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SCM基礎能力④ コミュニケーション力

サプライチェーンマネジメントに必要な能力をまとめていくシリーズの第4回目です。
今回はコミュニケーション力を取り挙げます。

SCMはサプライチェーンの全体管理を行うことです。
サプライチェーンを構築する全部門が対象になります。
そして、ロジスティクスとSCMの違いは、ロジスティクスは社内の物流最適化を指し、SCMはサプライヤーを巻き込んだ最適化を意味しますので、社外との調整も行う必要があります。
ですので、コミュニケーションの力が必要になってきます。


コミュニケーションとは?

そもそも、コミュニケーションとは何でしょうか?
それは、相手と情報を交換し、意思疎通を図ることです。
相手があって初めて成立するもので、
そして相手にちゃんと伝わってなければ意味がないということです。

SCMは一人ではできません。少なくとも、社内と社外の2者は必要になってきますので、もし自社のサプライチェーンの管理をすべてを1人でやっている会社があったたとしても、取引先との連携が発生するので、必ず2人以上になります。

また、会社の中でも、戦略面については経営層と、システム面はIT部門と、販売面は営業やマーケティングと、さらに製造・物流・購買にそれぞれ担当がいて、連携をとる必要が出てくるのが一般的ではないでしょうか?

サプライチェーンをマネジメントするためには、様々な立場の人たちと意思疎通しながら、意思決定をしていく必要があります。
上から目線で「サプライチェーン戦略はこのように決定したから、各部門はそれに従うように!」と言ったところで、良い方向には進みません。
自部門ではデメリットが大きくて反発する部署、メリットが大きいので進めたくて鼻息が荒くなる部署、様子見を決め込む部署、いろいろな部署がでてくることでしょう。
これでは、言いたいことが伝わっている状態ではないので、コミュニケーションが取れている状態ではないでしょう。
また、無理に押し通そうとすると、一部の部署の言い分が完全に無視されることになりますので、その面でもコミュニケーションが取れているとは言えなくなります。

このように、コミュニケーションとは、言いたいことがちゃんと伝わっている状態を指しています。

コミュニケーションのポイント

コミュニケーションは「相手に伝わっている状態」にすることだといいましたが、言うは易し、行うは難しです。
自分と相手は違う人間ですし、違う思考回路を持ち、違う経験をしてきて、違う状況に置かれている人間同士であります。
そんな中、限られた時間の中で言葉を交わして、真にこちらの意図を完全に伝えきる、というのはなかなか難しいものがあります。

なので、数字を使ったり、資料にまとめたりといろいろな工夫をして、何とか伝えたいことをわかりやすくする工夫が必要になってきます。

コミュニケーションにおいて重要なのは、相手の立場に立って、自分が発信する内容が「わかりやすいか」どうかを考えることです。

コミュニケーションをとるのがうまいと自分で思っている人にありがちなのは、単に一方的に人に話すのが得意で、相手に伝わっているかどうかは全く顧みていないパターンです。
逆に、自分がコミュニケーションは不得意だなと思っている人の方が、「どうやったらわかりやすく伝わるか」を考えてから話すので、実は相手から見ると理解しやすい=コミュニケーション能力が高い、ということがあります。

ここで相手の立場に立って考えるにあたって、2つ大きなチェックポイントがあります。
①本当にそうか?
②それで全部か?

と相手が疑問に思わないか、自分が話す前に考えることです。

トヨタ社員は「なぜ」を5回繰り返して考えるという癖がついているという話があります。
これは、表面的なものの見方をして終わるのではなく、物事の本質にたどり着くまで考えることで、問題の根本対策を行っていくという姿勢です。
つまり、「本当にそうか?」と、「それで全部か?」について自分自身でしっかり考える、ということと同じです。

例えば、仕入れ先から「原料Aのコストが20%上がったので、その分を値上げさせてください」という要請があったとしましょう。
その話をあなたの部下が受けて、その通り上司であるあなたに伝えてきて、「値上げを受け入れるしかありませんね」と言ってきたらどうしますか?

ちゃんと自分で考えて仕事をしろ、と教育をしたくなりますが、ここでいう「ちゃんと自分で考える」ということはどういうかとでしょうか?
それは、
・まず原料Aのコストが本当に20%上がったのかをちゃんと調べる
 →相手に「本当にそうか?」と言われないようにする
・原料Aがコスト増であったなら、他の仕入れに影響してないかを調べる。
 →相手に「それで全部か?」と言われないようにする
ということをきちんと部下が自分自身で確認し、その結果を踏まえて上司に報告することだと思います。

なぜを5回繰り返す切り口で考えると、
「なぜ原料Aは20%もコストが上がったのか?」
「なぜほかの仕入先は値上げ要請をしてこないのか?」
「なぜその仕入先は原料のコスト増を吸収できないのか?」
「なぜその仕入先は、このタイミングで値上げ要請をしてきたのか?」
「なぜその仕入先は(部下の)自分に対して値上げ要請をしてきたのか?」
などを考えていくと、はじめの「値上げを受け入れざるを得ない」という結論から違ったことが見えてくると思います。
それは仕入先の本当の事情であったり、この値上げ要請を回避する対策であったりすることもあります。
また、もし今回値上げ要請を受けざるを得なくなったとして、今回深く考えて調べたことは、確実に次の交渉・他社との交渉に活きてきます。

コミュニケーションとは「相手の立場に立って」「わかりやすく」伝えることが重要になります。
また、相手から「それは本当か?」「それで全部か?」と質問が来ないようにあらかじめ確認しておくことが、スムーズなコミュニケーションにつながります。

コミュニケーションの基本はGive & Take

コミュニケーションとは、相手にわかりやすく意図を伝え、物事を進展させていくことです。
大事な心構えとして、コミュニケーションはGive & Takeで考えるべきです。
Give & Takeというと、ビジネスライクな、利益に基づいた関係というイメージを持たれている方もいるかもしれません。

そういう方は、Give & Takeという言葉は、まず「Give」から始まっていることに着目してみてください。
そう、まず与えることが先に来て、そして次にお返しを受け取るということがGive & Takeのその言葉通りの意味になります。
SCMにおいて、この「まず与える」ということが非常に重要だと考えてます。

というのは、基本的にマネジメントというのは、現場作業・現場判断がまずあって、それを管理・改善するということです。
ですので、まず現場の情報・実際の情報がないと何もできません。
医者が患者の情報なしで、診断を下すことができないのと同じです。

しかし、だからと言って頭ごなしに「情報を出せ」と言っても、基本的に大した情報は集まりません。
現場は忙しく、馬鹿な本部に関わっている暇はないですし、変に情報を出して怒られるのも嫌なものです。
ですので、現場から何か情報を得たいのであれば、まずこちらから相手に有益な情報を提供したり、その情報をもらうことで将来どういう良いことが現場に与えられるかを提示する必要があります。
そうすることで、徐々に信頼を得ることができますし、信頼がたまれば相手から勝手に相談がくることにもつながってきます。

このように、まずコミュニケーションにおいては、相手に何をGiveできるだろうかについて常に考えることが重要です。
相手には相手の都合・仕事・優先順位があります。
それを無視して「全体最適」は進めることはできません。

コミュニケーションは空中戦を避ける


コミュニケーションを素早く的確にとるために、あといくつかTipsを紹介しましょう。

①紙に整理して伝える
 口頭だと抜け、漏れが多く発生します。
 また、口頭だとリスクや危険性をあやふやなまま伝えることができるので、その場は良いのですが、後々の火種になることに注意するべきです。
 考えをまとめるためにも、紙にまとめたうえで、書面と口頭両方で伝えることで、伝達ミスを防ぐことができます。

②数字を用いる
 「コストはそんなにかかりません」「売上はけっこう見込めるとおもいます」というような表現をして、言ってる側と、言われた側の思っている金額が一致することは稀でしょう。
 いくらくらい、何%と数字で伝えるということを意識する必要があります。

③まず、出だしは「何の件なのか、わかっていることは何なのか」を、相手と土台を合わせる

例えば、仕入先から原料の値上について打診があり、それを上司に報告しなければならないときに、自分は頭がいっぱいで、いきなり上司に
「値上げを受けて困ってます。どうしましょうか?」
と言ってしまい、上司から「何の話?」と返されてしまうケースって経験ないでしょうか?
上司から「何の話だったっけ?」と問い返され、
「すみません、先月ちょっと報告した件なのですが、あれから先方からさらに別の部品の値上がりの話も出てしまって、、、」
とか言ってしまい、上司はさっぱりわからず困り顔。
これは何がいけないのでしょうか?

それは、まずちゃんと相手と「何の話か」と、「これまでわかっていること」の土台を合わせてから、次に本題に入る、という手順を踏むことです。

先ほどの例ですと、
「仕入先Aから原料Bについての値上げの打診があり、その中間報告です。
先月一報入れましたが、原料Bの原料・物流コストがウクライナ状勢の影響で上がっていることで値上げを打診されておりました。
こちらから値上げ幅の根拠や、どれくらいの期間続く見通しなのかの情報を要求しておりましたが、本日その回答がきました。
このメールがその内容ですが、、、、」

というように、
まず何の件かと、これまでの経緯を丁寧に説明することから始めることで、自分と相手の認識の土台を完全に合わせ、
認識のずれがない状態から本題に入ることができます。
このまず「土台を合わせる」を意識することが非常に重要です。

よく「結論から言う」ことを推奨することがありますが、個人的には反対意見です。
結論から言うと、「結論過ぎてわからない」ことが多々あります。

先ほどの例で、
「A社から値上げの打診が来てますが、結論から言って妥当だと思います。理由は、、、」
という会話の進め方をした場合、相手は「そもそもその話、なんだっけ?」ということを途中で聞かざるを得なくなり、結局もう一回最初から話をすることになる、ということがよくあります。

これは「まず結論から」の弊害だと思っています。
結論を理由より前に言うことは有効ですが、一番最初は「何の件か」と「これまでの経緯」がスムーズだと思います。
続いて「今回の進展部分」「結論」「理由」「課題や次の対応」を話すのが良いと思います。
結論を最初に持ってきすぎると、自分の意見がより強い形で出てくることになります。
ファクトベースで、最善の選択肢を考えてますよ、ということを伝えるためには、結論の前にある程度の前置きが必要になってくると考えます。

もちろん、結論までの前置きが長すぎると、相手からは「まず結論を言え」と言われることになりますが、それについては結論までの話の長さの調整がうまくいってないのであって、言葉通りに「結論」を先に言うことが問題・
解決策ではないことが多いと思います。

ということで、今回はSCMにおける基礎能力の4回目として、コミュニケーション能力を取り挙げました。
SCMは多種多様な関係先が存在します。
コミュニケーションに時間がかかりすぎると、改善・改革が進みませんので、スキルを高めて効率よく意思伝達をしていく必要があります。

今後も、SCMに関する記事を書いていきますので、ぜひよろしくお願いいたします。














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