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ビットコイン・マイニングの「三体問題」(2)

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 前回までのおさらい。マイニング市場に影響がある3つの力とは:
1) ビットコイン半減期のタイミング
2)気候サイクル
3)ハードウェアのリリースサイクル
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1)ビットコイン半減期のタイミング(新規BTCの排出スケジュール)

ビットコインは計算力であるハッシュパワーの集合によって成り立っている。マイナー達にハードウェアへの投資を促し、電気を消費することのインセンティブを与え続け、システムの信頼性を高めない限りは存続できない業界なのである。BTCのトランザクション手数料市場がまだ大きくない今は、ブロックチェーンのマイニングによる報酬がマイナー達の唯一の収入源となる。年数を経てBTCの市場価格の上昇することにより、報酬の額は増え続け、マイニング事業は年間数千億円規模の業界となった。

他のコモディティと違い、ビットコインはその数学的プロトコルに厳密に定義されたスケジュールで半減期を迎える仕組みである。一日あたりの新規に「採掘」されるビットコインの数は決まっており、それがマイナー達を含むビットコイン経済圏に分配される(注:現在は900BTC/日が採掘量であり、2021年2月現在レートの1BTC=約500万円だと一日に約45億円のビットコインが放出される計算)。マイナーのみが新規にBTCを入手することができ、また彼らは継続的に市場で売却するため、マイナー自身の利益率がBTC供給の力学に最も重要な要素である。

半減期によって報酬が半分になると、その直後はマイナーの生産(採掘)コストは倍になる。そうすると古い世代の機材は効率が悪くなり(同じ電気代を使っても売上が半分になる)、この時期はマイナー事業の統合が起こる事が多い。コストの低いエネルギー源(=安い電気代)を持っているマイナーは、中古市場に放出された古い機材を安く買い集める事などが可能になる。(*古い機材でも電気代が極端に安ければ利益を出す事が可能になるため)

価格設定の複雑さと商品の輸送の難しさから、マイニング機材の中古市場(セカンダリー市場)は不透明で流動性が低く、情報を持つインサイダーへの依存度が高い。しかしこの不透明さが時には市場内の価格の歪みを産み、賢く立ち回るプレーヤーに大きな機会をもたらすのである。例をあげると、2018年のBTC価格暴落の際に(1BTC=30万円台)、システムのハッシュレートが下がった(=マイナー達がマイニング行為を停止した)。しかし同時に放出されたAntminer S9のような機材の中古価格が下がり、ここぞとばかりに大量に入手したマイナーもいたのだ。そして数ヶ月後にBTC価格がまた高騰した際に、このマイナー達はすでに安く入手したマシンでマイニングからの利益を得ただけでなく、機材自体の値段も入手時の3倍に上がっていた。これはある特定時期に利益が出せないスペックの機材であっても、金融取引でいうコール・オプション的価値を内包していることを示す。(*つまりマシンを今買うことによって、たとえそれが古い機材であって将来BTCの価格が上がったときにすぐにマイニングが可能になる「権利」も同時に買っているのだ)。

一概に「特定の機材が中古市場に売りに出るBTC価格」をはっきりと定義するのは難しいし、そういう情報はナイーブな前提条件に基づいている。いつどういう価格とタイミングで機材を買ったのか、リスク耐性、コスト構造ははすべてのマイナーで違うからだ。しかしそれに関する一部データもあるので例を示そう(*ここは省きますので興味ある方は元のブログをご参照ください)

これらの分析で一つ分かるのは、ハッシュパワーの単位はすべて同等ではないということだ。 同等のTH/s値であってもそれを得るためにかかったコストは全て違うのである。

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*TH/sというのはマイニングの計算値を表す単位で、Terahash per second. 一秒間あたり一兆回のハッシュ値計算を行うことである。CPUやGPUでのマイニングを行っていた時代はメガ・ギガの単位だったが、専用チップであるASICの進化により必要となるハッシュパワーは上がる一方のため、テラという単位を使う事が普通になってきた。ちなみに、他の暗号通貨(Ethereumなど)ではASICを使いにくい、より複雑なハッシング・アルゴリズムを根底に使っているため計算量が上昇せず、MH/s GH/sの単位で表記されることが多い。
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(3に続く






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