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自然免疫トレーニングによる抗腫瘍効果

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けむ論文紹介(スペース)40

タイトル
Innate Immune Training of Granulopoiesis Promotes Anti-tumor Activity
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31299-X

【感想】

 CNS-myeloidsやbone-marrow-derived myeloid cells: BMDMsが腫瘍組織に入り込むと多様な変化遂げる、しかもそれはガン細胞にとって都合の良いような形(免疫チェックポイントを発現したり)に変化してしまうことが過去の論文紹介からもよくわかる(https://note.com/kensho1007/n/nd42999ed685e)。このように骨髄系細胞は腫瘍環境においてガン免疫系に対して抑制的に変化してしまう場合がある。βグルカンを事前に投与しておくと、自然免疫のエピジェネティック変化を誘導し抗腫瘍効果がでるという驚きの結果である。好中球リプログラミングや顆粒球の再編によって引き起こされている"自然免疫系のトレーニング"という概念は興味深く、一度トレーニングされた自然免疫は数週間持続するようだ。骨髄移植によってもトレーニング自然免疫系を他者に移すことができるだが、骨髄移植のハードルは高そうなので、薬によって自然免疫系をトレーニングすることができれば、ガン細胞に負けない自然免疫を手にすることができるのかもしれない。

【概要】

 骨髄前駆細胞あるいは成熟骨髄系細胞に訓練された自然免疫によって、二回目の抗原応用性は持続的に増加する。抗腫瘍免疫は訓練された自然免疫によって高められるか否かについて検討した。βグルカンは真菌に由来する古典的な自然免疫の訓練アゴニストで、これを前処置したマウスではガン細胞の成長が抑制された。βグルカンの抗腫瘍効果とエピジェネティック顆粒球再編成や好中球リプログラミングと相関性があり、自然免疫は抗腫瘍フェノタイプへと変化した。またこれらのプロセスには宿主の獲得免疫系とは無関係な1型INFシグナルを必要とした。βグルカンによって訓練された好中球をNaïveマウスに移植すると、ROS依存的にガン細胞の成長は抑制された。さらにβグルカン訓練による顆粒形成させた骨髄をNaïveマウスに移植しても抗腫瘍効果は発揮された。これらの結果より、適切な顆粒球再形成といった免疫の訓練による新たな抗がん剤治療戦略が見出された。

【結果】

βグルカンの抗腫瘍効果
・ガン種は、B16-F10 melanoma(メラノーマ)とLLC1 cells(肺ガン)
C57BL/6 WTマウス、Rag1欠損マウス(T細胞とB細胞が分化しない免疫不全マウス)のいずれにおいてもβグルカンをガン投与7日前処置(i.p.)するとガン細胞の成長が抑制された。また、βグルカンによって腫瘍内に浸潤している免疫系細胞種の割合に違いは認められなかった。
⇒βグルカンによる抗腫瘍効果に獲得免疫系は関与していない。

βグルカンによる抗腫瘍効果は好中球依存的
・tumorassociated neutrophils (TANs) (CD45+ CD11c-CD11b+ Ly6g+ Ly6c-) and tumor-associated monocytes (CD45+ CD11c-CD11b+ Ly6g-Ly6c+ )において、コントロールとβグルカン群でRNA解析(シングルセル解析ではなく、FACSで分取してRNAシークエンス)

Monocytesにおいてはβグルカンによって大きな遺伝子変化は認められなかった。
一方で、βグルカンによってTANsにおいては遺伝子プロファイルが変化し、TAN1 phenotypeに変化していることが示唆された。
※TANsはTAN1とTAN2に分けられ、TAN1は傷害性、抗腫瘍性フェノタイプとされ、TAN2は腫瘍促進的なフェノタイプとされているようだ。

そこで、好中球欠損マウス(NCF1欠損マウスNcf1m1j/m1j)を用いたところ、予想通りβグルカンによってみられていた抗腫瘍効果は消失した。

トレーニング自然免疫の抗腫瘍効果はとても持続し、他の個体に移植されても持続する。
βグルカン処置をガン細胞投与7日前ではなく、28日前に行っても同様に抗腫瘍効果は見られるのか、という実験を行ったところ、やはり抗腫瘍効果が認められた。
好中球の寿命はせいぜい1日くらいなので、持続的な骨髄細胞のアダプテーションが必要なはずである。そこで骨髄移植の実験を行った。
βグルカンで刺激したマウスのBone marrow(BM)を骨髄細胞放射線除去したマウスに移植した。その後、ガン細胞を処置すると、ガン細胞の成長を抑制した(通常のβグルカンより作用は弱いが)。腫瘍組織内の好中球もTANsはTAN1フェノタイプだった。
⇒βグルカンで刺激されたBMは、別の個体に移植されても抗腫瘍効果の高い好中球を生み出し続けることができる。

好中球前駆細胞でのType1-INFパスウェイの関与
TANsとgranulocytemonocyte progenitors (GMPs)についてβグルカン刺激後のRNA-seqデータからIPAパスウェイ解析を行い、TANsは抗腫瘍効果が高く、また上流のパスウェイとしてGMPsのType1-INFシグナルが高まっていることが見出された。
(IPA: Ingenuity Pathway Analysisは、マイクロアレイやRNA-Seqなどの実験データから生物学的な機能の解釈やパスウェイ解析)
βグルカン群でgene set enrichment analysis (GSEA)のパスウェイ解析からもINF-αとJAK-STATに正の相関が認められた。
(GSEAは、特定のパスウェイに関する遺伝子セットについて二群間で偏りがあるかどうかを調べることができる)

好中球前駆細胞のエピジェネティック変化
・high-throughput sequencing (scATACseq)
ゲノムのオープンアクセス領域をシングルセルで比較する。
βグルカンで刺激群の好中球で多く見られるクラスターにおいてType1-INFシグナル因子が認められた:Ifnar1, Irf1, Ifitm1, Ifitm2, and Ifitm3
またクラスターにおける転写因子エンリッチメント解析はIRF1モチーフ(Type1-INFシグナルと関わりが深い)が含まれていることを明らかにした。このことから、βグルカン刺激によるエピジェネティック変化がType1-INFシグナルを高めている可能性が示された。

Type1-INFシグナルの抑制によりβグルカン刺激の抗腫瘍効果は消失した
・scATACseqの解析から見出されたINFα受容体であるIfnar1に着目した。
Ifnar1欠損マウスにおいて、βグルカン刺激での抗腫瘍効果が消失した。
Anti-INFa抗体により、βグルカン刺激での抗腫瘍効果が抑制された。

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