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原口剛さん(神戸大学大学院准教授)インタビュー後編・2


           ホームレスの日欧の意識の違い

――でもそうなるとポスト・フォーディズム時代がヨーロッパでは歴然と1970年代の真ん中でスパーンと来たので、その先を生きていくためにスクウォッターみたいな人たちが出てきたと思うんですけど。その頃日本はバブルに向っていましたから、おそらく15年くらいのスパンであとへ生活危機が延びてるわけですよね。ですからヨーロッパの場合、意識して生存のために空き家に住む、みたいな。それはもうやはり公権力との闘いとして(笑)。彼の地の場合はあったと思うんですけど。


原口:あとなぜか日本の場合、日本でも実はスクウォット運動がないわけじゃなくて、それこそ僕らが野宿のテント村のことを海外に紹介するときに何と紹介したらいいか試行錯誤したことがあるんですけど、一番よく使ったのが「これはスクウォットだ」というと、一番良く伝わったんですよ。


――なるほどね。


原口:そこでハタと思ったんですけど、ヨーロッパの場合にはまず公園で野宿というのはあまり考えられないんです。だいたい空き家で、空き家を占拠してそれがホームレスという形がほとんどです。


――じゃあヨーロッパでは屋根付きの部屋に住んでいてもホームレス?


原口:はい。もちろんホームレスです。これは日本の場合にはほとんど空き家を占拠するということは試みられてないし、やったらほとんど警官にしょっ引かれるのは間違いないですね。そういった法的な状況の違いから、公園を占拠してるんだと。形態が違うだけであって、間違いなくこれはスクウォットだし、意識的にはそうだと思ってやっていないけれども、事実上スクウォット運動としては目の前にあると言えるとおもうんですね。ただ公園の野宿ってしんどいですから、部屋つきのほうがいいんですけど。でもバックグラントとしてあるのは何故か日本の空き家は寝ている。つまり在庫で寝ている。空いているにもかかわらず、商品の管理が異様にキツイ。これをどう突破できるか?ということだと思うんです。これだけ空き家が増えるとそんなに管理の目も届かなくなると思うんですよね。


――高齢者の人が空き屋状況を作るというか。施設とかに入居するとそのまま廃屋状態になる可能性は札幌市内でも既に起きている現象なんです。郊外団地なんかも特にそうなんですけど。所有権を持っている人がそれこそ認知症になっちゃったり、意思判断ができなくなる状況があって。そろそろ出てきているのは郊外団地とかでは若者たちが何らかの形で団地の住民活動を手伝ってもらえるならば安く住まわせてあげる。まずは学生から、みたいな形で住まわせてあげるような形で少しずつ出てはきているみたいですね。それ以上にもう遙かに空き家状況はあると思いますけど。


原口:そういった空き家を獲得していく。たぶんそれがけっこう面白いと思うし。


――面白いで連想したのは、自分の町内会はもう老人ばかりなんですね。住宅街なので。で、ひとつの班に10世帯くらいいたと思うんですけど、町内会で班長という形で、一軒一軒が持ち回りで班長を順番に引き受けるんですけど、いつもは会わない人が町内会費を集めに来たんです。でその時唐突に、来年にもう隣の家の人が班長をやりますといわれて。ええ?どうしてです?と。ぼくの家が班長をやったのは一昨年くらいなので。その間に6~7世帯くらいあるんですけど、みんな高齢で町内会活動が出来ないと。


原口:ああ~。


――なかにはもう施設に入る人もいますと。家は残っているけれども、もうそこに住んでいませんとか。


原口:ええ~?


――そういう話を唐突に聞いて、「そうなんですか?」ってびっくりしちゃって。高齢化が進んで若い人がいないのは知ってたんですけど、もうそういう状態になっているんですね。僕が住んでいる辺りはかなり地価が上がっていると思うんですね。近場にショッピングモールがありますし、今後札幌駅と東側が繋がっていきますから。隣の駅はかなり西側にもってきました。でも自分が住んでいるところはエアポケットみたいな閑散とした地域なんですよ。でもそこに一軒家を建てた人たちはウチもそうなんですが、すごく高齢化が進んでます。で、子どもたちは一緒に住んでないんですよ。独立して離れてしまっている。僕らくらいから、すごく自立化傾向を促されてきたので、そうすると家はだんだん中心部へと近くなりもう中央区といってもおかしくないような状況になっているけれども、空き家状況が生まれている(笑)。


原口:なるほど、空き家状況(笑)。


――(笑)それが始まってきていて。10年先を考えると。僕も計画的には75になったら家を売ってそれを元手に安いサービス付き高齢者住宅に移ろうとか考えている人なので。あと20年くらい住んだらもう親もいなくなるから。土地も売ろうと思ってるんですけどね(苦笑)。だから何というのかなあ。空き家現象は中心部にも広がってきている気がしますね。


               RENTの運動


原口:もうそこまで行ったら。これだけの失業時代、これだけ賃金が低い時代には家賃が一番の負担のひとつでしょう?


――そうですねえ。家賃さえ安ければどれだけ多くの人が救われることか。


原口:特に若者にとっては。もしも家賃払わないで暮らしていけるんだったら、たぶん相当楽になると思うんです。


――たぶんアルバイトくらいで暮らしていけると思いますよね。


原口:ですからニューヨークのスローガンでは、「RENT(家賃)」というのはすごく賃金と同じくらいの重大問題としてあります。


――RENTは、家賃という意味ですか?


原口:家賃、地代。で、たとえば「Rent is Theft」というスローガンがあります。「地代・家賃は盗みだ」ということ。これはレント・ストライキを肯定するための言葉なんですけれども、つまり「家賃不払い運動」ですね。そういった言葉があるくらい、いかに安く住むか、タダで住むかということを意識的に追求してるんですよ。これはたぶん労働運動の賃上げ運動にヒケをとらず重要な、とくに若い世代にとってはいっそう重要な運動になるんじゃないかと思います。それにやっぱり「レント・ストライキ」という言葉自体がいいと思うんです。つまり奪われるのは労働現場だけじゃない。実は生活のなかで、生きているだけで、さまざまな局面で奪われている。生きて存在するだけで、ごっそり家賃をさっ引かれているということ。それが家賃だと認識したとき、いかに安く住むか。敵対してでも安く住むならばけっこう展望のある運動であり、同時に生活を楽にすることに直結する形であり得るんじゃないか。賃金の問題からはずれるんですけど。でもたぶん賃労働重視の労働運動よりも響くものがあるんじゃないかと、ぼく自身は思うんです。だって目の前に空き家がごろごろ転がってるわけですから。


――そうですよね。いや、空き家は実はもっとも田舎が大変ですね。田舎で暮らすとどういう暮らしになるのかというのも確かにあるんですけどね。


原口:いまの話ですと、東京だと馬鹿馬鹿しいのは住んでもないのに転がして転がして、株価のように回して回して、高値で売り抜けるということに使われているんだとしたら、ねえ?


――タワーマンションなんか同じですよね。住んでないんじゃないか?と思うんですけどね。


原口:そうそう。


――タワーマンション、あべのハルカスと札幌の大通りから見た高層ビルを撮ったんですけど、ほとんど同じなんですよね。規模は違いますけど。商業ビルとかオフィスビルとか、人々が集う場所よりも、マンションのほうが高層なんですよね。これはぼく、初めて見たときはびっくりして。こんなにいまは高いマンションが建っているんだと。でも大阪も札幌もそんなに変わらないと思います(笑)


原口:うん、変わらないですね。


――これは都市風景として異質性が全然ないんだなと。規模は違いますけど。これは東京もあちらこちら同じですし。札幌の中心部が東京のどこにでもある、という感じです。


原口:だいたい同じ風景になってきますよね。


――そうなんです。これ、先の(北海道の)地震に普通のマンションに住んでいる人が言ってましたけど、水が出なくて大変だったと。とっても怖いと思うんですよね。911でツインタワーの事件があったじゃないですか?これはちょと言ってみたいなと思ってたんですけど、橋本治という作家がいますけど、鶴見俊輔さんと対談していたんですよ。それは911の事件があったときに結局あのツインタワーの攻撃があったあと、あれをね。広島の原爆ドームのように公園にしてメモリアル・パークにアメリカ人ができるかどうかあたりを僕は考えるんですと橋本治が言っているんですよ。だけど(苦笑)、実際はもっと高いビルを建てましたよね。より以上のね。やっぱり文学者の見立てというのは甘くてちょろいですかね(苦笑)


原口:ははは。いやあ。


――これはだから本当に「やられるよ」という高層階のビル。まして火事だの地震だの起きたらどうするんだろう?


原口:そうですよねえ。


――だから住んでないんじゃないか?と思っちゃうんです。


原口:いや、かなりの部分住んでいないと思います。


――1ヶ月とか2ヶ月くらいなら、高いところに住んで、「底辺庶民どもめ」みたいに思うかもしれないけれど(笑)。絶対飽きますよ。生活するとしたら。


原口:もうひとつその話と関連して馬鹿馬鹿しくも、しかも人間社会の愚かさとか不思議さは高層階ほど高い値段がつくじゃないですか。


――そうですよね。


原口:高い方が危なくてしようがない。そのあたりで何か、もう自然的な安全性とは関係のないところで、「威信」が幅を利かせている。


――まさに911が証明するものですね。


原口:それもそうですし、911プラス、日本の場合も地震があっちこっちで起きていて。


――札幌もマンションがけっこう大変だったみたいで。


原口:ああ~。どうでした?札幌は。


――ウチは40時間停電だったんですけど、幸い携帯ラジオがあってずっと聞いてたんですけど、やっぱり電気と水ですね。僕の家は幸い水もガスも大丈夫だったので、麺をゆでて食べてたんですが、やっぱり40時間くらいにもなると、停電もキツイですね。


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原口:ああ~、なるほど。


――ぼくひとりならまだしもなんですけど、91歳になる親がいまして。


原口:そうですよね。


――親も状況判断ができなくなっているので、ちょっと緊張はしました。だから水が出ないマンションの住まい。バイト先にもそういう人がいたんですが、結局そのマンションは下に降りても水が出ないらしく、どこか公的な場所まで水を汲みに行かなければならなかったらしいんです。それがすごく大変だったと言っていました。その人はマンションの8階くらいに住んでるらしいんですけど、ポリタンクなんかも持っていなかったからペットボトルを持って上り下りを繰り返してたらしいんですね。


原口:ああ!大変ですね。うん、うん。


――これはねえ。本当に18階だ、20階だのに住んでいて水が出なくなったらどうなるか。何か盛んに免震構造や耐震構造がとか唱えてるみたいですけど。まず信用できませんね。


原口:ええ。だいたい地震のロジック、火事のロジックは開発するときにだけ使われて、耐震構造もそうですし、火事もそうですけど、建てるときだけですよ。


          インフラストラクチャーの問題


――本当に2000年代に入ってからじゃないですか?こんなに高いタワーマンションが建つようになったのは?


原口:そうだと思います。たぶんそれまでなかったと思います。もう拡大しないと気が済まないんだなと言うのは、それまでは面的には郊外へと、外側に広がっていたものがある時期から空中に向って容積を積み上げて伸びて行ってるんですよね。その過程で今度は郊外のほうが見捨てられていくという、また不条理なことが起きている。よくこれからの時代のニーズに合わせてとかいいますけれども、だいたい誰がそれを欲しているのかよくわからない。結局都市の形態変化というのは、わけがわからないまま高く積み上がっていく状況をひたすら続けているじゃないですか。


――エレベーターが使えなくなったときの状況とか、エレベーターが仮に故障したらどうするかとか、それを考えたらとても高いところに住むなんてことは怖くて出来ないと思うのが普通の人間の感覚としてあってしかるべきと思うんですけど。


原口:そうですよね。それは大阪の地震の場合に一番怖くて、はっきりしてたのは、やっぱり人口島に空港を作っちゃいけなかったということです。


――この前の台風21号の時に証明されましたよね。


原口:結局、橋にタンカーがぶつかって。通行不能になってしかもそれを無理に動かそうとしているという愚かさが重なり合って。


――何とか復旧したとはいえ、「大丈夫なのか?」とずっと後までありましたね。


原口:実は関西空港も釜ヶ崎の労働者がずいぶんかかわっているんですよね。


――平井正治さんの本にも後半に書いてありましたね。


原口:釜ヶ崎とジェントリフィケーションの都市構造の話を繋ぐキーワードとして、やっぱりインフラストラクチャーという話になってくると思うんです。結局、どういったインフラが自分たちに必要で、どういったインフラが必要じゃないのかということをやっぱりあまり冷静に見てこなかったということがありますよね。

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