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“第二の人生”を生き抜くヒント

沖縄在住の作家・松永多佳倫(まつなが・たかりん)氏は、このたび、書籍「第二の人生で勝ち組になる」(KADOKAWA)を刊行した。
 
松永氏は、1968年、岐阜県生まれ、沖縄県在住の作家。沖縄県書店大賞を受賞した「沖縄を変えた男 栽弘義-高校野球に捧げた生涯」(集英社文庫)のほか、「マウンドに散った天才投手」(講談社+α文庫)、「最後の黄金世代 遠藤保仁 79年組それぞれの15年」(KADOKAWA)、「偏差値70からの甲子園 僕たちは野球も学業も頂点を目指す」(集英社文庫)、「まかちょーけ-興南甲子園春夏連覇のその後-」(集英社文庫)、「確執と信念 スジを通した男たち」(扶桑社)など、スポーツノンフィクション系を中心に著書多数。
 
「第二の人生で勝ち組になる」は、プロ野球選手を引退した5人の“転職後”の生きざまを紹介するノンフィクション。第1章は元横浜DeNAベイスターズの寺田光輝(てらだ・こうき)氏、第2章は元阪神タイガースの奥村武博(おくむら・たけひろ)氏、第3章は元読売ジャイアンツの松谷竜二郎(まつたに・りゅうじろう)氏、第4章は元千葉ロッテマリーンズの島孝明(しま・たかあき)氏、第5章は元北海道日本ハムファイターズの大嶋匠(おおしま・たくみ)氏。
 
これまでプロ野球選手の“第二の人生”というとこれまでは監督やコーチ、解説者もしくは飲食店のオーナーになるなどが一般的だった。そんな中で寺田氏は「(元プロ野球選手で)医者と弁護士になった者は一人としていない」と著者の松永氏が書いている通り、“球界初の元プロ野球選手の医者”を目指して勉強に励んでいる。
 
寺田氏が医学の道を目指したことは、プロ野球選手としての経験が大きく影響している。「プロ野球選手で活躍している人が才能以上に努力をしているのを垣間見られたことが大きかった。(中略)報われている人はすべからく努力をしていることを身を以て知らされた。だからやる価値があるんだと本当の意味でわかった」ということが原動力となっている。「町医者とスポーツ医学の両方をやりたい」と寺田氏の“第二の人生”はこれからだ。
 
第2章の奥村氏は引退後、9年間勉強して公認会計士の試験に合格した。そのきっかけは、当時交際していた恋人が奥村氏のために「もっと他にも目を向け視野を広げ」てほしいと買っておいたさまざまな資格が紹介されているガイド本だった。「(プロ野球選手として)きちんと消化できて次に踏み出せたからこそ今のチャレンジに繋がっている」と語る奥村氏の言葉に“転機”のヒントが隠されている。
 
第3章の松谷氏は現在、とある建築会社の代表取締役。グループ全体で社員約150人が在籍する組織のトップだ。「違う世界で再出発したいのなら、野球を辞めたときに自分が野球選手だったというのを心の中にしまい、きっぱりと野球を切っておかないと次のステージには行かれない」と、松谷氏も第二の人生を歩む上でのさまざまな秘訣を語っている。
 
第4章の島氏はプロ野球選手から大学生に転身。セカンドキャリア特別選考入試を経て、現在は國學院大学人間開発学部に在籍している。そこでの研究は「バイオメカニクス」。スポーツにおける力学的な観点など難しそうではあるが、島氏は「現役時からデータに関心を持ち、機材を用いてフォームの解析をしていた」こともあり、しっかりとこれまでのスキルや経験を生かしている点もさすが。さらに「心理学も勉強している最中」と、島氏の第二の人生は明るさに満ちている。
 
そして、第5章の大嶋氏は出身である群馬県の高崎市で市役所職員を全うしている。この章ではドキュメンタリー作家としての松永氏の手腕が遺憾なく発揮されており、見事に取材対象者である大嶋氏の本音を引き出すことに成功している。
 
「今の時代、転職が当たり前だと思っているので、プロ野球選手のセカンドキャリアをフィーチャーされても『いやいや転職当たり前だし、そんなに騒ぐことなのかぁ!!』って感じです」と、本書のコンセプトを揺るがすような大嶋氏の言葉を松永氏はきちんと受け止め、「あとがき」でしっかりと昇華させた。ここがこの本の真骨頂の一つであり、ぜひ本書で味わっていただきたい。
 
各章の最後には、第二の人生を始めるための5つのヒントが挙げられている。プロ野球選手という狭き門をくぐり抜け、その選手生命を全力で駆け抜けたこの5人の言葉には、これから第二の人生を歩もうとする人だけでなく、新しいことを始めるあらゆる人の背中を後押ししてくれるエールが詰まっている。
 
 
「第二の人生で勝ち組になる」
発売中 1,870円(税込) KADOKAWA
 

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