ITPの新薬と鉄欠乏の関連

鉄欠乏性貧血は、日本人の貧血の原因として最多です。

単に鉄欠乏といっても、過度な運動による鉄の消費、鉄分摂取不足、過多月経、といったものから、偏食、消化管出血(大腸がん、胃がんなど)など、いろいろな原因があり、有名どころだと、山本佳奈先生が「貧血大国・日本」という本を書いています。

確か彼女も私とおなじ血液内科の先生だったと思いますが、血液内科をやっていると意外と鉄欠乏性貧血に出会うことは少ないです。ほとんど一般内科のほうで対応されているからでしょうね。

知識を深めるうえで知っておくべきは、鉄欠乏性貧血が先天的に起こりえること(TMPRSS6、SLC11A2遺伝子などの遺伝子変異)、薬剤性に起こりえること。プロトンポンプ阻害薬などの胃薬で鉄吸収が阻害されることは内科医だったら常識なので、

①ESA(エリスロポエチン製剤)
腎不全患者さんのESA不応で鉄欠乏が原因の人は一定数いて、実際にフェリチンが50くらいでも鉄をいれてあげると反応性が戻る人がいます(し、この間いらっしゃいました)。フェリチンが高めでも相対的に鉄欠乏になる理由として、ヘプシジンが腎排泄なので腎機能低下によりヘプシジンの濃度が相対的にあがり、鉄利用が障害される、というメカニズムが背景にあるようです。腎性貧血というとエリスロポエチンの産生不全だけのように思えますが、この、二次性貧血のようなメカニズムが背景にあることを知って診療にあたるとよいかと思います。そういう意味では、フェリチンだけでなくちゃんとTSATも見ないといけませんね。
海外の文献(Blood. 2020;136(7):783-789)だと、フェリチン100~300でもTSATの値によっては鉄の点滴を試してOKとなっています。ここまでいくと過激だなと思いますが・・・。最近出てきたHIF-PH阻害薬で同じことをやっていいのか、おそらく大丈夫だと思いますが、気になるところです。

②トロンボポエチン受容体作動薬(レボレード)
正直なところ①については腎臓内科の先生の方が詳しいので、我々が知っておくべき意外な薬剤は間違いなくこれです。
これらの薬には、鉄キレート作用があります。再生不良性貧血であればこれはメリットにもなりえますが、AAでEPAG導入前のフェリチンが1000以下の場合、5年以内に鉄欠乏(フェリチン<100)を発症する確率は64%であり、それ以上の14.5%と比べて有意に高かった(Am J Hematol. 2022;97:791–801.)という報告、小児のITPでEPAG開始後27.6%で鉄欠乏あるいは鉄欠乏性貧血が起きたという報告(Turk J Haematol. 2020 Sep; 37(3): 139–144.)があります。
ロミプレートだとこのようなキレート作用はレボレードほど言われてはいませんが、全く無いのかと言われるとわかりません。

おそらく女性のITPでEPAGが必要な場合には鉄欠乏のリスクが上昇しそうですが、それをちゃんと示せたら論文になりそうですね。



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