安穏 無風
セピア調の白亜紀の朝に
差し込む縹色の木洩れ日
僕の余白を塗りつぶすみたい
フラジールなあなたの微笑み
丁寧な暮らしの肌触り
かかえて歩いた花束に
慈愛と水を注いでよ
強く根を張るまで
待って なんて
あなたのことを知れたなら
望まないさ でもね
長生きはしなくていいから
余生の暇つぶしに付き合わせて
さすらう あなたと 安穏 無風
乾いた心に塗り重ねて
憂も好きもメディウムにしよう
約束だから 額縁は選んでね
金木犀 バスソルトの香り
黎明にあなたはもういない
レースカーテンかかる曇り空
腫れた瞼と香水は隠して
曖昧なふたりの蟠り
比翼の連理も叶わない
毛繕いが苦手な僕を
見透かした奥で
笑って 泣いて
融解していく昊天が
煩わしいな せめて
長生きはしなくていいから
暖かいスープを飲んで眠って
たゆたう あなたの 安穏 無風
湿気った日々から剥がれ落ちる
旱までに袖が乾いたらいいな
約束だから 手紙は書いてね
撫子色の兎追いかけ
暗晦な夢に落ちていく
優しさに纏わりつかれた
僕の科白が君を刺す
“あなたの遍在を祈るのも
傲慢だとにれかんでいるから”
長生きはしなくていいから
余生の暇つぶしに付き合わせて
さすらう あなたの 安穏 無風
映画終わりは近くの書店で
原作を買うのが不文律な僕ら
長生きはきっとできないね
代わりにちょっと高いスイーツを買おう
たゆたう ぼくらの 安穏 無風
ぎゅっと詰め込んでは 掠れていく
季春から杪夏の逢瀬を
今日は抱いて 眠ろうか
安穏 無風
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