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沖縄で生きた“ひめゆりの生徒たち”の一大青春譚

沖縄師範学校女子部、沖縄県立第一高等女学校(沖縄女師・一高女)の生徒たちが生活を共にした寄宿舎「ひめゆり学園 寄宿舎」での青春を綴った書籍「ひめゆりたちの春秋-沖縄女師・一高女の『寄宿舎』-」(ボーダーインク)が発売された。

同書は、1916年に「ひめゆり学園 寄宿舎」が落成してから、1945年3月22日に最後の留送別会が行われるまでの生徒たちの日常や思いを綴った、仲程昌徳(なかほど・まさのり)氏の新著。

“ひめゆり”という言葉からピンと来た人も多いと思うが、沖縄戦時、“ひめゆり学徒隊”として負傷兵の看護に当たっていた彼女たちが所属していた学園のこと。

沖縄戦当時の印象から辛い内容を連想していたが、本書でつづられているのは、まさに生徒たちの青春の思い出が多い。特に、生徒たちの個人の日記からの引用もあり、まさに心の内から語られた内容が並び、時には微笑ましい描写も。

そういう意味で、本書は当時の文化や流行なども垣間見えて、まさに貴重なドキュメンタリーと言っても過言ではない。

構成は、寄宿舎の落成当時となる「寄宿舎へようこそ」から始まり、「寄宿舎の始まりと事件」「大正期の寄宿舎生活と団欒」「社会情勢の変化と寄宿舎」「しのびよる軍国化」「太平洋戦争への道」「戦時下の行事と楽しみ」「十・十空襲をくぐり抜けて」「一九四五年の寄宿舎」「『ひめゆり学徒隊』として」という、時系列で10章立て。

寄宿舎での楽しみの一つである食事の献立、木曜日に出されていた「蜜柑のおやつ」、男女の交際が厳しく制限されていた中で起きた“ラブレター事件”、制服の変遷、1921年頃は家からの仕送りが5円でそのうち学校や寮に払うお金は1カ月1円20銭程度だったこと、関東大震災の支援として生徒みんなで救援の衣類を縫ったこと、1年で最大のお祭りで外出も許可された「波乃上祭」のこと、一番美しいと思う人を投票で決める“美人投票”、そして、「市街が真っ赤に焼けている」と日記につづられていた十・十空襲、ひめゆり学徒隊として出陣する最後の送別会のこと。

仲程氏の調査・研究の深さと的確さ、引用の妙から、どの章も一文一文が生々しく、まさに生徒たちの心の声がストレートに響いてくる。そして、「あとがき」のラスト3行に込められた仲程氏の熱い胸の内が語られ、まさに、ひめゆりの生徒たちと仲程氏が奏でる一大叙事詩が完結する。

そして、本書の内容をまさに表現している笑顔の生徒たちを写した1枚を印象的にデザインした、デザイナー・宜壽次美智(ぎすじ・みち)氏の装丁も、その“一大叙事詩”に華を添えている。

戦争の色が徐々に濃厚となっていく中で生きた当時の若者たちの息吹が聞こえて来る、本当に貴重な1冊が誕生した。


「ひめゆりたちの春秋-沖縄女師・一高女の『寄宿舎』-」
発売中 1,650円(税込) ボーダーインク

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