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【建設×ドローン 最前線】建設業界におけるドローン活用の過去と現在②

【はじめに】

前回に引き続き、ドローン・ロボティクス技術が建設DXに与えるインパクトについて、株式会社センシンロボティクス 執行役員 吉井太郎 様にお話を伺っていきます。
(前回の記事をまだご覧になっていない方はこちら
第2回は、建設DXが直面する課題と、海外・国内のドローン業界の現状にフォーカスします。

■ プロフィール
吉井 太郎
株式会社センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト兼CS&マーケティング部長
ソニー、ソニーコミュニケーションネットワーク、IMJモバイルを経て、2008年より日本マイクロソフトにて「Xbox」のマーケティングを担当。2015年よりグリーのヘルスケア領域の新規事業においてサービス企画Mgrを担当。2016年5月より現職。

【建設DXが直面する壁】

―― 新たな技術が生産性向上につながると理解していても、コスト・手間等の問題で導入にハードルを感じる人もいるのではないでしょうか。

吉井:ドローンやロボットの導入には、当然手間やお金がかかるため、躊躇するのは理解ができます。ただそれは、置き換える業務単体だけを見て、全体を見ていないからなのです。100万円でできていた業務がロボット導入によって50万円になるだけなら、メリットは感じにくいでしょう。しかし、業務プロセス全体で考えた時に、コストが億単位で削減されるのであれば、導入をためらう理由はありません。私はよく当社のメンバーにも、『ドローンは、脚立の代わりではない。ドローンによってお客様の業務がどう変わるのかを考えてほしい。』と、繰り返し伝えています。

―― ロボティクス技術の場合、『人間の仕事が奪われるのではないか』と懸念する人もいるのではないでしょうか。

吉井:実際に、危機感を持つ方はいます。『これまでロボットなしでできたのだから、新しいものを導入する必要はない』という保守的な考えの方も多いです。

ただ残念ながら、ロボットは、まだ人間の仕事を奪うほど、高度な機能を備えてはいません。高所や危険な場所であっても、その場に行ってさえしまえば、ロボットは人間には敵わないのです。目視で異常箇所を特定するだけではなく、その場でメンテナンスまでできてしまうのが、人間です。その代わり、得意なことであれば、ロボットは人間の何十倍、何百倍もの性能を発揮します。その得意分野をどのように業務に組み込み、デザインしていくかが、DXの要になるでしょう。

現実問題として、労働人口の減少は避けられない状況です。いざ建設業に従事する人が大幅に減った時に、代替技術がない事態を避けるためにも、私たちは進化を続けなければなりません。業務改革に積極的なキーパーソンを見つけることが、私たちの最初の大仕事と言えますね。

【グローバルでのドローン活用】

―― 海外でドローン・ロボット技術の活用をリードしているのは、どの国なのでしょうか?

吉井:ロボット先進国と言えば、アメリカと中国ですね。測量技術に特化したソフトウェアベンダーもあれば、ビルメンテナンスに活用している企業もあり、さまざまな角度からビジネスが展開されています。アメリカは、日本型のソリューションに近く、土木測量でのドローン活用が進んでいます。

社会インフラの設備点検・保守や、都市部でのドローン飛行では、中国や東南アジアが先進的な試みをしていますね。政府が率先してドローン活用を推進しており、ベンチャーへの支援も充実しています。日本では許可が下りないような飛行計画を実行できるのも、中国の強みと言えるのではないでしょうか。シンガポールでは、政府と半官半民の建設会社が一体となり、空中写真測量で得たデータを街全体のメンテナンスに活かす取り組みも行われています。

【日本の現状】

――各国でドローンに関わる法規制は異なると思いますが、日本での法規制について教えていただけますか。

吉井:日本では、経済産業省が「空の産業革命に向けたロードマップ」を策定し、ドローンの活用を推進しています。現在は、2022年有人地帯での目視外飛行(レベル4)に向けて、法律やシステムの整備が進められています。

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(国土交通省 無人航空機のレベル4実現のための新たな制度の方向性について より)

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(首相官邸 空の産業革命に向けたロードマップ2021 より)

吉井:当初は、離島や山間部への荷物配送を想定して計画が進められていましたが、現在は人口密度の高い都市部への配送をはじめ、測量やインフラ維持管理など、さまざまな分野での活用に向けて整備が進んでいます。経済産業省に、国土交通省や航空局も加わり、国策としてドローン活用に取り組んでいる状況です。ただ、ドローンは、操縦や画像伝送に無線設備を使用します。そのため日本では、道路交通法や航空法だけではなく、総務省管轄の電波法の規制も受けるのです。

日本で使用するドローンは、主に2.4GHz帯の周波数を用いています。しかし、2.4GHz帯は、Wi-Fi、Bluetooth、コードレス電話など、たくさんの機器が多くの目的のために使われています。限られた周波数資源を共用することで、無線電波の混信が発生し、ドローンの通信が途絶したら、重大な事故になりかねません。

そのため、産業用ドローンは、5.7GHz帯・5.8GHz帯への移行が進んでいます。中国やアメリカで開発・製造された産業用ドローンも、5.7GHz帯・5.8GHz帯の周波数を用いることがほとんどです。しかし、日本では、5.7GHz帯・5.8GHz帯の無線は、無許可・無資格で使うことができません。海外の優秀な機体を使うためには、各種申請や免許の取得が必要になります。規制緩和は進んでいますが、ドローンを使いやすい環境になったかというと、まだ一概には言えないというのが現状です。

―― 現在の規制の中で、日本企業はどのように動いているのでしょうか?

吉井:現在、中国最大のドローンメーカー「DJI」は、日本の事情を考慮した機体を製造し、輸出してくれています。日本の航空法では、200g以上の機体が無人航空機として航空法の規制を受けます。そこで「DJI」は、250gの機体のバッテリー容量を減らし、199gに改良して、日本に輸出しているのです。ただ、こうした対応をいつまで続けてくれるかは、定かではありません。

「海外のメーカーが対応してくれなくなったら、国内メーカーが製造・開発した機体を使えばいい」との考えもありますが、そう単純な話ではないのです。国内メーカーの機体に合わせたソフトウェア開発しかできなくなったら、マーケットは狭まり、海外進出が難しくなります。このままだと、日本はグローバルスタンダードに乗り遅れるのではないかと危惧しています。

―― 日本がドローン市場をリードする余地はあるのでしょうか?

吉井:中国の「DJI」は、世界で約70%~80%というシェアを占めており、ハードウェア開発においては、日本はかなり水をあけられているのが現状です。ただ、グローバルスタンダードを踏襲した優秀な機体を開発・製造するメーカーの登場は、今後も期待したいところです。

ソフトウェア分野では、まだ決定的な勝者は出てきていません。私たちのようなソリューションを提供するためには、産業に対する業務理解が非常に重要です。その点は、私たち日本人の得意分野だと思っています。世界でお手本にされている日本の業務改善プロセス、製造プロセスにフィットするロボティクスソリューションを構築できれば、世界をリードできる可能性があります。ジャパンクオリティというブランドへの信頼は、まだ根強いですからね。

【おわりに】

DX推進における共通の課題として、「単純な業務の置き換え」と考えるとコストメリットを感じにくい、「仕事を奪われる」というネガティブなイメージが先行してしまう、「既存のレギュレーション」に縛られてしまう、などが存在し、それはドローンやロボット技術においても同様です。変革を推し進める上では、きちんと「本質的に何を変えたいのか?」を突き詰めたうえで、規制への対応方法と規制そのものを変える方法を考えていかなければなりません。
次回は、ドローン等のロボティクスソリューションの活用事例や、建設業界における最新の取り組みなど、未来にフォーカスしてお話を伺います。

■インタビュアープロフィール
岡本 杏莉
日本/NY州法弁護士。
西村あさひ法律事務所に入所し国内・クロスボーダーのM&A/Corporate 案件を担当。Stanford Law School(LL.M)に留学後、株式会社メルカリに入社。日米法務に加えて、大型資金調達・上場案件を担当。
2021年2月に株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長に就任。

榮川 航
建設DX研究所研究員。
新卒で日本マイクロソフト株式会社に入社後、コンサルティングサービスの営業を担当。
その後株式会社アンドパッドに入社し、現在パートナーアライアンス推進に従事。