憲法審査会 2023年6月1日 議事録


◆各会派代表の発言
新藤義孝(自由民主党・無所属の会)
自由民主党の新藤義孝であります。5月18日の審査会では大石・長谷部両参考人より、参議院の緊急集会について専門的見地からご意見をお伺いしました。本日はこれまでの審査会での討議及び両参考人の意見を踏まえまして、参議院の緊急集会について、私なりに整理をしたいと思います。
まず配布資料の上段をご覧ください。憲法54条が本来想定しておりますのは、衆議院の解散時に国会の対応を必要とする緊急の案件が発生し、それを処理するために参議院の緊急集会が開くことができるということであります。
これはその後の一定期間内に総選挙の実施が予定されており新しい衆議院議員が選出されることを前提に、二院制国会の例外として、一時的・暫定的な制度であることを意味するわけです。この点につきましては審査会の議論でも多く出され、大石・長谷部両参考人からも同様の意見がありました。つまり参議院の緊急集会は二院制国会の機能が予定された選挙によって回復するまでの間に活用される平時の制度と位置づけられるわけであります。
また大石参考人からの指摘のように、このような二院制国会の例外規定は厳格に解釈すべきことについても多くの委員に共通した意見と考えます。これを前提に、次の配布資料1「場面の限定」をご覧ください。
54条1項の文言上、緊急集会の開催は衆議院が解散された時に限定されますが、大石・長谷部両参考人ともに、任期満了による衆議院不在の場合にも、類推適用できるのではないかとの意見でございました。例外規定に関する条文の厳格解釈の原則及び立憲主義の観点からすれば、こうした拡張解釈は基本的には望ましくないと考えます。一方で任期満了による場合も、総選挙の実施が予定されており衆議院の不在が60日前後の一時的、短期間であるという状況の共通性を考えれば類推適用について検討の余地があるとも考えられ、さらにこの議論を深めたいと思います。
次に配布資料の2「期間の限定」をご覧ください。
緊急集会を開くことができる期間について、大石参考人は70日という数字は、一義的に明白であるからこれ自体を延長する解釈は取れないと明確に述べる一方、長谷部参考人からは、平常時にはきっちりと守らなければならないが、非常時になれば生き延びることが大事だから70日を超えて緊急集会で対応することも可能との意見がありました。私は緊急集会が二院制国会の例外規定であることを踏まえれば、原則として憲法の文言通り最長で70日と考えるべきであります。一方で1の「場面の限定」の議論と同様に、総選挙の実施が予定されているが国会召集までの期間が70日を超えてしまうというような場合には、状況の共通性という観点から多少の延長があり得るかどうか、検討の余地があると考えます。続いて配布資料の3「権限の限定・案件の限定」をご覧ください。この点について大石参考人は、
参議院の緊急集会は内閣のみが開催を求めることができ、内閣が提案した案件を参議院が審議議決することなどを踏まえ、その権限を闇雲に拡大する事は内閣と参議院の関係を大きく変えてしまうだけでなく、参議院によって衆議院の権限を奪うという危険をもたらしかねないとの意見を述べられました。長谷部参考人も、参議院の緊急集会の権限に限定があることは認められております。したがって参議院の緊急集会の権限や案件が限定的である事は学識的にも異論は無いものと考えます。配布資料の4は暫定制についてであります。
緊急集会で取られた措置の効力が、次の国会開会後10日以内に衆議院の同意を得なければならない暫定的なものであることについては、大石・長谷部両参考人とも異論はなく、限定的に二院制の例外としての権能はあっても、二院制の機能を代替できるものではないことが明確になったと考えています。したがって我々が議論を進めてきた緊急事態における議員任期の延長などの措置は、参議院の緊急集会でカバーできるものではなく、あらゆる事態に陥っても国会機能を維持するという観点からの議論は、さらに加速させなければならないとこのように考えます。
配布資料の下段「議論に当たって留意すべき事項」をご覧ください。まず①参議院の緊急集会については、これまでの討議により総選挙が実施され新しい衆議院議員が選出されることを前提にした平時の制度であり、期間、権限や案件も限定された暫定的な制度であること。次に②日本国憲法には参議院の緊急集会では対応できない有事に陥った際の規定がなく、そもそもいわゆる有事の概念が規定されておらず、緊急事態の発生を想定した制度は整備されておりません。しかしそのような有事として東日本大震災や、高い確率で発生が予想されている首都直下型、中南海トラフ巨大地震を考えると、発生する蓋然性は高まっており、今や現実の脅威となっております。私たち国会議員は、立法府の責任においていかなる事態が発生しても、国民の生命と財産を守り抜かなければなりません。憲法に緊急事態条項を整備し、二院制国会を機能させるための議員任期延長など、国会機能維持のための措置を講じておくことは、喫緊かつ必須であり、立憲主義の観点からも極めて重要です。
なお、3分の1の定足数が確保できれば、国会機能は維持可能であるから、選挙ができるところで総選挙を行いその後は繰延投票を使って選挙が実施可能になったところで順次行っていけば良い、との意見を聞きました。とりあえず選挙ができたところで選ばれた議員で、定則数さえ満たせれば国会が機能するとも言うような意見は、立法府に身を置くものとして、到底受け入れることができるできません。また衆議院の比例選出議員については、そのブロックすべての選挙区で結果が出るまで、1人の当選人も確定しないことになります。このような不完全な状態をもって国民の代表機関である国会が機能しているとはおよそ言えないと思います。国政選挙は全国一斉に同じ条件で民意を問い、その集約として国会議員が選出される、それが民主的正当性のある立法府であり、緊急事態に陥ってもその姿を追求することが当然と考えます。もちろん厳しい状況であってもできる限り早期に選挙実施することが当然であり、自分たちの都合の良いように恣意的な判断があってはならないこともこれまた当然であります。また参議院の緊急集会を軽んじることがあってはならず、規定された条件や範囲においては参議院の重要な機能としてしっかり活用していく事は言うまでもありません。これまで述べた意見を改めて集約すると、まず参議院の緊急集会は平時の制度としてその適用範囲をどの程度拡張できるか、検討を加えてはどうかということであります。合わせて憲法上の規定がない有事においても、国会機能を維持するため、議員任期の延長をはじめどのような緊急事態条項を整備すべきなのか、議論を煮詰める必要がさらに深まったというふうに考えております。これに加えて③です。このような措置を講じても、どうしても国会機能が維持できないという万が一の事態についても検討が必要であり、内閣の緊急政令や、緊急財政処分の制度ついて議論を深めるべきとも考えています。もちろんこうした制度は、積極的な活用を想定するのではなく、究極の備えとしていかなる場合においても超法規的な政策判断を行うことなく、政府の行動を統制するという立憲主義の観点から重要と考えています。以上、参議院の緊急集会の位置づけと適用範囲に関する論点を私なりに整理をさせていただきました。
各会派からのご意見を伺った上で、今後はこうした要素も含め、議員の任期延長を始めとする緊急事態条項の創設について、憲法審査会として総括的な論点整理を行ってはいかがかと考えております。具体的な進め方につきましては筆頭間協議や幹事会などで相談をさせていただきます。今朝の幹事会におきまして、次の定例日である6月8日に審査会を開催し、討議を継続することを提案しました。引き続き憲法審査会が安定的に開催され、充実かつ深い論議が行われるよう委員各位のご理解とご協力をお願いして私の発言といたします。

中川正春(立憲民主党・無所属)
立憲民主党の中川正春です。今日の審査会は、参議院の緊急集会について、先般の参考人質疑を踏まえての議論になります。私はここではもう少し原点に立ち返ったところを話の出発点としていきたいというふうに思います。
この出発点というのは、緊急事態条項が必要かどうかということでありました。この論点については、私たちは憲法に緊急事態条項すなわち通常の統治機構を超えて権力を集中させ緊急事態に対応する権能を明記するという事は必要ないというふうにこれまでも申し上げてきました。それぞれの法律の中で体制が作られているということであります。不分の法理である国家緊急権を実態化し、憲法上の緊急事態条項を設けるという事はかえって権力によるその乱用のリスクというのを高めていきます。緊急事態の大義名分のもと、緊急事態条項が乱用されるというリスクであります。そのような中で今回課題として取り上げられたのは、緊急事態により選挙困難事態が続くと想定される場合にはどうするかということであります。この課題に対して、どんな時でも権力の乱用を国民代表機関である国会が統制するという立場に立てば、最初に考えなければならないのは選挙困難事態をでき得る限り早急に解消して選挙を実施し国民の意思が反映した衆議院の機能を取り戻すということであります。
選挙困難事態の捉え方としては、これを理由に時の政権が恣意的に選挙を先延ばしして、権力の維持を図り暴走するという危険性をいかに防ぐかという観点が大切であろうかと思います。またそれが出発点だと思います。またそれを踏まえた上で、具体的に検討すべき主な論点は次のようになります。
まず選挙困難事態を早期に解決する方策であります。これに関して、日弁連の提案が次のようにあります。
まず①平時において選挙管理委員会に対し選挙人名簿のバックアップを取ることを義務付ける。
さらに②大規模災害が発生した場合には避難者が避難先の市区町村の選挙管理委員会に出向いて投票を行える制度を設ける
③番目に郵便投票制度の要件を緩和することにより投票できる制度を備えていくといった内容であります。
これに加えてインターネット投票の実施規定を設けるということも重要であるというふうに思っております。
次に、選挙困難事態の認定基準と効果の問題であります。広範な地域での長期間の実施不能を意味する選挙困難事態とはどのような事態を指すのか、とこの定義であります。選挙が実施できない地域のみを除いた選挙の一部実施が許されるのか。許されるとした場合にその基準などを事前に決めておく必要があります。すなわち選挙の公正な施行に支障がある選挙区の割合が、例えば全体の30%なら選挙の一部実施をして良いのか、50%ならどうか、それとも100%の選挙区で選挙が公正に施行できなければ一切選挙ができないというのかという事について、様々な事例を想定しつつ選挙困難事態の具体的な認定基準と認定の効果を策定していくことが必要だと思います。さらに選挙困難事態の認定主体の問題もあります。選挙の延期や実施の決定をするのは政府だけでいいのか。国会ないし参議院の緊急集会の関与が必要なのではないか。それとも第三者機関に選挙の延期実施勧告等の権限を付与することも必要であるのではないかということであります。この機能を一定程度裁判所に付託するという事、この論点も含めてさらに議論が必要だというふうに思います。さらに選挙困難事態により衆議院議員が不在となる期間が長期にわたって続くと想定される場合にどうするかという点も当審査会で議論されています。しかし実際には、選挙困難事態が長期化する蓋然性が低いという事、そうしたケースを事前に想定することが困難であるという事は、大石・長谷部両参考人も述べておられます。また過去の例からそのようなケースは起きていないということも指摘をされています。そのような中でたとえ発生する確率が低いものであっても、あえて選挙困難事態の長期化を想定する必要があるということであるとすれば、私たちは現時点では先に述べた選挙困難事態に対する課題を解決した上で、参議院の緊急集会で対応することを選択すべきだと考えております。ただし通常の二院制の中で、国会が果たすべき機能とは区別して、内閣から付託される限られた課題に臨時的・応急的に対応することが前提となっていくのは当然であります。さらに選挙が行われて衆議院の機能が戻ったときには、憲法54条の規定に基づいてそれを承認する手続きというのが必要であります。なお、70日を超えて選挙困難事態が続くと想定される場合には、緊急集会では対応できず議員任期を延長して対応する案が出ておりますが、現時点で我々は議員任期の延長は必要ないと考えています。
もともと70日は、その間に選挙をして衆議院の機能を取り戻す期限の目安であって、万が一これを超えたからといって参議院の緊急集会の機能が否定されるという事は無いと考えています。もっとも緊急集会の活動可能期間について衆参の憲法審査会で議論を詰め、一定の制約があるとの共通認識に達した場合には、議員任期延長についても、国会機能を維持するための選択肢として議論を進めることもあり得るという事、ここもあると思います。ただしその際には先般の長谷部参考人の立憲主義に基づいた見解に留意する必要があると思います。
議員任期の延長を可能とすれば、時の政権がそれを悪用して、選挙で民意の審判を受ける事をさけて、いつまでも権力の座に座り緊急事態を恒常化させてしまう危険があるということであります。時の政権が議員任期の延長を権力維持のための手段として使うということがあってはならないと、これを強く申し上げておきたいと思います。
以上、緊急集会を取り巻く課題について私たちの論点整理をしました。
参議院の憲法審査会でもこの議論は続いております。緊急集会に関する議論は、参議院の論点整理を尊重していくということが必要であると思います。そこを待たなければならないということであります。最後にこのことを申し添えて、私の今日の発言といたします。


岩谷良平(日本維新の会)
日本維新の会の岩谷良平です。はじめに参議院の緊急集会に関する各論点について、日本維新の会の見解を簡潔に述べます。第一に、場面の限定、すなわち衆議院の任期満了による衆議院不在時にも憲法54条を類推適用できるか否かについては、類推適用できるとの説もありますが、条文上、明確にすることが必要と考え、我々は国民民主党、有志の会の皆さんとともに、任期満了時にも緊急集会を開催できる旨を憲法に明記する憲法改正案をお示ししているところです。第二に期間の限定については、憲法54条1項が定める日数は、一義的な意味を有しており、最大で70日間に限定されると考えます。第三に、権限と案件の限定についてですが、権限については二院制の例外という性格に照らして内閣総理大臣の指名、条約の締結の承認、内閣不信任決議等の権限は行使できないと考えます。
先日の参考人質疑で大石眞先生がおっしゃったように、本予算の議決についても慎重に考えるべきです。
案件については憲法54条2項が緊急集会の要求権を内閣にのみ認めていることなどから、内閣が示した案件とこれに関連する案件に限定されると考えます。
次に、国家の緊急事態時に衆議院が解散または任期満了により存在しない場合、参議院の緊急集会によってこれを乗り切るべきとの考え方がありますが、そのような考えには以下に述べる理由により反対であり、繰り返し主張しております通り、議員任期延長を含む緊急事態条項を憲法に創設すべきであると考えます。まず衆議院の優越を含んだ二院制の原則を軽視すべきではないと考えます。なぜならば有権者は衆議院の優越を含んだ二院制を前提に衆議院選挙に投票していると考えられるからです。緊急事態において選挙実施が困難な状況に立って衆議院が存在しない中で70日を超えて数ヶ月あるいは1年以上参議院のみで予算や法律を無限定に決めていく事は、衆議院選挙、参議院選挙の投票の際には有権者は想定していないと思われます。先日の参考人質疑において長谷部恭男先生からは、憲法43条が定めている通りいずれの地域から選出された国会議員も全国民を代表しており、多くの選挙区で繰延投票や選挙の延期が行われていたとしても、できるところから順次選挙を行い、定足数の3分の1を満たせば国会としての審議議決を行うことには正当性がないとまでは言いにくいという趣旨のご発言がありました。しかしこの全国民の代表の意味については、政治的代表として選挙母体の意思に拘束されないという評決の自由が本質的な意味であり、また国民意思と、代表者意思の事実上の類似も重視されるべきとする社会学的代表の意味を含むと解されます。そして非現実的とのお話がありましたが、実際に南海トラフ地震やパンデミック、また狭い日本において全土が武力攻撃にさらされるという事態において、全国の大部分で選挙実施困難な事態が半年や1年以上にわたって及ぶ可能性も否定はできません。また災害等で選挙が実施できない地域の民意の反映こそが、緊急事態においては非常に重要です。加えて選挙の一体性の視点も重要です。地域政党から出発した我々日本維新の会のように、特定の地域の選出議員が多い政党も現実的に存在しているわけですが、例えば南海トラフ地震などで、近畿地方が半年以上にわたって選挙実施困難事態が続いたと仮定した場合、わが党の、隣におります大阪選出の馬場代表も、私も、兵庫選出の三木議員も、ここに座っていないということになるように、特定の政党の衆議院議員のみが極端に数が少なくなり、現実の民意を反映した議会構成にならない恐れがあります。これは選挙実施困難事態の認定要件にも関わる問題ですが、現代の制度国家においては議員は政党を通して国民の代表者としての実質を発揮できるため、国民の政党への支持をできるだけ正確に国会の議席数に反映する事は重要と考えます。次に衆議院と参議院で多数派政党が異なる、いわゆる衆参のねじれ国会も想定しておく必要があります。選挙実施困難で衆議院が存在しない中で例えば野党が過半数で議席を有していた場合、議会運営は極めて困難となり、国の存亡に関わる緊急事態において迅速な意思決定ができない、いわばデッドロック状態になってしまうことも考えられます。国の存亡に関わるような緊急事態においては、与党も野党も関係なく1つにまとまるはずだという考えもあるかもしれませんが、私は何らの担保もない情緒的な話に国の存亡をかけることはできません。さらに衆議院と参議院の同時選挙が予定されている中で緊急事態となった場合、あるいは緊急事態で衆議院選挙が実施困難な中で参議院選挙も1年以内など近い時期に予定されていた場合は、状況によっては参議院議員も半数しか存在しなることも想定できます。衆参合わせて713名の定数の中で、たった参議院議員124名しか存在していない国会で、国の存亡に関わる緊急事態を乗り切っていくのか、あるいは任期延長で衆参がフルスペックで機能している国会のもとで乗り越えていくのかを比較した時、後者が立憲主義と国民主権にかなうと考えます。議員任期延長については国民の基本権たる選挙権を奪う、あるいは現在の民を反映していないため民主的正当性がないため認めるべきではないとの主張もあります。しかしあらかじめ憲法で緊急事態における議員任期延長を規定しておけば、有権者は緊急時には任期を延長した上で、国難を乗り切るために国民の代表を選ぶものとして国政選挙で投票を行うことになるため、そのような前提で選出された国会議員の任期が延長され、また復活する事は、民主的正当性は確保されていると考えます。もっともそれが緊急事態に名を借りた権力維持策として乱用される恐れがあるため、十分な歯止めが必要となります。それ故、議員任期延長については司法によるチェックが不可欠であり、我々維新の会は議員任期延長の決定の際にも、その延長の期間が6ヶ月を超えた際にも、憲法裁判所が関与できるようにすべきことを主張しています。
以上、70日を超える長期にわたる有事の際に、参議院の緊急集会で対応することには多くの問題があるため、いつ起こるともわからない有事に備えて一刻も早く憲法を改正して緊急事態条項を創設すべきであることを改めて申し上げて、私の発言を終わります。ありがとうございました。

浜地雅一(公明党)
公明党の浜地雅一です。前々回、お二人の憲法学者の先生方に参考人として当審査会においてご意見を頂戴いたしました。改めて感謝を申し上げたいと思います。緊急集会の性質につきましては、両参考人とも、衆議院の解散時のみならず任期満了選挙時にも類推適用ができること、しかしあくまで緊急集会は暫定的な措置であること、その権限も一定の限界がある事は共通していたと思います。ただしその期間については、大石先生はあくまで70日程度であるべき、長谷部先生は平時は70日程度であるが非常時は日数にこだわらずに総合的に判断し得る旨、述べられました。私の理解では、大石先生は、70日間を超えて影響が及ぶような場合には明文化するか否かは別として、国家緊急事態に対する対応を検討すべきであるとのお考えを示され、長谷部先生は、国家緊急時においても緊急集会を活用し得るもしくは活用すべきとの見解であると拝察いたしました。
この点について公明党としては、参議院の緊急集会はあくまで二院制及び衆参同時活動の原則の例外である以上、その適用範囲は厳格に解釈すべきであり、また権限も一定の限界があるため国政選挙が実施困難となる緊急時においては国会機能の維持を図るべきである。その国会というのは二院制及び衆参同時活動の原則の下での国会機能の維持であり、70日間を超えるような選挙困難事態においては一定の要件の下、国会議員の任期の延長を認めて行くべきとの立場であります。そこで参考人の意見の中で、特に長谷部先生のご意見で印象深かったのは、広範かつ長期にわたり選挙実施が困難となる事態が発生し、かつそれを予測することができるのかといった問題提起がありました。
確かに任期満了選挙前もしくは衆議院の解散後に、あらかじめ震災等の選挙困難事態が生じるかを確実には予測できません。しかしわれわれは、実際に東日本大震災を経験し、発災後翌月の4月に迫った地方選挙では特例法を制定し、多くの自治体で選挙期日が延期され、地方議員の任期も延長されました。最も遅い自治体では約7カ月間延期されたわけであります。残念ながら災害の多いわが国では同じような規模の大震災が起こり得る事は予測しなければならないわけでありまして、また東日本大震災や阪神淡路大震災など実際に起こった経験を踏まえれば、災害が発生したその時点において被害の状況等からその影響がどの程度広範な範囲に及ぶのか、またその期間もどの程度長期にわたるのか、すなわち選挙困難事態が生じるか否かを予測し得る知見が既に我々にはあるわけであります。
現実に大規模災害を経験し、また今後も同程度以上の災害が発生する可能性が指摘されている現状において、国民の生活を守るための予算措置や立法措置を図るための国会機能の維持をいかに構築すべきかを議論すべきは我々立法者に与えられた責任であると思います。また繰延投票を活用し順次選挙を実施していくべきとの指摘もございました。東日本大震災のときには繰延投票制度によることなく特例法を制定いたしました。確かに法律で任期延長ができない国会議員を選ぶ国政選挙の場合は特例法では対応できない、繰延投票を活用するしかない、との見解もありますが一定範囲の自治体もしくは選挙区で議席が確定する地方選挙と異なり、国政選挙の場合は全国一斉に同時に行うべき選挙の一体性が求められる点が重要であります。これは選挙を同時に行わないと、被災地域の議員や、また比例代表議員が選出されないことのみならず、首班指名を始めとする国政全般に対する選挙時における民意の適切な反映が行われないからであります。仮に繰延投票を順次行っていくと、既に実施された選挙結果を考慮して有権者の投票行動が左右される可能性は否定できず、選挙で反映されるべき民意に時間的な幅が生じてしまいます。確かに国政の補選でも同じ現象は生じると言えますが、広範なエリアで繰延投票が行われる場合と、一部限定された選挙区で行う補選とでは有権者の投票行動に与える影響は大きく異なるものです。やはり国政選挙というのは選挙時の民意を同時一体的に反映させる必要がありますので、広範な地域で国政選挙が実施困難な場合に、繰延投票を順次行っていく事は、選挙の一体性の観点から許容できないのではないかと思っております。
また国会議員は全国民の代表であるため、定足数が満たされる議員が選出できれば国会運営が行われるとの指摘もありました。しかし被災地域の議員が不在では議員と有権者の近接性の観点に照らすと、果たして被災地域選出議員が不在のまま行う復興に関する予算審議や立法活動に対し、現実的に地元有権者の理解が得られるのか疑問であります。43条に言う全国民の代表とは選挙区の有権者の意思や後援団体等の特定の選挙母体の代表ではない。言い換えれば選挙母体の訓令に拘束されないという政治的代表という概念と、国民意志と代表者の意思の事実上の類似性が求められる社会学的代表の概念がある事は言うまでもありません。社会学的代表という側面もあることからすれば、被災地域の議員が不在でも、定足数を満たす議員がいれば良いというのはいささか形式的過ぎると思います。国会議員の任期を延長することによる乱用の危険性についても指摘がございました。この点、我が党としては、国会議員の任期延長に係る議決要件を出席議員の3分の2とする特別議決とし、その延長の期間は原則6ヶ月間であり再延期できる場合も1年間を上限とする案を提示しております。これにより時の政権が選挙期日を無用に引き延ばすという乱用の危険は回避できるものと思います。ただし衆議院解散後に選挙困難事態が生じた場合、衆議院が存在しないため任期延長の議決を行うのは参議院の緊急集会となるのか、それで良いのか、この点は議論すべきと思います。
以上、先日の参考人のご意見も踏まえて改めて会派としての意見を述べましたが、我々立法者は選挙困難事態が生じる可能性がある以上、たとえ発生する蓋然性が低いとの指摘があったとしても、国民の命や権利を守るためあるべき法制度を構築する責任を負っております。参考人からあった乱用の危険にも充分配慮しながら、いかなる事態にも万全を期すための制度設計をしなければならないと思います。以上でございます。

玉木雄一郎(国民民主党・無所属クラブ)
国民民主党の玉木雄一郎です。緊急集会の期間については、私も最大70日とすべきだと考えます。大石先生が主張されたように70日という数字が書いてあることの意味というのは、やはり捨てがたくそれを突破されたらどこまでが限界か分からなくなるからであります。一方長谷部先生は、40日や30日といった具体的数字の入った順則規定は、平時には100%守らなければならないが、緊急時においてはまず生き延びることが大事だから必ずしも100%従わなくても良い旨の述べられました。しかしこれは緊急事態を理由に行政の解釈で憲法に書いてあるルールを恣意的に拡大することに道を開くものであり、むしろ権力の乱用につながる危険性を孕んだ解釈だと考えます。より具体的に言うと仮に70日を超えて緊急集会を適用できるとして、いつまで可能なのか、そしてその期間を決めるのは一体誰なのか。
憲法に規定がない以上、結局その決定は実質的に時の内閣が行うことになり、権力の乱用につながる恐れを払拭できません。また長谷部先生は「70日」はある政治勢力が権力の座に居座り続けることを防止する規定だとおっしゃられましたが、参議院が現在のように衆議院の多数派と同じ政党が多数を占めている場合には、結局同じ政治勢力が権力に居座り続けることになります。しかも両院同時活動の原則が崩れた形で居座ることになります。そしてこうした先生もおっしゃったモーリス・オーリウ流の緊急事態の法理を認めるのであれば、憲法9条の規定や解釈が全く意味がなくなってしまいます。国家の存亡を賭けた究極の緊急事態が戦争であり、その時に国家の生き残りのためのであれば敵基地攻撃どころかフルスペックの集団的自衛権の行使さえ可能となります。条文解釈から導かれる専守防衛や必要最小限の制限も消え失せてしまうでしょう。普段、憲法の条文を守れと主張する方々はこのようなモーリス・オーリウ流の緊急事態の法理を許すんでしょうか。
54条2項については緊急事態の法理が当てはまるが、9条には当てはまらないとするのは、あまりにもご都合主義であり、論理的整合性を欠いていると思います。この点に関してはもしよければ共産党や立憲民主党のお考えを伺いたいと思います。ちなみにモーリス・オーリウは、緊急事態の法理の根拠として、「その権力の根源は神にある」と述べています。権力の起源が神にあるとする神学理論が正しいと考えている人がここにいるとは思えません。
もう一つ、長谷部先生が紹介されたイギリスのバーコック判決についてですが、私も緊急時には赤信号を無視していいと思います。だからこそその例外を事前に憲法や法律に書くことを提案しています。実はこの判決の最後の部分で裁判官が、今私が申し上げたことと同じ趣旨のことを実は述べています。「私は法律を改正すべきだと思います。全く例外なく違反とする法律を放置したことで、議会は消防署における終わりない議論に道を開いてしまったのだから、それを終わらせるべきだ。本日の判決がそうした議論に終止符を打つことができればと思うが、議会はもっと良い対応ができるはずだ」と。つまり緊急時には赤信号を無視できる命令は仕方がないと判示しつつも、そうした例外を法定することを議会に求めています。立憲主義の基本は、まず憲法に書いてあることを書いてある通り尊重することが原則ではないでしょうか。立憲主義を徹底するためには、事前に緊急事態における例外的対応を憲法に明定しておくべきです。これに関して思い出すのが、日本国憲法の制定当時、いざとなったら内閣のエマージェンシーパワーで処置すれば良いといったGHQに対し、日本側から「憲法をこれから作ろうという際に超憲法的な運用を予想するようでは明治憲法以上の弊害の原因となる。全てが憲法の性状によって処置されるようにする事はむしろ正道ではないか」と反論した事実です。私たちも今、超法規的、超憲法的な運用に頼るのではなく、憲法の規範性を重視しようとした当時の日本側の起草者と同じ思いを共有すべきではないでしょうか。そして長谷部先生のような研究者と私たち国会議員の間には、根本的な認識の差があると思います。学者は既存の条文の解釈を出発点にして、体系的に学説を組み立てていくのに対して、私たち国会議員は立法者であって、それ故たとえ蓋然性が低くても可能性がある限り、国民の生命や権利を守るためにあるべき法制度を構築する責任を負っているはずです。危険に備えるかどうかを決めるのは学者ではありません。それは国民の生命や権利を守る責任を負った私たち国会議員に他なりません。私たちが決めない限り答えは出ないのです。そしてこうした認識の差は、選挙に係る認識においてより顕著だと思います。特に選挙が可能となった地域から順次繰延投票を行って当選者を決めていけばいいという考えは、到底取り得ないと思います。投票期間が大幅にずれて行われる選挙は、国民意思の表明に時間的な差を生じ、選挙の一体性が担保されないからです。全国一斉に行われる国政選挙の正当性に対する考え方が、学者の先生方と根本的に異なっていると言わざるを得ません。また3分の1以上の議員が選出されたから定足数を満たし、そして国会議員は全国民の代表だから良しとする考えも、あまりにも形式的に過ぎると思います。例えば先ほど岩谷委員が述べたように、近畿地方で大災害が発生して選挙ができないときには、維新の会の議員の当選者が大幅に減るでしょう。そんな中で開催される国会が、全国民を代表した選挙と言えるかどうか、これは疑問です。
最後に一言申し上げます。戦後、私たちが目撃してきたのは憲法の死文化です。本来なら憲法を改正して対応すべきところを、解釈を駆使して対応してきた結果、憲法に書いてある事と現実との乖離が放置され、憲法の死文化が進行してきたんです。更なる憲法の死文化を止めて、憲法の規範性を回復することこそが、この憲法審査会の責務ではないでしょうか。よって緊急事態における対応についても、権力の乱用につながりやすい緊急事態の法理に、安易に委ねるのではなく、憲法を改正し、憲法の死文化を防ぎ、立憲主義を守り抜くべきであることを主張して発言を終わります。

赤嶺政賢(日本共産党)
日本共産党の赤嶺政賢です。前回に続いて、緊急事態を理由とした国会議員の任期延長と参議院の緊急集会について意見を述べます。この間の議論で特徴的と感じている点をいくつか申し述べたいと思います。
1つは、議員任期の延長が国民の参政権を制限することへの認識が極めて希薄だということです。日本国憲法は前文で主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると述べています。国民主権は、日本国憲法の基本原理であり、国民の選挙権は最大限に保障されなければならないものです。
2005年の最高裁判決は、国民の選挙権について国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹をなすものと述べ、これを制限する事は原則として許されないと強調しています。
ところが今、緊急事態を理由に議員任期を延長し、国民の選挙権を制限することを当然視する議論が行われています。議会制民主主義を根底から揺るがすもので、国民主権を軽んじるものと厳しく指摘しなければなりません。
任期延長の口実として、国会機能や、二院制の維持が強調されていますが、その大前提は国会が国民に正当に選挙された議員で構成されていることです。人為的に任期を延長し、国民から信任を受けていない議員が長期にわたって居座り続ける事は許されません。衆議院議員が不存在の場合は、臨時の暫定的措置として参議院の緊急集会で対応し、その後に国民から選ばれた衆議院がその当否を判断する仕組みを維持するべきであります。長期にわたって総選挙を実施できない恐れがあると言うのであれば、そのような事態を招かないための選挙制度の改善を議論すればよいのであって、憲法を変えて任期延長を可能にするなどというのは、まさに本末転倒の議論であります。
2つ目は議員任期の延長が権力の乱用と恣意的な延命につながる危険が鮮明になったことです。長谷部参考人は、議員任期を延長すれば、総選挙を経た正規のものとは異なるある種の国会が存在することになり、国会に付与されたすべての権能を行使できることから、緊急時の名を借りて通常時の法制度そのものを大きく変革する法律が次々に制定されるリスクがあると指摘しました。その上で任期の延長された衆議院と、それに支えられた従前の政権とが長期にわたって居座り続ける緊急事態の恒久化を招くことになりかねないと警告しました。「そのような事は考えていない」という反論があるようですが、いついかなる時も、権力の乱用が起こらないように、三権分立を始めとする民主政治の仕組みが作られてきたことを思い起こすべきではないでしょうか。
わが国では1941年、衆議院議員の任期が任期満了前に立法措置により1年間延期されました。緊迫した内外情勢下に、短期間でも国民を選挙に没頭させる事は、挙国一致体制の整備を邁進しようとする決意に疑いを起こさせないとも限らないというのがその理由でした。その間に東南アジアへの戦線拡大と真珠湾攻撃に踏み切り、無謀な戦争に突入していきました。この歴史への反省から、戦後の日本は権力者の都合で恣意的に任期を延長することのないように、法律ではなく憲法に任期を規定したのです。憲法制定議会において金森担当大臣は、国会議員の任期を自ら伸ばす事は甚だ不適当であり、そのために憲法に4年の任期を明記したこと、その時には必ず選挙に訴えて国会が国民と表裏一体化しているかどうか現実に表さなければならないことを強調しています。この指摘を重く受け止めるべきです。前回、また今日も玉木委員から緊急集会に70日間を超える対応を認めることになれば、フルスペックの集団的自衛権の行使も可能になるのではないかという質問がありました。この問題を考える上で、土台に据えなければならないのは、日本国憲法はどういう憲法なのか、何を求めた憲法なのかということです。日本国憲法は侵略戦争によって多大な犠牲を出したことへの反省と、二度とあのような惨禍を繰り返さないという決意のもとに作られたものです。だからこそ権力の乱用を招く議員任期の延長も、他国の戦争に参加する集団的自衛権の行使も、それが限定的であれ、ましてや全面的であれ、認められる余地がないというのが私の考えです。
長谷部参考人が指摘したように、54条、9条のいずれの条項も、憲法の趣旨目的を踏まえて考えていくことが重要だと思います。以上で発言を終わります。

北神圭朗(有志の会)
私のほうは、緊急集会を70日以上延長できるかという論点に絞って意見を申し上げます。
結論から申し上げますと、大石参考人の発言、すなわち「参議院の緊急集会が両院同時活動の原則に対する例外をなすものであることを考えますと、その存続期間は憲法上やはり最大で70日という制約に服すると考えるのが合理的であろう」との意見に賛同します。他方、これに対して長谷部参考人の反対論は次の2点に分解できます。
1つは「緊急事態の恒久化を防ぐために平常時と非常時とは明確に区分されるべきであり後者の場合には70日を超えることも許される」と。2つ目には「なぜ許されるかと言えば54条1項は単なる調整規定であり非常時にまで生真面目にこだわらなくてもいいんだ」という意見であります。「そもそも70日と定めている理由は、解散した後に内閣が何かと理由をつけていつまでも総選挙を実施しない、あるいは総選挙後のいつまでも国会を召集しないことが起こり得るからだけの話だ」という意見です。この1点目につきましては、確かに緊急事態の恒久化は防がなければいけません。そのために平常時、非常時をはっきり分けなければいけないのも全くその通りです。しかしながら問題はこの目的ではなく、長谷部参考人の主張する手段で、果たして緊急事態の恒久化は防止できるのかと言うことです。
というのも長谷部理論によりますと、内閣は単独で「今は非常時だ」と決められます。もっと怖いのは平常時にいつ戻るのかという判断も内閣の一存で決まります。国会の意思は一切反映されません。加えて、非常時のみならず憲法が求める両院同時活動の原則の例外状態に恒久化されかねません。非常時を理由に、衆議院に多数がない場合、時の政権が参議院の緊急集会で、法案などを押し通す誘惑に駆られないと誰に言えるのかと。実際1948年第3回国会において吉田総理は、言うことを聞かない衆議院を解散して、緊急集会で予算の議決を図ろうとしたことを我々も思い出すべきであります。次に2点目です。54条1項は単なる調整規定であって、拡大解釈をしてもいいのかと。長谷部参考人のご著書『憲法の良識』には、調整規定ではなく訓示的規定だという表現を使いながら、54条1項については「何もなければ法律の条文通りにしてください。もし何か正当な理由があってどうしてもこの日数が守れなくなったとしても違法にはなりません」と。続いて、70日の期限を切る理由として、「昔のヨーロッパ諸国の話になりますが、例えば国王が議会を解散した後、全く議会の選挙をしようとしないとか、選挙はしたけれども自分たちにとって都合の良い結果ではないので新しい議会を招集しないといったことが、歴史的な事例としてありました。そうならないよう、きちんと日数を区切って総選挙をして、選挙後に新しい国会を召集しなさいと書いてあるだけなのです」とあります。確かに樋口陽一東大名誉教授も『註解 法律学全集』の中で、少し違う視点から、解散による総選挙の場合だけこの第54条で憲法が直接に定めを置いているのは議会制の歴史を反映していると指摘した上で、解散した後の選挙結果が行政府にとって望ましいものではない時に、再度の解散をあえてするようなことをすらあったからである、と過去の事例で裏付けています。
いずれの説をとるにせよ、54条1項は、内閣の権力乱用を防止する規定であり、日数を限定しているのはそれなりに重たい事柄だというふうに考えます。これを単なる調整規定あるいは訓示的規定に過ぎず、内閣だけが非常時だと判断することで延長できるという解釈が許されるのかと首をかしげざるをえません。この疑問に対して、阪口正二郎 一橋大学大学院教授は、『憲法改正をよく考える』の第3章「改憲論と生ける憲法」の中で、参考になる考えを示しています。すなわち「憲法の条文には大別して、明確で解釈の余地があまりないものと、曖昧で解釈の余地を残すものがある」と原則論を比的した上で、「憲法54条1項は相当程度に明確な条文であり、解釈の余地はあまりない。他方、表現の自由を保障した憲法21条のような条文は、解釈の余地を残し、解釈によって時代の変動に対応する場合が多い」と、まさに我々のこの議論に示唆を与えてくれています。以上を踏まえると、条文そのものの性質からして、今の解釈の話ですね、また日数の限定が、権力乱用防止のための主旨であることからして、54条1項は厳格に解釈されるべきであり、緊急集会が70日間を超える事は難しいというふうに考えます。また100歩譲って、70日を超える解釈を可能だとしても、長谷部参考人が強調して止まない「平常時と非常時を明確に区別すること」により緊急事態の恒久化を防止する目的を実現するためには、その区別の判断が、内閣だけに委ねられる解釈運用は手段として危ういと言わざるを得ません。こうしたことから70日間を超える選挙困難事態に対しては、緊急集会という手段よりも、憲法上国会における事前の厳格な手続きと、事後の司法による関与を要件とする議員任期の延長制度の明文化が望ましいと考えます。これは今述べてきた54条1項の法律解釈論の観点からもそうですし、また内閣に対する国会の統制を図るという観点からもそうですし、さらには憲法の二院制の原則の観点からも望ましいと考えます。以上です。


◆委員各位の発言
柴山昌彦(自由民主党・無所属の会)
自由民主党の柴山昌彦でございます。私は憲法54条2項に定める、緊急集会を任期満了時に活用するということにつきましては、その文言がそのように定められていないこと、またこの参議院の緊急集会が先ほど来、お話があるように権限に限定があると解されていること、また二院制の例外となることから、極めて慎重に議論するべきだというように考えております。前回の参考人質疑で長谷部参考人は、憲法54条2項の目的は、現在の民意を反映していない従前からの政府や政権の居座りを防ぐことだというように述べておられます。しかしながら議員任期の延長に際して、選挙困難事態の認定あるいはその延長について、厳格な判断をすることによってそのような乱用を防ぐことができます。私は、その認定は司法ではなくて、例えば中川幹事が先ほどおっしゃったような、国会あるいは国会に設けた機関等の認定によって、客観的に行うという手段が考えられるのかなあというように考えております。
緊急事態が終了した後には、そこで選挙が実施され、そしてまた新たに政策の見直しが実施されることによって、民主主義が健全に機能していれば、そのような居座りなどということを考える事は私は余地がないというように思います。そして何よりも問題なのは、長谷部参考人が、繰延投票を活用して投票ができるようになったところから順次投票を行っていけば良いと述べたことであります。これも先ほどから議論がある通り、比例代表選挙についてはその比例ブロックの一部でも選挙を実施しないと当選人を確定することができません。
また被災地で選挙ができないことから、そこの地域の議員が1院において空白になるということがあり得ます。緊急事態対応を講ずる上で、肝心な地域の代表者が選出できないということになるわけです。先ほど赤嶺委員は「選挙は国民の重要な権利だ」とおっしゃいました。当該地域の代表においても、「居座りだからどかせろ」と言うことを赤嶺委員はおっしゃるのでしょうか。この1人1票の原則そして民意を可能な限り正確に反映すべきという事は、例えば1票の格差において、地域間における国民の投票価値の平等をあれほどまでに裁判所がしっかりと要求しているということからも明らかであるかと思います。
歪んだ民意を使ったこのような緊急事態の対応というのは、私は極力避けるべきだというように考えております。そして長谷部参考人は「70日を超えても緊急集会で対応すれば良い」というふうにおっしゃっていますが、これは北神委員がおっしゃるように、もしそれを認めてしまうと衆議院の多数派を取ることができない少数の会派に芯を置く内閣が、あえてそれをこの事態を活用するために、選挙は行わず、そして参議院の緊急集会で望む政策を行うということを恒久化してしまう可能性が避けられません。緊急集会で対応している間は内閣は職務執行内閣に過ぎないわけです。そしてその内閣の大部分は前衆議院議員ということになります。そのような内閣が長期間にわたって、緊急事態に対応するということが果たして正当化されるのでしょうか。そしてちょっと考えればわかることなんですけども、もし議員任期延長というものを想定しなければ、例えば今日この後、この直後、非常に強毒性の高いパンデミック感染症が発生して、コロナは3年で収まりましたけども、今後5年間、選挙困難事態が継続したとした場合には、衆議院のみならず参議院議員も1人も議員がいなくなっちゃうわけです。そのような場合に緊急集会も開催されないということになりかねません。そのような事態が本当に起きるのかどうかという事はともかく、先程来お話がある通り、あらゆる事態の想定をして任期の延長ということを緊急事態条項の一部として定めていくという事は、私は国民にとって必要な国会の責務であるというふうに感じますので、そのことを申し上げ、私の意見とさせていただきます。

近藤昭一(立憲民主党・無所属)
立憲民主党の近藤昭一でございます。私は緊急事態条項および緊急事態における国会議員の任期延長問題について発言させていただきたいと思います。そもそも緊急事態条項とは何かということでありますが、自民党は2012年に憲法改正改憲草案を発表しました。その内容は、1、内閣が緊急事態宣言を出し、2、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定でき、3、予算の裏付けなしに財政上必要な支出その他の処分ができ、そして4、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる、5、緊急事態中は基本的人権の保障が解除される、というものであります。内閣が緊急事態宣言を出すことで、内閣は①国会の立法権②予算の決定権③地方自治体を独占し④国民の基本的人権を侵害できる、など憲法の民主主義、基本的人権に関わる諸原則を停止できるという内容であります。つまり緊急事態条項を創設することによって、緊急事態において憲法の根本的原則を停止できるということになるわけであります。ですから私は緊急事態の創設に反対します。長谷部参考人が、平時と緊急時の区別を重視し、緊急時の対応はあくまで臨時的措置に止め、平時の憲法上の諸原則の維持に努めることを強調したのは、緊急時の対応が憲法の諸原則を停止することになるからだと思います。では緊急事態における国会議員の任期延長についてはどう考えるべきでありましょうか。緊急事態における国会議員の任期延長についても、①国民の選挙権を事実上制限する②国会議員であることに正当性の根拠が乏しくなる③内閣に選挙困難の認定を委ねると内閣が恣意的に国会議員の任期を延長する乱用を生む等の問題があります。結局、国会議員を固定化し内閣の独裁を生む恐れがあります。長谷部参考人は、先ほどわが党の中川筆頭も述べた通り、緊急事態の恒久化の恐れがあると指摘されました。実際1941年に衆議院議員の任期が、任期満了前に1年間延長されたことがあります。その理由は今日のような緊迫した内外情勢下に短期間でも国民を選挙に没頭させる事は、国政については不必要にとかく議論を誘発し、不必要な摩擦競争を生じせしめて、内外外交上、甚だ面白くない結果を招く恐れがあるのみならず、挙国一致防衛国家体制の整備を邁進しようとする決意について疑いを起こさしめぬとも限らないゆえ、議会の任期を延長して今後ほぼ1年間は選挙を行うこととしたというものであります。まさに政権が独裁化し、戦争を遂行するための国会議員の任期延長と選挙の先送りだったのであります。
むしろ緊急事態に必要なのは、国会議員の任期延長ではなくどんな状況でも選挙ができるようにする平時からの備えであると思います。この点では大石参考人が、改憲ありきではなく、立法による備えの必要性を述べられていました。日弁連から具体的内容について提案がなされている事は、先ほど中川筆頭が述べた通りであります。
今日、日米と中国の緊張関係が取りざたされています。こうした時に求められるのは戦争することを前提とし憲法諸原則を停止させる緊急事態条項の創設ではなく、戦争しないための徹底した平和外交の努力ではないでしょうか。
許しがたいロシアのウクライナ侵攻によって、ウクライナの死者は1万人を超え、難民は1千万人を超えています。人々の生活は壊され、自由も奪われています。ロシア側の兵士も多くの人々が強制的に徴用されています。
一旦始まった戦争は拡大をしていき、終結する見通しは立ってはいません。過去の日本の起こした戦争でも、アジアの人々は2千万人、日本人も310万人が亡くなられています。一旦戦争を始めるとその犠牲はおびただしいものになります。国民一人ひとりの命と生活を守るのが安全保障であり、政治家の使命ではないでしょうか。その観点から言えば、戦争を回避することこそ安全保障の核心でなければなりません。日本が台湾有事を想定し、米国と一体となって敵基地攻撃能力を保有し、軍事予算を無制限に拡大する事は、中国にとっては威嚇と感じ、日米を上回る軍事力を増強しようとするでしょう。こうした軍拡競争は、国民一人ひとりの生活を壊し、戦争を招く恐れを大きくしていきます。日本がとるべき戦争回避の道は、際限のない軍拡をやることではありません。
憲法9条1項に定められた、武力による威嚇や行使をしないという立場を発信し、平和的な手段による問題解決を自ら率先し、他国に促すことであります。日中の共同声明また米中の共同コミュニケでも、この原則を合意をしています。この原点に立つよう、中国、米国にはたらきかけることこそ重要であります。日本が再び戦争の道に踏み出さないよう、また国民の皆さんの命と生活を守るために、政治家の使命として徹底した平和外交を行うべきと考えます。ありがとうございます。

小野泰輔(日本維新の会)
日本維新の会、小野泰輔でございます。私も今日2巡目で何を話そうかと思っていたんですが、岩谷議員の原稿を事前に見て、ほぼ何も言うことがないなというふうに思っていました。そして浜地委員とそれから玉木委員、北神委員もですね、本当にすばらしいこの緊急集会の結論について、説得的な論評をなされたということで、私は特に付け加える事は無いんですけれども、参考人の質疑、私も本当に我々が教科書も勉強した先生に対して意見を申し上げるのは、本当に私も申し訳ないことだと思ったのですが、やはり憲法学者の先生方とそして実際に国民の生命財産を守る政治家の間では大きな認識の違いがあったという事を実感した参考人質疑だったというふうに感じております。
特に、「平時と有事」という議論がありました。新藤幹事から、以前からこの緊急集会というのはあくまで平時の制度なんだというようなご指摘があって、そのことについて、どうなんだろうと私は思っていたんですが、長谷部先生も平時と有事は明確に分けるべきだというふうにおっしゃっていて、このことについては何も変わりはないと思うんです。ただ私が参考人質疑が終わった後に感じた事というのは、平時と有事を分けるのは当たり前なんですけれども、そこにおける対応の仕方が随分と違うなという事だったんです。我々は緊急事態条項を考えなければいけないという立場の人間からすれば、平時と有事を分けるという事は、それはもう制度そのものもしっかりと作っておかなければいけないということなんですけれども、長谷部先生の場合には、それは緊急集会だと。そしてその運用の仕方が平時の場合には100%数字を守らなければいけないけれども、有事の場合には、その作ったルールっていうのは、数字っていうのは別に守らなくてもいいんだというようなことをおっしゃっていて、ずいぶん私は、それは乱暴な議論だなと。そして有事の場合にこそ、どれだけギリギリでルールを守るかということをわれわれは議論しているわけですけれども、その事はやはり、なかなか政治家との認識の差が大きいのかなというふうに思いました。同時に私は長谷部先生の話を聞いているときに、私もちょうどですね、208国会の2月24日、令和4年の2月24日にちょうど高橋和之先生に質問をさせていただいた時にも、高橋先生からも似たような話があったことを思い出したんですね。極端な事例を出せば出すほど権限をどこかに大幅に委譲する以外に解決の方法はなくなっていくわけですね、と。あるいは南海トラフということがあった場合に、誰か1人に権限を全面的に集中するような制度を作る以外にないということになるだろうと思うんですね、と。こういうことをおっしゃっているんですね。これはやはり、本当に立憲主義と言えるのかというふうに思います。有事が起こったときになりふり構わずに何でもありだというのが本当に立憲主義なのかという事ですね。これは政治家の側も憲法学者も我々も法律を学んだときには教科書を必ず読んでますから、このことは国家緊急権という事をですね、割と、「起こったときにはしょうがない」みたいに学者の皆さんは考えてらっしゃるんですが、本当に日本の憲法学としていいのかどうかっていうのは、山下先生も頷いてらっしゃいますが、ぜひ法曹の皆さんにも考えていただきたいというふうに思っております。その上でですね、中川幹事に今日はもう私は発言を短く終わりたいと思いますから、答えていただきたいんですが、70日を超えたとしても参議院の緊急集会が行えないという理由は無いんだ、というふうにおっしゃいましたが、しかしこれは長谷部先生もお認めになっております、今日は新藤幹事が一覧表を作って頂きましたけども、「権限・案件の限定」とか暫定性の問題はやはりあるんだということを長谷部先生もお認めになっているわけですが、ここについての制約条件を70日以上緊急集会が維持された場合にどうやって乗り越えていくのかと、それこそ何でもありというふうに言うんですか、とお尋ねしたいという事と、それから権力の乱用を防ぐ防ぐというふうに立憲民主党の皆さんはおっしゃっていますけれども、しかし、なぜ、これは私もちょうど参考人質疑の時にも申し上げましたが、参議院の緊急集会だって、これは参議院が「案件が終了しました」というふうに宣言しない限りは、これは権力の乱用が続くわけですね。ですからそこに何の差があるのかと。つまり立憲民主党の皆さんは、憲法改正をしたくないから、そちらの、例えば我々が提案しているような任期延長のほうは乱用があるんだ、というふうに言ってますが、参議院の緊急集会だって、先ほど岩谷委員が言ったように、半分の参議院議員しかいないような状態でずっと乱用が続く可能性があるわけですが、そのことに目をつぶっているのではないかというふうに思いますが、そのことについてもお答えいただきたいと思います。

中川正春(立憲民主党・無所属)
ありがとうございます。そこは非常に重要な論点だと思います。だからこそ私たちは、選挙困難事態の定義、これをしっかりと議論をした上で、選挙をまずやるということを、さっき申し上げたように、第三者機関かあるいは皆さんが言ってるような裁判所等と含めてしっかり認定するというか、そういう機能を前提にした議論をしなければいけないという事を言っています。だから任期延長するかしないか、あるいは70日超えるか超えないか、これはまだこれからの議論の余地は私たちはあるというふうに思っているんですが、それよりも大事なのは、選挙はやらなければいけないよということ、ここなんだと思います。そのことを強調したつもりで、さっきは申し上げたということです。

小野泰輔(日本維新の会)
もちろん選挙をできるだけできるようにする努力は、我々だって考えるわけです。ただちょっとお考えが違うのは、それすらも無理な時を考えていないという事なんですよ。それはやはり否定してはいけないと思います。以上です。

浜地雅一(公明党)
今日2回目の発言をさせて頂きます。ありがとうございます。
今日、私、お話を聞いてまして、参議院の緊急集会の性質論が、国会議員の任期延長問題に深く関わる事は確認しました。しかし一部ですね、繰延投票を活用すればいいんだという議論、先ほど私は反証させてもらいましたけれども、ここはこの委員の皆様方で、この繰延投票の活用の仕方というのはちょっと確認したほうがいいと思っております。私の理解では、繰延投票はすでに何か事態が起きたときに、選挙の公示日または投票日が既に決まっていて、決まった後に何か事情があって投票日に投票できないという時に繰延投票をするものだと思っています。例えばじゃあ、衆議院が解散をされた、または任期満了選挙が迫っている、実際の公示日や投票日が決まってないんだけど、繰延投票を行うためにはですね、選挙ができないことがわかっていながらその投票所で、あえて公示日を設定し、選挙期日を指定することになるんだろうと思います。果たしてこういう使い方がいいのかどうか、そこをですね、ちょっといきなりなんですが、法制局が解れば、繰延投票の正しい使い方といいますか、どういった許容をしているのか、ここを確認しておかないと、いつまでたっても繰延投票でできるんだということになりはしないかと思っておりまして、今ちょっと答えられるかどうか確認してから質問してますので、ある程度のことを答えられるということでございますので。会長もしよろしければ、橘局長に。

橘幸信(衆議院法制局長)
失礼いたします。突然のご質問ではありますけれども、条文上どうなっているかだけご報告を申し上げます。
先生方がご承知の通り、まず選挙期日については小選挙、通常選挙、その他地方の一般選挙とも、何時何時までに公示、告示しなければならないという形で選挙期日が一旦決まります。一旦決まった上で繰延投票については、天災その他避けることのできない事項により、投票所において投票を行うことができない時等においては、さらに期日を定めて投票を行わせる。つまり選挙期日が一旦決まっていて、その上でさらにもう一回期日を定めてやるというのが繰延投票だと。そして先生ご指摘の点は、初めからやれないことがわかっているときに、ダミーで1回、選挙期日を設定しておいて、それをさらに延ばすというようなことなのか、それともそういうときには期日を定めないで、繰延投票というふうにいきなりできるのかということについては、特に後者の点については条文上はかなり困難ではないかと。
そしてダミーで定めるということに意味はあるのかなという事はちょっと解りません。

浜地雅一(公明党)
ですので、繰延投票は基本的には今、橘さんのお話でございますと、きちっと公示日・告示日が決まっていて、投票日を決まっている中で、何らかの事態が生じたときにその投票所で投票できないということに、かなり限定されていくんだろうと思います。ですので衆議院が解散し、まだ公示日が決まっていない、もしくは任期満了選挙が迫り任期満了選挙の公示日、また投票日が決まっていない中において、何か投票所で選挙ができないような事態が起きたときには、私は繰延投票ができないんだというふうに思っております。ですので非常に、繰延投票をできるという議論は、限定された事態でありますので、そういう意味で言うと、この繰延投票ができると言う議論に、あまり我々委員としては引っ張られる必要はないんじゃないかということを改めて確認させていただいたというところでございます。以上でございます。

山下貴司(自由民主党・無所属の会)
自由民主党の山下貴司です。私は議員になる前、憲法担当の司法試験構成員として、先日の参考人質疑の両参考人をはじめ様々な憲法学者の学説に、敬意を持って触れる機会がありましたが、その経験に照らしても、立法府の一員として、先日の長谷部参考人の参議院の緊急集会に関するご見解を正解とするわけにはいきません。その理由は、長谷部参考人のご見解は、憲法の明文に基づかないものであるばかりか、緊急集会という権限の不十分な機関による国会の片翼飛行を憲法に規定のないまま、期限の定めなく長期化させかねないものであり、さらに後日裁判所が類推適用について違憲判断をすることが排除できないからです。先日ご指摘した通り、従来の通説は任期満了時の緊急集会条項の類推適用については、憲法制定に深く関与した佐藤達夫元法制局長官や長年、司法試験委員を務めた佐藤幸治京大名誉教授をはじめ、消極的でいらっしゃいました。さらに類推適用を認める学者にあっても、緊急事態における緊急集会の存続期間や権限については解釈が混沌としている状態であり、いざとなったときに実務がやるべき通説・判例は存在しません。そして長谷部参考人提出資料707ページで指摘されるように、緊急集会でとられた措置を、裁判所が遡及的に違憲無効と判断することも排除されていません。裁判所が明文に反する任期満了時の緊急集会の開催や手続きを違憲と判断し、緊急集会で成立した法律予算を遡及的に無効と判断した場合、大混乱となります。長谷部参考人は、長期にわたって選挙を先送りしなければならない状況が実際に発生しうるか疑問、とされましたが、これはまさに東日本大震災で、地方自治体の首長や、議会の選挙をあらかじめ最大で7カ月間延長したわが国の経験を踏まえないご見解であり、しかも同様の立法措置では憲法上の国会議員の任期延長ができない事は、閣議決定に基づく質問収支書答弁でも度重ねて述べられた解釈であります。そして緊急集会の権限が限られていることも問題です。
既に指摘されているところに加え、例えば緊急事態で総理が欠けている場合、通説では緊急集会での総理大臣の指名を認めておらず、また総理の臨時代理は閣僚の任免権など総理の一身専属権は行使できません。緊急集会が継続する間は、総理が指名できないばかりか、財務大臣や防衛大臣など枢要閣僚が欠けても新たな閣僚は任命ができないのです。ありえない話ではありません。関東大震災発生当時、加藤友三郎総理は1週間前に死去しており、後任の山本權兵衞総理は、対米効果に基づき震災発生翌日に任命され、組閣し国難を乗り切ったんです。現行憲法上は、衆議院ならぬ参議院の緊急集会では、そのようなことはできません。また緊急事態による国会の機能不全が長期化した場合の規律も不明であります。長谷部説によれば、法は不可能事を要求しないことを根拠に、解散の日から40日という憲法の明文を超える事は許容されるとし、緊急集会の継続期間を憲法上限定しない立場です。
この立場によれば、逆に緊急集会が続く間、国会議員の身分を持たない閣僚から構成される、しかも衆議院の信任にも基づかない内閣が、長期間居座ることが可能となります。そもそも法は不可能時を要求しないとの理屈を用いれば、国会議員の任期の定めを超えることも、憲法は許容するとの解釈すら成り立ってしまいます。このような極めて抽象的な法理論を根拠に、憲法の明文を逸脱できるとするのは立憲主義に反すると考えます。またそもそも定足数に満たない場合、緊急集会すら開くことができません。首都直下型地震により参議院議員の多くが死傷や交通途絶などにより、本会議に出席できない場合です。こうした場合に憲法を制定時の先人が検討したように、緊急政令の必要がないかも議論する必要があります。今私たち立法府に問われているのは、審査会でも繰り返し指摘されている、想定された緊急事態における国会の機能不全にどのように対応するかです。憲法の明文や制定経緯に反し、通説判例とも言えない安易な緊急集会の類推解釈論にすがって、何の手当てもせず、憲法に基づかず、「違憲」との司法判断を招きかねない立法不作為を漫然と続けるのか、それとも憲法の枠内で、緊急事態に対応するため、9割の国家が憲法に規定しているように、立法府の責務として、憲法に緊急事態条項を明記するのか、立憲主義を守る観点からいずれの立場が我々立法府に求められているかは明らかであります。その上で緊急事態条項については当審査会において、各党から相当な意見の蓄積がなされております。そこで会長にはお願いでございますが、緊急事態条項について各党より出された主な意見を、衆議院法制局に取りまとめさせ、国民に見える形でこの論点についての議論を行うことが出来るよう、お取り計らいをいただきたいことをお願いして、私の意見といたします。

階猛(立憲民主党・無所属)
立憲民主党の階猛です。報道等によりますと、与党内で衆議院の早期解散論が浮上しているようです。そもそも4年の任期のまだ半分も経過していないうちに、解散総選挙で民意を問わなくてはならない大義名分はあるのでしょうか。まして今各地で地震が頻発し、北朝鮮のミサイル等の発射に対して破壊措置命令が発せられるなど、いつ何時選挙困難事態が生じるか分かりません。先程来、任期延長のための憲法改正を行うべきだという立場から、蓋然性が低くても可能性がある限りあるべき法制度を作るのが国会の責務だといったご意見が述べられています。また5月11日の当審査会で、自民党の新藤筆頭幹事は、長期にわたって衆議院不在が予想されるような有事が発生した場合においても、二院制国会を機能させるために、憲法の明確な要件に基づき発動される緊急事態時の議員任期延長等の措置を講じておく事は立憲主義の観点からも極めて重要だと述べられていました。もし本気でそう思っているならば、衆議院解散中に選挙困難事態が生じても、二院制国会が機能するための措置を講じてから解散するのが筋です。そうした措置を講じないまま解散中に大規模災害や有事が発生し、長期にわたって選挙困難事態が続くとみられる状況が生じたとしても、参議院の緊急集会で対応すれば良いというお考えでしょうか。新藤筆頭にお答えを求めます。お願いします。

新藤義孝(自由民主党・無所属の会)
この解散後にですね、もしそういった選挙が実施できなくなった事態については、その時点でまず議員が不在になっているわけです。ですからこの審査会の中では、その議員をどう復活させるのか、また権限を与えなくていいのかという議論がございます。その上で二院制の国会として民主的統制を維持するための国会を維持していかないといけないっていうのが、今までやってきた議論で、そこは階さんお聞きになってたと思いますけれども、緊急集会はあくまで選挙が予定されているその間の空白期間を埋めるための、この臨時の措置であって、私たちが今この審査会で皆が議論している緊急事態というのとは違う使い方になっていると、私はそれをこないだの2人の参考人からの話だったわけで、緊急集会で参議院によって、それを国の緊急事態においても参議院の一院制でもって、あらゆるものができるというのはそもそも限界があるということでございます。

階猛(立憲民主党・無所属)
私の質問に対して明確な答弁ができていませんが。現行憲法下では解散中に、選挙困難事態が生じたら、緊急集会で対応せざるを得ない訳です。現時点で衆議院を解散することを容認する方々は、選挙困難事態には緊急集会で対応すれば良いとする、我々のような立場か、そもそも選挙困難事態は起こり得ないという、いわゆるお花畑の立場か、いずれかであると指摘しておきます。さて前回の当審査会で玉木委員は、解散から40日以内に総選挙実施、総選挙後30日以内に特別国会を召集すべしと言う、憲法の定めいわゆる70日ルールに反する運用を、緊急事態下で容認する事は、立憲主義に反すると述べられ、この見解について我が会派に意見を求められました。私から回答いたします。
確かに立憲主義の見地からは、憲法に書いてある事は緊急事態であっても守ることが大原則です。しかしそもそも立憲主義は憲法によって国家権力を縛り、恣意的な権力行使を防ぐことに本質があります。したがって憲法のルールを形式的に守ることを理由にあげ、恣意的な権力行使の余地が広がるように憲法を解釈し、国家権力にとって都合の良い憲法改正を主張することは、立憲主義に名を借りた立憲主義の破壊であると言わざるを得ません。その意味で18日の当審査会における長谷部参考人の政権の居座りを阻止するための70日ルールを逆手にとって、従前の衆議院議員の任期を延長し、従前の政権の居座りを認めるのは本末転倒との議論との発言は、立憲主義の本質を踏まえたものであって、まさに正論です。本日の中川筆頭の発言からも明らかな通り、我々は70日ルールを守れなくなるような選挙困難事態への対応につき、議論することはやぶさかではありません。小野先生、北神先生の言うような、選挙困難事態を時の政権が恣意的に決めることを防ぐ必要があると考えております。しかし、解散から総選挙を経て次の国会召集までの期間を縛る70日ルールがあるからといって、論理必然的に緊急集会の活動期間を最大70日に縛る解釈が成り立つわけでもありません。こうした不確かな解釈を根拠として、議員任期延長のための憲法改正を行う事は、立憲主義の見地からは、到底許されません。なぜなら、時の権力者が安易かつ長期に任期を延長して、政権を延命させ、選挙による民意の審判を仰がぬまま、フルスペックの権力を行使しつづける、独裁政治につながるからです。そもそも緊急集会の活動期間については、憲法に明文の定めはありません。選挙困難事態をできるだけ防ぎ、また早期に解消するための手立てを講じつつ、70日という上限を設けず、緊急集会の活動を認めるとともに、その権限の範囲は必要最小限かつ暫定的なものにとどめるという方向性が、より立憲主義に則した議論だと確信しています。以上です。

玉木雄一郎(国民民主党・無所属クラブ)
私からも、今、階先生からあったのでお答えしたいと思うのですが、70日を超えて緊急集会を使うことがですね、そっちの方が権力乱用になるんじゃないのかと言うことを申し上げてるんです。つまりどういうことかと言うと、任期を延長して衆議院の多数の権力、国会の一翼の権力を延ばすことと、これを想像してみてください、緊急集会をやるときは事実上その時の内閣がすべてを決めます。基本的には。かつその内閣を構成する多くの元衆議院議員は明確な法的根拠を持ってない人が内閣を構成してます。その人たちに一体いつまで権力行使を認めるかという事について、あるいはその権力行使を解除するということについてのルールが、明文上、憲法には全く書かれてないので、かえって行政の、しかも極めて正当性を欠いた内閣、行政の権力乱用を許してしまうので、おっしゃる通り議員任期の延長をすると、議員たちの権限が拡大するんですが、それは立法府の権限なので、それはそれで一定の問題があるというから、司法の判断を入れようということを、われわれは併せて提案しているんですが、今の特にモーリス・オーリウ流の緊急事態の法理で、書いてないことを伸ばして、いくらでもなんとでもできると、終わりの期限も、「神の論理だ」とか、「道徳だ」というところに最後根拠を求めるわけですよ。それの方がよっぽど権力の乱用になるんじゃないかということで、だったらちゃんと議論して平時のうちから緊急時における特例的なことをきちんと国民投票を経る形で、国民の合意を経た形で、きちんと明文化しておく方が権力の乱用を防げるんじゃないのかということを提案しているので、その何か、そのことをひん曲げて言っているということよりもですね、本気で心配してるんです。もう一つはですね、やっぱり学者と我々が違うのは、選挙ができないような事態が起こる蓋然性が低いからいいのか、ちっちゃくてもちゃんとやるのか、っていうことを、これは我々が決めるしかないと思うんですよ。階委員はまさに被災地で経験されたと思うので、私はですね、例えば郵便投票をやったらいいと思います。ただ郵便局員も動けないと思います。その中でもですね、職務を一生懸命果たそうと、あの当時頑張った、家族を顧みず頑張った人たちも、役場の職員も県庁の職員も、郵便局の局員もいっぱいいたと思います。でも彼らも同じく被災者であって、家族も被災してる中でとてもまともな選挙ができる状況じゃなかったので、当時与党だった我々は、特例法を作って、地方議員の任期の延長の法律を通したんじゃないですか。もちろん今言ったような郵便投票やいろんなことをやったほうがいいと思います。でもできないこともあり得る。その時のルールを事前に、平時にきちんと議論して決めておくことが立憲主義に合致するんじゃないのかということを提案しているので、何も権力の暴走を許すために提案しているわけではありませんので。それはぜひご理解いただきたいと思います。


北側一雄(公明党)
簡潔に意見を述べます。まずですね、この緊急事態における国会議員の任期の延長の問題は、昨年来、当審査会で相当何度も議論を積み重ねて参りました。5会派の間でも、ほぼ私は考え方が共通していると思います。また立憲の皆さん、共産党の皆さんのご意見もございます。争点といいますか違いといいますか、そこは明確になってきていると思いますので、一度この段階でぜひこの国会議員の任期延長問題についての整理をぜひすべきであると。できましたらせっかくここまでやってきたんですので、この国会中にぜひ整理をしてもらえればというふうに思います。その上で一点だけ申し上げたいと思うんですが、今日ですね、選挙困難事態、これは多分立憲の皆さんも、それはあるかもしれないと、こういうご認識だと思うんです。選挙困難事態を早く解消しなければいけないんだと、そして早く総選挙をしないといけないんだと。これはおっしゃってる通りございまして、それは当然のこととして、我々は、多分5会派の間でも共通して、早くこの選挙困難事態を解消し、また早く総選挙なり通常選挙なりをやろうという事はその認識は全く変わりは無い。だけどやはり70日を超えてですね、選挙困難事態はあり得るね、と言う認識なんです。
これはもう我々経験してるわけです。東日本大震災。階さんはまさしく地元の方でございまして、あの時をもう一度思い起こすべきだと思うんです。あの時はまずはですね、被災者の方々の救援救護、最優先です。被災自治体の職員の皆さんも被災者です。全国から、国、地方、民間のボランティアの皆さんが被災地に集まって、まずはこの救護救援、全力を挙げて取り組みをわれわれはしました。そして生活インフラ、経済インフラ、もう全て破壊されてしまっている。そういう中で復旧活動に全力を挙げて取り組みました。これも被災自治体だけではありません。全国の自治体から国から民間ボランティア、ほんとに頑張っていただいて、あの復旧活動をしたわけでございます。そういう中で本当に70日以内で、いろんなもちろん工夫ができてできればいいですよ。選挙が実際、あの時に本当にできたのかと。国政選挙が。国政選挙が一体性を持つ形で本当にできたのかという事はもう一度思い起こすべきです。選挙事務というのはそんな簡単なことじゃありません。投票所があればいいってことじゃありません。大変な選挙事務、事務量も多い、コストもかかる、多くの人たちがその選挙事務に携わるわけです。投票の時、開票の時、どれだけの人数の方がやってるか。私が申し上げているのは、選挙困難事態というのはやっぱり70日を超えてあり得るでしょう。我々、東日本大震災の時にそのことを経験してるでしょ。それを早く解消すべきは当然の話だけども、そうであったとしても実際、相当期間、長期間選挙ができない。現実に地方議員の選挙、首長の選挙はできなかったわけですよ。国政選挙ができるわけがありません。そういうことを考えたときに、きちんと国会の二院制、同時活動の原則そういうものが確保されるような形にしていくためにはどうすればいいのかということで、この任期延長の問題があるわけでございまして、そこをぜひ認識をしていただきたいというふうに私は思っております。

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