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コロナ禍で考えるまちづくり

【コロナ禍で問われる都市のあり方】

コロナ禍の2度目のGWが明け、もうすぐ梅雨に入ろうとしています。
コロナ禍をきっかけに、人々のライフスタイルは劇的に変化してきました。
リモートワークの普及や、三密を避け常にマスク・消毒などの感染対策を欠かさない…従前の生活からは想像ができなかったような変化ではないでしょうか。
このような生活の変化が、まち/都市のあり方にどのような影響を与えているのか、少し考えてみたいと思います。

【まち/都市の潜在的なリスク】

そもそも、まち/都市は歴史的に「危険な場所」と考えられてきました。
市場や交通が交差し、人が「密」に集まって住むのが都市であり、外敵、災害、疫病など様々なリスクに常にさらされているのです。
例えば、江戸は人口100万人都市として知られていますが、町人地における人口密度は67,317人/km2、概ね1人につき8畳程度の広さだったと試算されています。※
高い人口密度の結果、「火事と喧嘩は江戸の華」と言われるほど火災が頻発したり、チフス・コレラ・赤痢といった急性伝染病が猛威を振るったりしました。

※出典:内藤 昌(2013)『江戸と江戸城』講談社

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『安政箇労痢(ころり)流行記』(国立公文書館所蔵)の口絵「荼毘室(やきば)混雑の図」 安政5年(1858年)に始まったコレラ大流行を背景に、山積みの棺桶が火葬しきれない様子を描いています。

つまり都市にとって、コロナは織り込み済みの、いわば手垢のついたリスクという見方もできます。だから鉄道や自動車が変えたようには、コロナは都市を変えることはできないのかもしれません。
一方で、確実に変わったと言えるのは都市への私たちの関わり方だと言えるでしょう。
ソーシャル・ディスタンスを保ち、近距離圏内で実生活を営む一方で、リモートという「装置」によって遠隔地に関わることができるようになりました。

【都市の密度とコードの書き換え】

コロナと都市については、コロナ禍初期の段階から色々な言説が出ていて、どれも面白い印象です。東京都立大学の饗庭伸教授は「都市空間の『コード』を書き換えていくような作業」がこれからの都市計画には求められると言及しています。例えば、これまで「ただ都市を縮小する、再び高密度化するための雑な方法」と思われてきたコンパクトシティ※という都市計画の手法が、「コントロールされた密度を作り出すための繊細な方法」へと変わっていくのではないかと指摘されています。

[都市のコードを書き換える-COVID-19と都市計画 その1|饗庭伸|note](https://note.com/shinaiba/n/n8067d5bcdcc4)
[コンパクトシティはどうなるんだろう-COVID-19と都市計画 その2|饗庭伸|note](https://note.com/shinaiba/n/n4b8e367e8597)
※コンパクトシティ:コンパクトシティの定義については、論者や文脈によって異なりますが、一般的には、1)高密度で近接した開発形態、2)公共交通機関でつながった市街地、3)地域のサービスや職場までの移動の容易さ、という特徴を有した都市構造のことを示すと考えられます(出典:国土交通省H P )。

この、密度を作り出す、制御するための「新しいコード」としてのコンパクトシティには、密度の選別という役割も期待されるのではないかと思います。つまり、十把一絡げに「密」は全て悪いものであるという視線が定着しつつある中で、良い「密」と悪い「密」を選別する画期性を持った都市のコードになるのかもしれない、と思うわけです。

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良い「密」のイメージ(国交省HPより)

【15分の街からはじまる都市の再編】

あるいは、実際に稼働し始めている都市計画として、パリの”ville du 1/4 d’heure”、「15分の街」があります。これは、2024年までに誰もが徒歩や自転車で15分で、あらゆる街の機能にアクセスできる都市を目指すとした構想です。脱炭素や通勤ストレス緩和が元々の政策意図ではあったのですが、コロナ禍に伴う自転車需要の拡大を受けて、計画が前倒しになっているようです。

[コロナ時世下の都市空間 — 第3回:自粛解除と共に整備されるポップアップ自転車レーン | Friday | 新建築.online/株式会社新建築社](https://japan-architect.co.jp/column/online/friday/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E6%99%82%E5%88%B6%E4%B8%8B%E3%81%AE%E9%83%BD%E5%B8%82%E7%A9%BA%E9%96%93/)

ミラノやニューヨークでも同様に歩道や自転車道の拡張に向けた動きがあり、道路空間の再編も含めてマイクロモビリティへの関心が高まっています。

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15分の街(パリのための市民のプラットフォームのTwitterアカウント@ParisEnCommunより)

【コロナ禍で議論される我が国の都市政策のあり方】

国土交通省でも、新型コロナ危機を踏まえ、今後の都市のあり方にどのような変化が起こるのか、今後の都市政策はどうあるべきかについて検討するため、都市、医療、エンタメなど様々な専門家へのヒアリングを行い、「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性」(論点整理)を昨年8月に発表しています。

[都市再生:新型コロナ危機を契機としたまちづくり - 国土交通省](https://www.mlit.go.jp/toshi/machi/covid-19.html)

このヒアリング結果を集約するものとしてとして、国土交通省は新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性として以下の5つの論点を示しています。

論点1:都市(オフィス等の機能や生活圏)の今後のあり方と新しい政策の方向性
論点2:都市交通(ネットワーク)の今後のあり方と新しい政策の方向性
論点3:オープンスペースの今後のあり方と新しい政策の方向性
論点4:データ・新技術等を活用したまちづくりの今後のあり方と新しい政策の方向性
論点5:複合災害への対応等を踏まえた事前防災まちづくりの新しい政策の方向性

もっとも、これらはこれまでの都市政策を大幅に路線転換するというものではありません。従来の都市のあり方の議論を、コロナという切り口から再編しなおしたものなのです。例えば、都市交通の今後のあり方については、国土交通省は「ウォーカブル空間の創出」※を令和2年度より「まちなかウォーカブル推進事業」として本格的に実装開始しています。

※ウォーカブル空間の創出:国土交通省は、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の形成を目指し、国内外の先進事例などの情報共有や、政策づくりに向けた国と地方とのプラットフォームに参加し、ウォーカブルなまちづくりを地方公共団体向けに推進しています。新型コロナ危機を契機に、歩行者にとっての過密の回避や居心地の良い環境へのニーズが高まったことから、都市のウォーカブル空間の重要性が高まっていると分析しています(出典:国交省H P)。

更に、今年3月には、国土交通省と内閣府地方創生事務局との連携のもと、コロナ禍を踏まえた「新たな日常」に対応したまちづくり支援として、「新しいまちづくりのモデル都市」として全国13都市を選定したと発表しました。

[報道発表資料:「新しいまちづくりのモデル都市」として13都市を選定~コロナ禍を踏まえた「新たな日常」に対応したまちづくりを支援します~ - 国土交通省](https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi08_hh_000056.html)

これは、地方都市におけるコンパクトシティの取組とウォーカブルシティの取組による都市の魅力向上政策を一体として実施するもので、オープンスペースの充実や空き地・空き家などの遊休ストックの活用等を推進していくものです。
例えば、愛知県岡崎市は「公共空間から始まる民間主導の公民連携まちづくり」をテーマとして、路線価や往来数を具体的なKPIに設定し、街路空間の活用再編やPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)活用拠点形成事業等、ソフト・ハード両側面からの事業方針を発表しています。

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「新しいまちづくりのモデル都市」の取組例(国交省HPより)

【終わりに】

以上、コロナ禍におけるまちづくり、都市の動向を一部ご紹介してきました。
コロナ禍により、まち/都市自体が大きく変化するというよりも、私たち住民の関わり方の方が変化しているということかもしれません。
コロナ禍は完全に終わりを迎えるというよりも、「ウィズコロナ」として共生の在り方を考える必要があるという意見もあります。
これからの「まちづくり」のあり方について、少し考えてみるきっかけとなりましたら幸いです。

筆者プロフィール
鎌倉一郎
元国交省職員。現在は国内大手メーカーにて公共政策を担当。
【参考文献】
『平成都市計画史』(饗庭伸/著 花伝社)
30年という、都市のタイムスパンからすれば短くも長くもない“ちょうどいい”長さの平成の都市計画史を振り返る1冊。本書では、バブル経済の崩壊、少子高齢化と地方の縮退、そして頻発する激甚災害のなかで、公・民(市場)そして新たな主体としての市民がどのように都市に関わってきたかを描いています。