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Lightblue Technology・園田 亜斗夢氏インタビュー(前編)〜画像解析技術を用いた建設業界の生産性・安全性の向上〜

【はじめに】

今回は、AIを駆使した画像解析技術を開発している、株式会社Lightblue Technology 代表取締役 園田 亜斗夢氏をお招きしました。

株式会社Lightblue Technologyは、「人にフォーカスした画像解析技術」を用いて、人間が目で見て判断していた仕事の機械化・省人化に取り組んでいる東大発のスタートアップです。製造、インフラ、小売といった多様な業界のプレイヤーとのプロジェクトをはじめ、建設・土木業界における現場の安全管理や生産性向上を目指す取り組みにもチャレンジされています。「デジタルの恩恵をすべての人へ」を理念に掲げるLightblue Technologyの取り組みに、Fortec Architect株式会社 大江氏、建設DX研究所所長 岡本が迫ります。

■プロフィール
園田 亜斗夢
株式会社Lightblue Technology 代表取締役
東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科在学。AIの社会実装、レコメンダーシステムの研究を行う。人狼知能プロジェクトメンバー。人工知能学会学生編集委員。ビジネスコンテスト優勝、受賞歴多数。AI関連本執筆。

大江 太人
Fortec Architect株式会社代表
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architect株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。一級建築士。

【AI・デジタルの力で労災を減らしたい】

岡本:まずは御社の起業の経緯について教えていただけますか。

園田:私は2018年に、AIビジネスマッチングサービスの「Business Hub」を立ち上げて起業しました。そのサービスが伸び悩んでいた頃、母方の実家である九州に帰省し、林業を経営する祖父と話をしたことが、Lightblue Technologyをスタートするきっかけになりました。

林業は、全産業の中で最も労災の多い業種です。建設現場と使用する重機は同じであっても、林業の方が法定耐用年数が短いことからもわかるように、作業環境は過酷です。実際に祖父の会社でも、仕事中に怪我をして入院した社員も出ていました。林業に従事する家族や親戚、林業全体に貢献できる技術は開発できないのかと祖父に問われ、AIを活用して労災を減らすサービスの開発に着手しました。

岡本:御社が提供しているサービスはどのようなものでしょうか。

園田:私たちが手がけているのは、人にフォーカスした画像解析です。独自の動作解析エンジンと、さまざまな画像解析の複合技術を用いて、人の姿勢や顔の向きなどを解析し、人が何の作業をしているか、どんな状態にあるかを可視化します。従来の監視カメラシステムは、基本的に「いつ・どこで撮影したか」しか分からないので、基本的には人の目で映像を確認する必要があります。その映像に私たちの画像解析を導入することで、「誰が、どこで、何時何分に、どのような状態だったか」を構造化したデータに変えることが可能になります。

事業ポートフォリオ

園田:起業のきっかけである林業だけではマーケットが限られてくるため、製造や建設、公共・インフラ施設、小売・飲食など、「現場」を持つ業種にスコープを定めました。現在は、人の画像解析を軸にしたカスタマイズ開発を行うSI事業をメインに手がけています。また、工場での作業工程の可視化や、建設現場での安全管理・出来形管理・工程管理といった一定のニーズのある分野は、汎用化してパッケージとして販売しています。

岡本:人にフォーカスした画像解析とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

園田:例えば、製造業では、作業員の動作とマニュアル動作を照合して、作業時間を計測したり、作業の正確性や品質を評価したりしています。画像解析の結果を作業員の指導内容やマニュアルに反映し改善することで、生産性の向上を目指しています。

大手製造業 組立作業の判定・工程時間計測(工程改善・作業員教育)

園田:次に、インフラ施設での事例です。インフラ施設には、階段の上り下りをする際に、荷物を持っていたり、よそ見をすると危険な箇所があります。このプロジェクトでは、階段昇降の画像解析をもとに危険な行動を検知してアラートを出す仕組みを構築し、労災防止の実現可能性を検証しました。

中部電力株式会社における不安全行動検出(警報・労災抑止)

園田:もう一つの可視化・分析プラットフォーム事業は、ExcelやTableau、POSなどと同様に、映像から得られた情報を構造化して、データベースとして活用していく事業です。映像のデータを構造化することで、作業時間の集計はもちろん、「誰が、何時何分に、どんな作業をしていたのか」という状況を把握することが可能になります。

また、AIに「作業をしている」「飲み物を飲む」「スマホを持つ」といった動作を学習させ、ラベルを設定しておけば、ブラウザやCSV、BIツール上で作業時間の割合をグラフで可視化できます。その際、予め学習させた動作に該当しない「その他」に分類されるものも一定数生じますが、映像自体にも簡単にアクセスできるので、その他の内容が何を指しているかをすぐに確認できます(例:人に声をかけられて自席を離れた)。
その他、作業を行っていないダウンタイムの分析によって、行動のロスや不安全行動を検知することも可能です。カメラの台数が増えた時にも、お客様がデータを入れ替えるだけで、簡単に分析ツールの複製ができる内製化の仕組みも構築しています。

分析プラットフォーム画面

岡本:撮影に使うカメラは、どう調達されているのですか?

園田:外部から調達するのが基本ですが、最近はすでにお客様が導入しているクラウド型監視カメラとAPI連携させていただくことが多くなっていますね。カメラを導入されているお客様から解析を依頼されることも増えています。従来のIPカメラやレコーダーが入っている現場では、VPN(仮想の専用ネットワーク)であったり、カメラをクライアントとして用いることでクラウドにアップロードする仕組みを構築することで、安全性を保っています。

以前ODM(設計から生産まで委託)でカメラ製造にもチャレンジしたのですが、お客様が安定して使いこなせない水準だったため、開発は断念しました。建設機械などにカメラを設置する場合、振動に耐える性能や防水性・防塵性、電圧、バッテリーなど、さまざまなポイントを考慮しなければなりません。ハードウェアの調達は非常に難しい問題だと感じています。

【建設業での活用事例】

岡本:建設業ではどんなシーンで活用が進んでいますか?

園田:今は土木分野での活用が多いですね。道路を作る、橋を架ける、トンネルを掘るといった工事は基本的に前進していく工事なので、架台が設置されていたり、ライトが付随している建設機械が使われています。その部分に定点カメラを設置することで、工事の進行過程を比較的くまなく撮影できます。

土木分野は公共工事の割合が多いため、発注者である官公庁に対する適切な作業報告も求められます。これまで人の目で確認して、野帳に書き込んでからCSVに入力していた作業も、撮影データの画像解析によって帳票用のデータを全部取得できるようになれば必要なくなります。報告書を作成するためだけにわざわざ工事現場に数人で集まって、計測や撮影をする手間も削減できるでしょう。そのため、現場監督・営業・発注者がどこからでもリアルタイムに状況を確認し、BIツール上で画像分析ができるような仕組みの構築にも取り組んでいるところです。

安全管理という観点では、立ち入りを禁止した区域を定めて、そこへの立ち入りを検知した際にアラートを出す画像解析システムも開発しています。下記の事例では、バックホーの後方にカメラを設置し、撮影を行いました。作業員がバックホーに近づいたらアラートを出し、接触を防止しています。

清水建設株式会社における危険物との距離推定・作業者状態把握(警報・接触事故回避)

岡本:土木分野が中心とのことですが、建築分野での展開の状況はいかがでしょうか?

園田:ハウスメーカーの事例では、比較的狭い現場の全体を1つのカメラで撮影し、画像解析を行いました。その他にも、クレーンにカメラを設置し、建材を搬入する際の周囲の安全管理に活用した事例もあり、一定程度活用が進んできています。ただ、建築分野では、建築の過程で床や壁が張られ、どんどん撮影範囲が限定されていくことから、カメラで俯瞰して撮影していくのが難しいため、土木領域に比べると活用範囲は限定的な印象があります。

【おわりに】

Lightblue Technology 園田氏へのインタビュー前編はいかがでしたでしょうか。

リアルタイムの画像解析技術を活用することで、予めAIに学習させた危険行為などを抽出・警告できる点は、労災の減少に繋がる有力な手段になるのではないでしょうか。また、安全管理面だけではなく、生産性の向上にも寄与できる点も興味深く、まだまだ様々な分野で応用可能ではないかと可能性を感じました。

後編では、建設現場における職人の作業効率の見える化や安全性と生産性の関係性、遠隔臨場での活用可能性についておうかがいしています。こちらも公開次第、ぜひお読みいただけると幸いです。