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エアコン(2)~蒸発潜熱・ヒートポンプに使われる冷媒~

割引あり

前回より

前回、ヒートポンプ技術の概要について説明しました。圧縮~放熱~膨張~吸熱のサイクルを繰り返すことによって、温度が低いところから温度が高いところに熱を流すことができることを説明しました。

今回、もう少し、ヒートポンプ技術の細かい部分について見ていきたいと思います。

吸熱と放熱

次図は前回説明した圧縮、放熱、膨張、吸熱のサイクルです。今回、この、放熱と吸熱の部分について見てみます。

熱を低温から高温に流すしくみ

まず、放熱です。図の右上の部分を見てください。図では、シリンダー内部の温度は70℃となっています。シリンダーの周りの温度は35℃ですから、シリンダー内部の温度の方が高いです。熱は温度が高い方から低い方に流れます。シリンダー内部の気体(分子)は絶えず運動しており、この(運動)エネルギーが失われ、運動の激しさが小さくなっていくと温度が低下します。というよりは、この運動の激しさを表す指標が温度そのものなので、「運動の激しさ(エネルギー)=温度」です(※1)。つまり、熱が奪われると温度が下がり、熱が与えられると温度が上がります(※2)。

放熱と吸熱

時間が経つと温度と放熱・吸熱量がどう変わっていくのかをグラフ化しました。

シリンダー内部から周りに熱が流れるとシリンダー内部の温度が低下します。最終的にはシリンダー周りと同じ温度(図では35℃)となり、熱の流れは止まります。熱の流れる量は温度差に比例しますから、最初はがば~っと熱が流れるため温度低下が激しく、最後の方はあまり温度差がついていないので、温度低下もゆっくりになります。従って、低下していく温度を図のようにグラフで書くと、「まわり」の温度に漸近していくような曲線になります。

吸熱側も大体同じです。

放熱側・吸熱側どちらも放熱・吸熱し切ったら熱の移動が止まります。放熱・吸熱するとどの程度温度が変化するのかは、比熱で表されます。一般的に比熱は単位質量(1kg)の物質を1℃上げるのに必要な熱量で表され、単位は kJ / (kg K) です。比熱が大きいか小さいかは気体の種類によります。同じ放熱・吸熱量でも、比熱が大きいと温度変化は小さい。逆に言い換えると、1℃温度が上昇・下降した時の放熱・吸熱量が大きいと言えます。

さて、熱を移動させるために、先ほどの説明ではシリンダー自身を移動させるモデルで説明しました。ここで、シリンダーを移動させる時に1回の移動でなるべく多くの熱を移動させた方が効率が良くなります。シリンダーを移動させるのにもそこそこの労力が必要だからです。(実際には、次回以降で説明するように冷媒自体が移動するのですが、今のところ、シリンダーが移動するモデルで説明します。)

なるべく多くの熱を移動させようとすると比熱が大きい物質を選ぶことが重要になりますが、いくら比熱が大きい気体を選んでも気体が持てる熱量には限度があるので、あまり効率的ではありません。そこで、蒸発潜熱を使って熱を運ぶことを考えます。

蒸発潜熱

蒸発潜熱とは水の場合、水を水蒸気にする時に必要となる気化熱、あるいは水蒸気を水にした時の凝縮熱です。ここで、水(0℃)をコンロか何かで加熱していくことを想定してください。

蒸発潜熱(水から水蒸気へ加熱する)

加熱すると徐々に水の温度は上昇します。そして100℃を下回る温度あたりから徐々に水が水蒸気に変わっていきます。これを「沸騰する」とも言います。ポットに入れた水の場合、沸騰してできた水蒸気は空気中に逃げていきますので、ポットの中の水は減っていきますが、この水蒸気を捕まえることができれば、水が水蒸気に全て変わるまでは100℃を維持し、その後、捕まえた水蒸気の温度は再び上昇します。

熱を加えれば温度は上昇しますが、水が水蒸気に全て変わるまでの間は100℃を維持します。そして水が水蒸気に変わり切ると、再び温度が上昇していきます。では、100℃で温度が変わらない瞬間、何が起きているのでしょうか。

液体と気体の相変化

水(液体)の場合、水分子同士が分子間力によって互いに拘束しながら動き回っています。一方で、水蒸気(気体)は、この拘束する力が無く、自由に水分子が動き回っています。気体や液体が持つエネルギーには、分子の動く激しさを表す運動エネルギーの他にも、分子間力による位置エネルギーがあります。(その他、化学結合によるエネルギーもあります。)

分子の動く激しさを表す運動エネルギーは、温度で表されます。従って、熱を加え続けると、どんどん運動エネルギーが増えて、温度が上昇します。しかし、100℃近辺になると、水が水蒸気になります。その際、水分子同士を拘束している分子間力を断ち切るのにエネルギーが使用されます。ここで運動エネルギーを増やすのに使われていたエネルギーが、一旦、分子間力を断ち切る(位置エネルギーの低い状態から高い状態に持っていく)のに使われます。従って、水から水蒸気に変化する際には温度が上昇しません。

水から水蒸気への変化

水から水蒸気に変化する際に加えないといけない熱を気化熱と言います。一方で、水蒸気から水になる場合は逆に熱が放出されます。これを凝縮熱と言います。そして、この吸収される熱や放熱される熱を蒸発潜熱と言います。

水が水蒸気になる際に熱を吸収するのは良く知られた現象です。例えば夏の暑い日に「打ち水」をすると、打ち水をされた道路は一時的に温度が下がります。一方、水蒸気を吸着すると発熱することを利用した「発熱インナー」なども有名です。

なお、余談ですが、固体から液体になる時も同じように、運動エネルギー以外のエネルギーを使い、固体から液体になる時は融解熱、液体から固体になる時は凝固熱と言います。

氷(固体)~水(液体)~水蒸気(気体)の相変化

固体から液体、気体と熱を加えていった場合と温度との関係を示すと、このような図のようになり、固体から液体に変わる温度を融点、液体から気体に変わる温度を沸点と呼びます。融点と沸点は、その物質にかかる圧力にも依存しますが、標準気圧(1気圧)の場合、水の融点と沸点は概ね0℃と100℃です。

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