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よくある質問 どうして犬猫殺処分をゼロにできないの?

罪のない犬や猫の尊い命が人間の手によって奪われている。しかも『ガス室』で苦しんで死んでいく。そんな事はすぐにやめるべきだ!と思う気持ちは当然のものだと思います。日本国民が動物に対してそういう優しい気持ちを持つこと自体が、動物愛護管理法の目的である(理念法)とも言われくらいです。そういう意味では、今年制定から50年を迎える動物愛護管理法(制定時は動物保護管理法)は一定の役割を果たしているとも思えます。

さて、殺処分と一口にいいますが、よく見てみると環境省が毎年発表する『動物愛護管理行政事務提要』では犬猫殺処分は下記のように3つに分類されています。

1)譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
2)愛玩動物、伴侶動物として家庭で飼養できる動物の殺処分
3)引取り後の死亡

例えば交通事故にあった犬や猫は動物愛護センターに収容されますが、瀕死の状態であることも少なくないでしょう。センターで息を引き取れば、引き取り後の死亡一頭にカウントされます。そこで人間のERの様な医療行為を行える設備は公共の施設であるセンターにはありません。近年では応急処置をしてくださる獣医師さんがいる所もありますが、それも限られています。
また収容した犬猫が致命傷を負っている場合もあります。苦しむ時間が長くなるだけの生存であれば、アニマルウェルフェアの観点から安楽死処置という選択肢も否定すべきでは無いでしょう。

つまり、3の『引き取り後の死亡』については、これをゼロにすることはかなり難しく、1の『譲渡する事が適切ではない』と行政獣医師が判断した犬猫についてはアニマルウェルフェアの観点と、一般家庭で飼育するのは困難であろうという点からも、完全に否定出来ないと考えます。

次に気になるのは、おそらく苦しみながら死んでいく…という、『ガス室』の中で亡くなるという殺処分方法への疑問でしょう。
これについては、環境省も『動物の殺処分方法に関する指針』を出しており、『動物に苦痛を与えない方法によるよう努める』と定めています。同じ文章の中で『動物の殺処分方法は、化学的又は物理的方法により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によること。』とも書かれています。

多くの自治体が採用しているのは、
1)炭酸ガス
2)麻酔薬(注射)
3)経口投与麻酔薬
のいずれかです。

1の炭酸ガスによる殺処分への批判として、苦しみながら亡くなっていくと言われます。何名もの獣医師さんに取材しましたが、本当に苦しんでいるのか、人の目からそう見えただけで、適切な炭酸ガスの濃度であればまず意識を失うので、その後亡くなる際に苦しんでいるのかどうかは分からない(動物に聞いてみる事はできない)というお話でした。
海外では、そんな野蛮な方法で殺処分しないという様な『日本は動物福祉後進国』説を唱える方から聞くこともありますが、アメリカの獣医師会が安楽死のガイドラインを出しており、その中で炭酸ガスによる方法も書かれています。ちなみに日本獣医師会からは同様の発表はありません。

一般家庭のペット犬猫を、動物病院で安楽死させる際は、2の麻酔薬の注射が採用されているので、センターでも同様にして欲しいと思う方もいらっしゃるでしょう。人に慣れ、人に触られる事を嫌がらない動物に対してはそれが最も良いのだろうと個人的には考えますが、センターに収容される犬猫全てがそうとは思えません。
私も数十ヶ所のセンターを取材してきましたが、人の気配に怯え、必死に『こっちに来ないで!』と鳴く犬猫を見て来ました。あの犬猫に注射をする事は非常に多くのストレスを与えるでしょう。また動物を保定する(抱き抱えるなどし動かない様にする)職員さんが噛まれたり、怪我をするリスクを考えると、全ての収容された犬猫に注射で殺処分をとは言えないかなと考えます。

ちなみに3の経口薬は、動物向けの医薬品として認可されていないため『毒だんご』などと言われ、批判されているケースもある様です。

ここまで考えてくると、殺処分される犬猫の頭数を実際にゼロにすること、ガス室を使わないことが果たしてアニマルウェルフェアと人の幸福(ウェルビーイング)の観点から正しいのかわからなくなってしまいます。もちろん犬猫ファーストでの行政を行うのであれば、すべて可能になるかも知れませんが、それは福祉や教育などの行政サービスを削減することに繋がります。皆さんは本当にそれに同意出来ますでしょうか?

ちなみに、自治体によって殺処分方法が異なるのは、地方分権の流れの中にある『自治事務』に動物愛護管理行政も含まれるので、どういう予算配分をするのか、収容した犬猫をどの様に扱うのかは、都道府県、政令市・中核市単位で異なります。それぞれの首長や地方議員の考えが行政に直結します。大元になる動物愛護管理法を改正するのは国会議員の仕事ですが、詳細は自治体に委ねられていることから、それぞれの選挙でどういう首長、議員を選ぶのかが、収容された犬猫の殺処分の判断、方法に関わることを是非覚えておいてください。


※写真はとある動物愛護センターを訪問した際の一枚。こんなに人懐っこい保護猫もいます。犬や猫と暮らしたいとお考えの方は、まずはお住まいの自治体の動物愛護センターのホームページをご覧になってください。

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