル
『Opposing Functions of Interferon Coordinate Adaptive and Innate Immune Responses to Cancer Immune Checkpoint Blockade』
ガン免疫チェックポイント阻害における獲得免疫と自然免疫のインターフェロンγへの応答性は相反する』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867419307846?via%3Dihub

【感想】
 腫瘍組織におけるインターフェロンのシグナル伝達がいかに複雑で、そして研究が難しいのかがよくわかる論文だった。ガン細胞におけるINFγシグナルは、ガン細胞が免疫細胞からの攻撃に耐えるためのフィードバック抑制機構を動かしていることがわかった。具体的には、PDL1の増加(免染チェックポイント機構)やTRAILR2の低下(自然免疫系のILC1細胞の標的受容体)が関わっているようだ。それからガン細胞でINF受容体を欠損させた上で、INFγを投与してやる実験で自然免疫系(CD45+, NK/ILC1s)が増殖していたので、ガン細胞以外にINFγが作用することで、自然免疫系が賦活化されて抗腫瘍効果が発揮されるのだろう。また、免染チェックポイント阻害薬は獲得免疫系のみならず、自然免疫系を高めるのに効果的なことは驚きだった。自然免疫系、特にPD1+ TRAIL+ ILC1細胞はこの経路に重要かもしれない。
とにかく、様々な免疫系が入り混じるこの領域の研究は一筋縄ではいかないようだ。INFの作用点が色んなところにあるということはそれだけ考察することが増えて、結局何が何だか分からなくなってしまうからだ。今回の論文は、INFG受容体欠損ガン細胞を使用することで、色んなことが分かった気がする。この領域には今後も注目して論文紹介していきたいと思った。
そして、免染チェックポイント阻害薬は革新的な治療薬だが、効く患者さんと抵抗性のある患者さんがいるのも事実で、そのメカニズム、効くか効かないかを予測するバイオマーカーなどの研究も盛んに行われていること、それが重要なことがよく分かった。


【Abstract】
インターフェロンγ(INFγ)は免疫機能を増加させる一方で、PDL1を介したexhausted T cellの抑制を促進するはたらきも持つことが知られている。これらの相反する効果が免疫チェックポイント阻害治療時にどのようなインパクトをもたらし、統合されているかはまだ分かっていない。ガン細胞のINFγシグナルを抑制することは、ガン細胞でのINFγ刺激関連遺伝子(interferon-stimulated Genes; ISGs)の発現を減少させる一方で、免疫細胞でのISGsは増大させる。この増大はexhausted T cellによって産生されたINFγにより引き起こされていた。このexhausted T cell拒絶は有効な抗原を有したガン細胞ではみられたが、neoantigen(ガン細胞の変異によって生まれた新規抗原)持つ場合やMHC-Ⅰの消失したガン細胞においてはexhausted T cellは代わりにINFγを使って自然免疫系の分化をドライブさせる。自然免疫系にはNK細胞やPD1+ TRAIL+ ILC1 の細胞種が含まれる。ガン細胞のINFγシグナルを抑制すると自然免疫系の殺傷能力が高まった。これはPD1増大やTRAIL発現低下を阻害した結果によるものであった。
 それゆえに、ガン細胞におけるIFNγシグナルと免疫におけるIFNγシグナルは反対のものとなる。ガン細胞は獲得免疫と自然免疫の両者の殺傷能力を抑制し、免疫系はガン細胞を倒すために自然免疫系を活性化するメカニズムを築くためだ。メラノーマや肺ガン患者においては、腫瘍遺伝子変異量(tumor mutational burden;TMB)非依存的な免疫チェックポイント阻害効果とINFγシグナルのガン細胞での崩壊には相関がみられた。

【Introduction】
免疫チェックポイント阻害効果に影響を及ぼす要因は、ガン細胞の持つneoantigenの種類・豊富さ、MHC-1の抗原提示能の強さ、抑制的な受容体発現などがある。また、免疫チェックポイント阻害反応の指標となるのはtype1とtype2のINF刺激関連遺伝子(ISGs)や腫瘍遺伝子変異量(tumor mutational burden;TMB)、PDL1の発現量である。

①INFγとtype1 IFNの両者は、免染系による抗腫瘍作用に重要なパスウェイである。IFNは免疫機能を高める。これはIFN がMHC-1の発現誘導や樹状細胞がT細胞にcross primeするのを助けるためである。このようにINFは初期の抗原認識を助け、樹状細胞と獲得免疫の相互作用を助ける。したがって、IFNパスウェイを消失すると免疫チェックポイント阻害薬に対する抵抗性を示す。また動物実験においても特定のモデルマウスではこれらIFNパスウェイが免疫チェックポイント療法に重要なパスウェイであることが裏づけられている。これらの結果から、INFγパスウェイは獲得免疫の抗がん作用を高めることで、免疫チェックポイント阻害薬における治療効果に一役買っているということが言える。

 ②一方で、ガン細胞においてIFNパスウェイに変異がある患者さんの中には免疫チェックポイント阻害が効果的な人がおり、加えて免疫チェックポイント阻害有効性と相関して、血漿中IFNγ量は高まっている。この矛盾から言えることは、IFNパスウェイにはフィードバック抑制機構があるということで、ガン細胞IFNパスウェイが働いたときに、IFNγの産生量を抑制する機構(フィードバック抑制機構)が存在するということかもしれない。また、慢性的な病原体感染によって持続的なIFNシグナルとISGsがあるような状態においては、過剰な免疫応答による疾患を生み出さないように免染反応を減弱させるシステムがある。

 ①と②でみられたように、腫瘍組織でのINF増大=ガン細胞傷害性が高まる、という安易なストーリーは描けないように思える。しかし、②を考えることで、ガン細胞による慢性的なシグナルはこの2相性IFN反応の矛盾をとけるかもしれない。ガン細胞において、IFNγの受容体(INFGR)やtype1受容体(IFNAR)を遺伝学的に欠損させると、PDL1やその他抑制的なリガンド発現、グランザイムB(細胞障害性顆粒)を阻害するSERPINB9の発現が低下する。つまりガン細胞にIFNが作用するとガン細胞は免疫系を弱めたり(PDL1増大)、免疫系への抵抗性を高めたりするということだ。

 免染チェックポイント阻害薬の抵抗性に共通したメカニズムとしてMHC-1のbeta-2 microglobulin(B2M)の消失がある。これは獲得免疫がガン細胞を認識できないことによる。
(こちらは、過去にガン細胞オートファジー機構によるMHC-1分解について論文紹介したので、参考になれば幸いです。)
https://note.com/kensho1007/n/nc1bb449b7ca8
しかし、B2Mの消失がみられる場合でも、免染チェックポイント阻害に有効性のある患者もいる。これは獲得免疫のみならず、自然免疫が免染チェックポイント阻害薬の抗がん作用に関わることを示唆している。実際に自然免疫系であるNK細胞やILCsはガン細胞を殺傷する能力としてパーフォリンやTRAIL(TNFファミリー受容体)を有している。そしてこれら自然免疫系の殺傷効果は、細胞成熟や活性化及び抑制リガンドとの兼ね合い、そして免染チェックポイントのリガンド(PD1,TIM3, and TIGIT)によっても変化するのだ。こうしたことから、獲得免疫が認識できないガン細胞(MHC-1がないガン細胞やneoantigenがないガン細胞)に対して、自然免疫系は重要な働きをもっており、免染チェックポイント阻害薬の効果にも一役買っているのかもしれない。
しかしながら、自然免疫系がどのようにしてガン細胞の殺傷反応を促進させているのかについてはあまり分かっていない。

【結果】
Figure1
ISGs発現はガン細胞と免疫細胞において異なり、免染チェックポイント阻害効果(腫瘍の縮小)と予測遺伝子変化が反対となっている。

・INFγ刺激関連遺伝子(interferon-stimulated Genes; ISGs)を解析
Res 499, a subline of B16-F10 (B16) melanoma
⇒ICB-resistant B16-F10 tumorとして産み出されたもの
で発現増大しているISG resistance signature (ISG.RS)と免染チェックポイント阻害への抵抗性が相関する。
the IFNG hallmark gene set (IFNG.GS)とISG.RSについてガン組織内のscRNA解析し、IFNG.GSは免疫細胞に発現し、ISG.RSはガン細胞に発現していた。
⇒ガン細胞と免疫細胞では、ISG.RSとIFNG.GSの発現パターンが異なる。

免染チェックポイント阻害薬の抵抗性を予測できるのではないかと考えたところ、
免染チェックポイント阻害薬に抵抗性のある患者では、IFNG.GSが減少し、ISG.RSはガン組織内でリッチだった。
また、高IFNG.GS but 低ISG.RSなガン細胞組織では、CD8陽性T細胞の割合が増大していた。
⇒免疫細胞で高IFNG.GSであることと、CD8の豊富さ、活性化NK細胞の蓄積、免染チェックポイント阻害薬が効くことは、相関がある。
一方で、ガン細胞で高ISG.RSであることは上記三つと反対の効果が表れる。
ICB:免染チェックポイント阻害

Figure2
ガン種は重要な要因である。
ガン種によってMHC-1の発現、TMB、neoantigenは異なっている。

Figure3
ガン細胞に発現しているINFGRとIFNARの遺伝子を欠損させると、免染チェックポイント阻害効果(抗PD1抗体、抗CTLA4抗体)が高まる。
ここに、抗CD8抗体や抗NK1.1抗体を処置すると生存率が低下することから、免染チェックポイント阻害効果はCD8陽性T細胞あるいはNK細胞あるいはその両方が関わることが示された。
さらに、B2M(MHC-1のサブユニット)を欠損させたガン細胞であっても、免染チェックポイント阻害による抗腫瘍効果が認められた
⇒獲得免疫系非依存的な免染チェックポイント阻害効果があることを示唆

Figure4
ガン細胞に発現しているINFGRとIFNARの遺伝子を欠損させて、ガン細胞組織内のscRNAについて解析すると、免疫細胞の中でCD8の分画(クラスター)が増大した(expansion)。
CD8の分画(クラスター)は、
マクロファージやモノサイト樹状細胞などの分画でIFNG.GSが増大していた。ここの分画が結構変化している感じがするが?あまり既述されていない。
さらに、NK細胞/ILC1の分画について調べると、NK細胞は成熟型(CD11b high)に変化し(エフェクター化)、ILC1はPd1 (Pdcd1) and Trail (Tfnsf10)の発現レベルが増大した(PD1+ TRAIL+ ILC1s)。

Figure5
ガン細胞INFγシグナルは、PDL1の発現を高め、TRAILR2の発現を低下させることで免疫抵抗性を獲得するフィードバック抑制機構である。

・B細胞・T細胞免疫不全マウス(RAG KOマウス)に、IFNGを欠損させたマウス由来のT細胞を移植する実験を行った。これにより、INFγ放出を失ったT細胞を持つマウスが生み出される。
このマウス(ガン細胞;Res 499 IFNGR knockout tumorsを移植)では免染チェックポイント阻害(抗CTLA4抗体)による生存率が、コントロール(野生型マウス由来のT細胞を移植したRAG KOマウス)に比べ低下した。
⇒T細胞由来のINFγが免染チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果に重要。
IFNγどこに作用している?
CD8を抗CD8で除去すると、CD11b+ NK/ILC1sの割合が減少したので、ここに作用?
CXCL10やINFγを直接ガン組織に投与するとCD11b+ NK/ILC1sの割合減少が回復した。
また、免染チェックポイント阻害薬の効果についてもNK/ILC1s依存的であるが、CD8陽性T細胞の除去により消失し、IFNγの投与により回復した。
⇒INFγシグナルを失ったガン細胞においてはNK/ILC1s依存的な免疫チェックポイント阻害効果がみられた。これらの効果はCD8由来のINFγ依存的であった。
このことは、ガン細胞INFγシグナルはガン細胞の生存を高め、CD8陽性T細胞由来INFγが自然免疫系(NK/ILC1s)の機能を高めることを示している
・ガン細胞INFγシグナルはガン細胞の生存を高めるメカニズムはPD1/PDL1を引き起こすことが原因?ILC1 cellsはPD1を発現しているので。
IFNGR欠損ガン細胞にPDL1を発現させてやると、免染チェックポイント阻害の効果を失ってしまった。
ガン細胞のINFγシグナルとPDL1発現には関係性がありそう。
ガン細胞でPDL1を欠損させると、免疫チェックポイント阻害効果が改善し、これにはNK/ ILC1sが必要であった。
ガン細胞のINFγsignalは、自然免疫系(NK/ILC1s)を抑えるためのPDL1によるフィードバック抑制機構である。
TRAIL2を欠損させたマウスでは免染チェックポイント阻害による抗腫瘍効果が消失した。
⇒PD1+ TRAIL+ ILC1sが免染チェックポイント阻害における抗腫瘍効果に関与?
ガン細胞のINFγsignalは、自然免疫系(NK/ILC1s)の標的となるTRAILR2の発現を低下させることで自然免疫系への抵抗性を手に入れる。そしてTRAILR2を欠損したガン細胞は免疫チェックポイント阻害効果が高まる。

Figure6
ガン細胞IFNγシグナルの抑制後にみられる自然免疫系(NK/ILC1s)の反対は、制御性T細胞(Treg)によって抑制される

Figure7
ガン細胞のINFパスウェイの変異を調べることで、免染チェックポイント阻害の治療を受けたとき肺がん患者の生存率やINFγ抵抗性遺伝子群の減少を予測することができる。

【学習】

【テクニカル】

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