それは愛という名の

空は目を見張るほどのピーカン。風が心地よいほどに吹き、二人の髪をなびかせる。

男「俺たち付き合ってどれくらいだ?」
女「7年と2ヶ月」
男「もうそんなにか」
女「ええ」
男「どうして付き合い始めた?」
女「あなたがバーで話しかけてきた」
男「ああ、そうだ…」
女「忘れてたの?」
男「いや、もちろん違うよ」
女「そう。じゃあ私も聞いていい?」
男「もちろん」
女「どうして私に声をかけたの?」
男「それは前にも答えた気がするけど」
女「もう一度聞きたいの」
男「綺麗だと思ったからだよ」
女「それは嘘でしょう」
男「どうしてそう思う?」
女「だって私はカウンターで飲んでいて、あなたは後ろから話しかけてきたわ」
男「ああ」
女「顔が見えないんだから綺麗かなんてわからないじゃない」
男「後ろ姿から綺麗な人だと想像したんだよ」
女「そう…」

圧巻のピーカン。
二人の沈黙を埋めるように、風が強く吹き付ける。

男「君はどうして俺と一緒にいることを了承したんだ?」
女「楽しいと思ったからよ」
男「それだけか?」
女「いいえ」
男「他には?」
女「あなたしかいないと思ったからよ」
男「なにが?」
女「私を大切に思ってくれる人が」
男「どうして?」
女「理由なんてわからないわ、なんとなくよ」
男「そうか」
女「あなたはどうなのよ」
男「それはさっき答えただろう」
女「綺麗だけじゃこんなに長いこと一緒にいる理由にはならないわ」
男「ならないか?」
女「ええ。あなたが綺麗と思える人なら私以外にもたくさんいるわ。それは間違いない。だから一緒に居続けるには綺麗だと思う他にも理由がいるわ」
男「楽しいから」
女「私と同じじゃない」
男「だから付き合ったんだろう」
女「それは違うわ」
男「そうだな、違うな」
女「ええ、根本的には」

それから何時間もの間、二人は言葉を交わさなかった。
思い出しているのだ。共に過ごした時間を。
出会った日から今までのことを。
頭の中の引き出しを、片っ端から開け散らした。

そのまま二人は眠りに落ちた。

そして朝。

男「夢を見た」
女「私も」
男「君と二人、草原でピクニックをしていた」
女「あなたと二人、リビングのソファに座っていたわ」
男「座って何してた」
女「何も」
男「何も?」
女「ただ二人で座ってた」
男「それだけか」
女「十分でしょう?」
男「いいや」
女「そこがあなたとの違い」
男「それが俺たちを引き合わせた」
女「それが私たちを引き裂いた」
男「それが俺たちに希望を与えた」
女「それが私たちに事実を教えた」

二人は屋上の縁に立っている。

男「この決断に」
女「後悔はないわ」

女「だってこれでやっと」
男「本当に愛し合える」

それは人類にとっては小さな一歩だが、二人にとっては大きな飛躍だった。

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