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総理公選制に対する質問と答え

私は以前書いた新憲法試案で、総理(首相)公選制を提唱した。ここでは、その内容を述べた後、総理公選制に対して、よくある質問について答えることにする。
 
総理公選制に関する条文と解説は、以下の記事を参照して頂きたい。

https://note.com/kenpou629/n/n8589dd00fc26


1,総理公選制の内容


私の提唱する総理公選制の内容は、以下の通りである。

(1)総理は、国民が直接選挙し、有効投票総数の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。(新憲法試案 第95条)
(2)総理選挙は、国会議員の総選挙が行われるときに、同時に行う。(試案では、国会は一院制である。)総理選挙に立候補するには、国会議員選挙に立候補した者20名以上の推薦を必要とする。総理は、国会議員と兼ねることができない。(第95、96条)
(3)総理の任期は4年とし、再任することができる。但し、合計して8年を超えて在任することはできない。国会議員の任期が満了又は終了したときには、総理の任期も同時に終了する。(第98条)
(4)任期の途中に総理が欠けたときは、30日以内に国民の直接選挙による補欠選挙を行い、当選した者が残りの任期を全うする。但し、残りの任期が1年未満であるときには、国会が総理を選出する。(第99条)
(5)国会が、出席議員の3分の2以上の多数をもって、内閣の不信任決議案を可決したときは、総理は、任期途中であっても解任され、内閣は総辞職する。その場合に限り、内閣は、不信任決議案の可決後10日以内に、国会を解散することができる。内閣の不信任決議案は、総理選挙が行われてから2年以内は、議決することができない。(第101条)
(6)内閣は、国会の議決した法律案又は予算案について異議があるときは、その議決から10日以内に理由を示して、再議に付することができる。その場合、国会が出席議員の55パーセント以上の多数で再議決したときは、法律又は予算として成立する。(第106条)
(7)この新憲法試案では、首相を「内閣総理大臣」とは呼ばず、「総理」と呼ぶ。「大臣」という呼称は、古代律令制から使われて来て「天皇の政治を輔弼する臣下」という意味なので、この試案では使わなかった。なので、国務大臣は「閣僚」と呼び、例えば外務大臣は「外務省長官」と呼ぶ。

2,総理公選制に対する質問と答え

(1)なぜ、議院内閣制よりも総理公選制のほうが優れているのか?

(答え)
今の議院内閣制では、国会が首相を指名するので、多くの場合、多数党の党首が首相となる。その党首を決めるのは、その党の党員だけである。自民党総裁選の場合は、派閥のパワーゲームや談合などで決められてしまうことも多く、国民は全くカヤの外である。なので、国民から全然支持されていないような人物が首相になってしまう。国民主権であるのに、国民は政治のトップリーダーすら決めることができない。自民党総裁選の報道を見ながら「国民が直接選べたらいいのに」と感じる人は、私以外にもたくさんいるのではないだろうか。また、議院内閣制では、与党議員からの支持を失えば党首選挙で落選してしまうので、短期間で首相がコロコロ変わってしまう。戦後の首相の平均在職期間はわずか2年あまりである。首相となった後も、自分の後ろ盾である派閥の領袖にコントロールされて、リーダーシップを発揮できないことも多い。それから、今の日本の国会の政党別議席数は、毎回選挙してもそれほど大きな変化がない。自民党が議席を少し減らしても、公明党や他の党と連立すれば政権を維持できる。なので、このままでは政権交代が起こる可能性は低いと言える。だから、万年与党の自民党の総裁が、国民の判断も仰がずそのまま自動的に首相となってしまうのである。そして、国会が首相を選ぶから、国会と内閣はいつも同じ政党(今は自民党)が支配することになる。三権分立と言いながら、実際には立法と行政が癒着して、チェック機能が全く働かない。これは、議院内閣制の抱える根本的な問題点である。
これに対して、総理公選制なら、国民が直接総理(首相)を選ぶことができる。今の地方自治体の首長(知事や市長など)は、公選制である。その地位は安定していて、任期途中で辞めることはあまりない。首長の権限は強いので、在任中は十分に指導力を行使できる。また、野党が統一候補を立てれば、政権交代する可能性は十分にある。地方自治体で、すでに戦後75年以上も首長公選制が定着して実績があるのだから、国政でも実現可能である。国の政治のトップリーダーは、やはり国民が直接選ぶべきである。

(2)日本は天皇制だから議院内閣制でなければならないのでは?

(答え)
ヨーロッパの立憲君主制の国で議院内閣制を採用しているからといって、日本でも同じようにしなければならないわけではない。天皇は象徴であり、総理は行政府の長であって、両者は別のものである。天皇が必ず総理を任命するべきだという必然性はない。総理を公選にしたからと言って、天皇の象徴としての地位をうばうものではない。なので、象徴天皇制と総理公選制は、何ら矛盾せず両立共存できる。総理を国会が選ぶか、国民が直接選ぶ制度にするかは、主権者である国民が自由に決めることである。天皇は国政に関する権能を有しないのに、天皇制の存在が、国の政治システムを決める制約となってはならない。日本には、日本のニーズに合った、新しい独自の制度があっても良いのではないだろうか。

(3)人気投票によって衆愚政治となり、大衆扇動型の人が首相になってしまうのではないか?

(答え)
確かに地方自治体の知事選挙や市長選挙でも、タレントやスポーツ選手などの有名人が票を集めることがある。また、過激な発言をして大衆を扇動するポピュリズム型の人が当選することも多い。しかし、それは知事選でも衆議院議員の小選挙区でも同じことであって、議院内閣制ならそういう人が首相にならない、というわけではない。これは、基本的には選挙制度の問題ではなく、どんな制度であっても、国民は表面的なパフォーマンスに流されず、候補者の政策と人格をよく見て判断しなければならない。ただ、今まで国会の中で何の支持基盤もない、一時的にカリスマ性のある候補者が急に出現すると、既存の議員とむやみに対立して混乱を招く可能性はある。なので、この試案では、総理選挙に立候補するには、国会議員立候補者20名以上の推薦を要件とした。こうすれば、総理になった後でも、国会内で政府を支持する党がある程度存在するので、政治の安定に資するだろう。
それから、この試案の総理公選制の大きな特徴は、1回投票ではなく、2回投票制を採用していることである。第1回目の投票で有効投票の過半数を得た者を当選とするが、過半数を得た者がいないときは、1週間後に第2回目の投票を行い、1回目で1位と2位だった2名による決選投票をする。フランスやブラジルなど、諸外国の大統領選挙の多くは2回投票制である。今の地方自治体の首長選挙や衆議院議員の小選挙区は1回投票制なので、野党は統一候補を立てるのが難しく、保守も分裂したりする。候補者が多いときは、得票率が30%程度でも当選してしまうので、残りの70%が賛成しない候補者が当選してしまう。しかし2回投票制なら、過半数の得票が必要なので、国民のより多数の支持を反映した結果となる。第2回目の投票のときは、国民全体にバランス感覚が働いて、一時的に過激な発言をする極端な候補者は当選が難しくなる。そして、第2回目のときに、2位以下の候補者たちは連合しやすいので、1位の候補者と接戦になり、今よりも政権交代がもっと起きやすくなるだろう。

(4)国会の多数党と違う党のリーダーが総理になると、いわゆる「ねじれ現象」が起きて、政治が停滞し不安定になるのでは?

(答え)
現在、地方自治体の首長は住民が直接選挙している。首長の党が議会で少数党になる「ねじれ」状態となることも多い。しかし、議会で首長の不信任決議をするには、3分の2以上の出席で、4分の3以上の賛成が必要である。その後、首長が議会を解散したときは、選挙後の議会で、出席議員の過半数が再び不信任決議をしないと、首長は解職されない。(地方自治法第178条)このように、首長の地位が安定しているので、自分から辞めない限り、首長が任期途中で辞めることはあまりない。むしろ、二元代表制なので、議会と首長が互いにチェックし合うことができる。両者の意見が対立しても、何とかうまく調整している場合が多いように思える。それから、今の地方自治体の首長が任期途中で辞めると、議会の任期とのズレが生じる。しかし、この試案の総理選挙は、国会の総選挙と毎回同日選挙となるようにした。そのほうが頻繁に選挙をしなくて済むし、「ねじれ」も起こりにくいだろう。
この試案では、国会が内閣不信任案を可決するには、過半数ではなく、出席議員の3分の2以上を必要とした。総理は国民の直接選挙なので、その地位を安定させて、簡単には辞めさせられないようにしてある。そして、内閣が国会の解散するのも、今のように首相が自由に決めるのではなく、国会で不信任案が可決されたときに限定した。不信任や解散が、そうたびたびあったら政局不安定になる。なので、不信任案議決は、総理選挙後2年以内は禁止した。
また現行と違うのは、内閣に法律案と予算案の拒否権を与えた点である。しかし、国会が出席議員の55%以上で再議決したときは、その法律案・予算案は確定する。総理の所属する党が国会で少数党であり、他党と連立しても過半数に届かない「ねじれ」状態のときには、内閣が提出した議案が通らないことが起こりうる。総理と国会の二元代表制なので、このようなときは調整しないと、政治が停滞してしまう。今の地方自治体でも首長に拒否権があるが、議会が出席議員の3分の2以上で再議決したときには、その議案は確定する。ただ、もし国政でも3分の2以上にするとハードルが高すぎて、国会に対する内閣の権限が強すぎてしまうので、ここでは55%とした。
このように、私の試案では、総理と国会のねじれが生じても、うまく調整し歩み寄ることができるような仕組みを採用している。それでも、両者が対立するなら、それは一方が独走するのを防ぐために、むしろ必要だとも言える。今の日本のように、立法と行政が癒着して、誰も歯止めをかける存在がいないよりは、ずっと良いだろうと私は考える。ちなみに、私の試案では、憲法裁判所も新設して、立法と行政に対して歯止めをかけるチェック機能を果たすようにしている。

(5)イスラエルで首相公選制が導入されたけど、うまくいかなかったのに、日本で導入する必要があるか?

(答え)
イスラエルでは1992年から2001年まで、首相公選制を導入していた。しかし、それによって、有権者の投票行動に変化が生じ、首相選挙では大政党の候補者に投票する一方、議会選挙では自らの利害を最も代弁する小政党の候補者に投票する、という現象が見られた。それで、議会では少数政党が乱立し、公選首相も議会での安定多数確保のために少数政党との連立を強いられた結果、首相の指導力は低下した。その上、議会は過半数で不信任決議をすることができたので、逆に政局は不安定になってしまった。結局、首相公選は3回行われただけで、2001年には廃止された。
(ウィキペディア「首相公選制」参照)
しかし、イスラエルの政治状況が、日本にそのまま当てはまるとは限らない。イスラエルでは、首相は公選としたのに、議会は過半数で不信任決議できる制度のままにしたから、首相の地位が不安定になったのである。先に述べた通り、国会の不信任決議の要件を3分の2以上とすれば、総理の地位は安定する。なので、私の試案の通りにすれば、総理が任期途中で辞めさせられることは、それほど多く起こらないであろう。それから、イスラエルの国会は全国一区の比例代表制であるが、私の試案では道州ブロック単位の比例代表制なので、それほど小党分立にはならない。私の議席試算によると、試案の通り単独比例代表制を導入しても、連立政権で十分安定できるだろう。詳しくは、私が書いた「比例代表制による議席試算」を参照して頂きたい。

(6)総理と副総理をワンセットで同時に選出したほうが良いのではないか?

(答え)
 アメリカの大統領選挙では、副大統領もワンセットで同時に選出して、後でもし大統領が任期途中で辞めたときは、副大統領が大統領になる。しかし、アメリカの副大統領候補の選び方を見ると、大統領候補の支持層と違う支持層を補うために、大統領候補とは別のタイプの候補者を選ぶ傾向がある。副大統領は、あくまでもサブリーダーであって、その人がトップリーダーにふさわしいタイプであるとは限らない。また、大統領が任期途中で辞めるときというのは、何か重大な事件があってそうなることが多いので、その時点で副大統領が国民の過半数の支持を得ているわけではない。なので、私の試案ではそのやり方にしないで、総理が辞めたときには、もう一度国民が直接選挙で選び直し、残りの任期を全うさせるようにした。このほうが、そのときの民意をリアルタイムで反映できるからである。しかし、残りの任期が短くて、就任したばかりなのにまた総理選挙をする、というのでは良くない。そこで、残りの任期が1年未満であるときには、特例として国会が総理を選出することにした。こうすれば、今の地方自治体の首長選挙のように、議会選挙との時期がずれないで、毎回同じサイクルで同時選挙にすることができる。
公選による補欠選挙でも、国会での選出でも、やはり過半数を当選要件として、過半数を得た者がいないときには上位2名で決選投票をする。総理が辞任してから30日以内に、この補欠選挙を行う。その期間、総理不在では困るので、新総理が選出されるまで、閣僚の中から予め任命しておいた副総理が、職務を代行する(試案第99条第5節)。だから、副総理が総理代行を務めるのは最長30日である。

3,終わりに

第二次大戦後、フランスの第四共和政では、議院内閣制の下で短命内閣が続き、政治が不安定であった。しかし、ドゴールによって第五共和政が始まると、新憲法の下で大統領は直接選挙2回投票制で選出され、その地位と権限は強くされたので、政治は安定するようになった。その後、大統領の政党と議会の多数党が異なるために、大統領と首相の所属政党が異なる「コアビタシオン(同居、保革共存)」も何度か発生したが、比較的うまく調整している。もし議院内閣制のままで統治構造を変えていなければ、今のイタリアのように、今でも政治不安定が続いていたであろう。やはり、政治システムを変えれば、政治も変わるのである。
日本は自民党の長期支配が続いて政権交代があまり起きないので、首相職は自民党の中で私物化され、たらい回しにされている。だから、国民が望んでもいないような人が次々と首相に選ばれて、しかも短命で終わる。衆議院の選挙制度を小選挙区比例代表並立制に変えたが、この「自民党優位、短命内閣」という状況は、基本的にはほとんど変わっていない。今の議院内閣制のままでは、このような政治的不安定、膠着状態が続くばかりである。もしここで新憲法を制定して、総理公選制を導入したら、政権交代が起きやすくなり、総理の地位やリーダーシップも安定して、日本の政治は大きく変わっていくに違いない。そして、国民の支持を受けたリーダーが総理に選ばれて、国民の意思を反映した真の民主政治が、この日本に実現していくことを、私は切に願う。

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