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写真の読みかた part.2

前回のノート「写真を読む part.1」では、写真が具体的かつ曖昧なメディアであるがゆえに、付随する文字情報によって見方が変わってしまうことを紹介しました。では、文字がいっさいない場合、写真だけを見て撮影者の意図を理解することはできるのでしょうか。パート2でも、まずは撮影者の視点から写真の構造を読み解いていきます。


写真には自分が映る


ときどき「写真診断」なるものを披露することがあります。初対面のAという男が撮った写真を見て、Aがどういう人物であるかを当てるゲームです。たとえば「Aはおおざっぱな性格で、飽きっぽいでしょ?」と言ってみせます。これがよく当たるらしいのですが、けっして適当なことを言っているわけではありません。被写体の選び方や、構図、前後のカットとの関係からAの興味や行動を推測できるのです。

日本文化学者の川村邦光がこう述べています。

写真はある人物の姿や光景を特定の視線によって、一定の枠のなかに切り取る。カメラアングルやフレーミングがそれである。そこには、なにげなく撮ったものであれ、撮影者の意思や意図が込められているということができる。カメラレンズを通して、意識的にであれ無意識的にであれ、撮影者の眼差しが投影され表象されている。
―写真で読むニッポンの光景100(青弓社)13ページより

写真を撮るのは、絵を描くのと同じことです。落書きをするとき、はじめから完成像があたまの中にある人もいれば、手の動くままにダラダラと描く人もいるでしょう。けれども、たとえ無意識に描いていたとしても、やはり自分らしい対象や線が表れます。おなじく、なんとなく写真を撮っているつもりでも、じつは自分が映っているのです。


ピントが合ったところ=伝えたいところ

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写真を撮るとき、まずは撮りたいものを見つけ、ピントを合わせます。どこにピントを合わせるかというと、いちばん撮りたいもの、強調したいものです。ひまわりの写真を2枚用意しました。ひとつは空に、もうひとつはひまわりにピントを合わせてあります。同じ構図でも、ずいぶんと印象が変わりませんか。

空にピントを合わせたほうは、夏の空が主役です。ただし、空だけを撮ってしまうと季節が感じられないので、脇役としてひまわりを配置。ひまわりにもピントが合っていると主役の座を奪われてしまうのでボケさせてあるわけです。

いっぽう、ひまわりにピントを合わると、空は脇役になります。空とひまわりの両方にピントを合わせると、雲の主張が激しくなって、ひまわりの生命力を表現できなくなってしまいます。

つまり、どこにピントが合っているのかを見ることで、撮影者がなにを伝えたいのかを知る手がかりを得ることができます。


構図は取捨選択の結果

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つづいて、おなじ場所からおなじ方向を撮影した2枚の写真をみてみましょう。この場にいる人は、このどちらの景色も見ているはずです。ですが、切り取りかたによって受け取る情報に大きな差がありませんか。写真を撮るというのは、選択の連続です。見えている景色すべてを写すのか、あるいは一部分だけを切り取るのかを選ぶことで、伝えたいものを明確にすることができます。

たとえばズームして田んぼの一部だけを切り取れば、それは農村の穏やかな日常風景として映るでしょう。いっぽう、すこし引いて撮影してみると、遠くに開発された街が見え、古い建物ののこる地域の存在が脅かされていることがわかります。

こうした構図のちがいは、撮影者の視点のちがいです。これが絵ならさらに分かりやすくなります。たとえば風景画を描くとして、見たものすべてを描きますか。ほとんどの場合、写実画であったとしても風景の中からある程度要素を選んで描くはずです。たとえば目の前にあるチューリップ畑の絵を描いていたとして、枯れている花やゴミまで一緒に描きますか。可愛らしい世界観を描きたいのに、枯れている花が画面に入ってしまうと世界観が台無しです。けれども、チューリップにも死があることを伝えたいのなら、枯れている花を画面に入れて、死の訪れを暗示することもできます。


写真の読みかた

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とはいえ、撮影するときにだれもがロジカルに考えて、慎重に構図を決めているわけではありません。これは小学生の再従兄弟にカメラをもたせて撮ってもらった写真で、見事にぼくの顔が切れています。けれども撮影した本人にとってこれは失敗写真ではありません。これを撮ったとき、撮影者の興味が赤ちゃんのグズった表情にあったことがよくわかります。撮りたいものがしっかり写っており、それが見た人にも伝わるので、これは大成功です。

では、これはどのようなシチュエーションで撮られた写真でしょうか。なぜ赤ちゃんは泣き顔なのでしょうか。これを文字で補うこともできますが、写真から読み解いてみましょう。まず、ピントは合っていませんが、奥に女性の姿が見えます。真珠のネックレスをして、仕立ての良い服を着ているので、外出先での一枚かもしれません。腰が曲がっているので、おばあちゃんでしょうか。女性は赤ちゃんのほうを向いてはいないので、さほどの重大事ではないでしょう。赤ちゃんはどこかべつのところを見ています。その先にお母さんがいるのでしょうか。そうか、お母さんのところに戻りたくて泣いているのかもしれない。といった推測をすることができます。

写真は瞬間のみを切り取るメディアで、その前後のコンテクストはわかりません。しかし、その瞬間がどのような流れのなかにあるのかを理解できれば、いっそう深みを増します。撮影者はそのためのヒントを枠のなかに残しているはずです。ピントや構図、明るさは大きな手がかり。これらをひとつひとつ読んでいくと、撮影者がそのときなにを考えていたのかを理解できるでしょう。

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