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鳥獣戯画 京都高山寺展 北海道近代美術館

 北海道に日本のいわばマンガの、あるいはアニメのオリジンである鳥獣戯画図(正確には、鳥獣人物戯画)がやってくるというので、午前の仕事だけの自分はバイト終了後に早速北海道近代美術館に見学に行ってきました。 

 今日から絵巻の甲の部分の後半から最後の部分。特に一般にいちばん馴染みのある部分の実物を拝見しました。ちなみに実際には「鳥獣人物戯画」というのが正しく、絵巻は”甲乙丙丁“の四つに分かれていまして、甲部はマンガの原型と言われる我々がよく知るウサギ、カエル、サル、キツネなどが擬人化されて相撲を取ったり、水泳をしたり、追いかけっこをしたり、ままごとならぬ仏道や神事の真似事をするという愉快な外遊びが躍動するもの。
 乙部は主に神獣や、外国に存在する動物などを空想で描くもの、丙部は人間のいろいろと、動物。丁部は人間のさまざまな様子が描かれているそうで、多くの人が馴染み深い甲部後半を観れたのはラッキーでした。でもやはりそれだけに人が多かった。

 入場から少しずつ移動制限をかけながら並んで観るのでけっこう時間はかかります。で、最初多くの人がならんで見ていたのは甲部絵巻の複製、レプリカだったんですよね。会場に入れたら整理員の人からいきなり、「後ろの方から並ばないで移動しますか?」と言われて何で?と思ったんですが。考えると最初は全部複製画だったと。なるほど、「意外と絵巻に描かれた戯画ってサイズが小さいんだな」と思ったら、その向こうに本体の今回開陳されている絵巻があった。でも甲部の全体像を最初に複製でも観れたからそれもよかったなと。

 じっくり人の並びに合わせてゆっくり移動しつつ今回展示の国宝を見ると、思った以上にコンデションは良く、描かれた戯画は快活で、文字通りマンガ的な原画の躍動感のようなものが伝わってくるものでした。複製よりも大きく、非常に素晴らしかった。

 特に出色はカエルの活躍でしたね。場面は絵巻なので起承転結からの逸脱はありますが、至る所でカエルのユーモラスな所作動作が楽しい。その次に目立つのがウサギですが、ウサギは目がどうしても黒めがちなので、表情が作りづらいのが一点だけ難所。カエルは白目があるので、表情も豊かだし、カエルの大口が笑うと呵々大笑という感じで、オーバーアクションがハマってるし、コメディアンとしての役割見事。中には仏菩薩に粉飾したりして、そういう様々が楽しい。 

菩薩になったよ〜

 確かに日本の絵巻ものというのは、有名なものはきっと様々素晴らしいと思うのですが、前提情報がないと理解が難しいものが多いですよね。その点、この動物戯画は単純に身近な生き物が人間と同じ子どものような遊びを屈託なく行なっているので、童心に帰ることができます。これは子どももぜひとも楽しんでみてもらいたいのものでしょう。 

 さて、やはり僕も含めて多くは鳥獣戯画図を見たくてこの展覧会に来てるでしょうが、もう一つは「高山寺」というお寺、そして明恵上人というかたがほぼほぼ開寺したと言っても良いお寺で、明恵という傑出した僧侶に纏わり高山寺にまつわる仏画や書、お経や重要文化財なども展示され、それも見どころです。明恵上人というと自分などは有名なユング派精神分析医で著述家の河合隼雄さんが日本で初めて夢に着目した人として明恵紹介をしていたことで知っていましたが、この方は日本のゴッホよろしく、自分を仏に相対する者たらしめたくて、右耳を切落としてしまった。今回そんな事実を知ってちょっと驚きました。 

仏眼仏母像

 国宝であるこの仏眼仏母像のまえで片耳を切り落としたそうな。何でもこの仏画を子どもの頃に両親をすぐ亡くした明恵上人が我が母として愛しみ帰依していたそうです。そんな明恵さん、今でも多くの人が知る上人なのでやはりよほどパッショネイトな人なのでしょう。鎌倉執権でもおそらく名君?にはいる北条泰時が帰依してたと言いますからやはりかなりなオーラがある人だったのでしょう。 
 その明恵上人が生涯そばに置いてめでたのがこの子犬です。なるほど、こいつは愛らしい。

子犬

志賀直哉が持ち帰りたいと言ったとかいう話ですが、ぼくもこの子犬だったらぜひいただいて生涯愛でていたいです。 


 また、この神獣鹿も非常にリアルで。今回は別に馬の彫刻も展示されましたが、それも非常にリアルで。特に鬣や尻尾の毛は素材は何か、とても本格的なものでした(ボギャブラリーがないなー) 

 あとですね、仏画ではこの菩薩像は非常に何というか、これを拝む側はすごく法悦の感情を持つでしょうね。こんなに仏画から見る側に身を乗り出すような、接近する姿勢の菩薩画は珍しいと思う。 

明恵上人の生まれはおおっと、これまた紀州。今の和歌山県の出身で。ですので、高山寺も京都洛外の山寺ですが、紀州での滞在も長いですね。かの地域は神仏混淆、本地垂迹のメッカのような土地柄ですので、明恵上人以後の寺宝になりますが、春日住吉神像などというものもあります。あるいは熊野曼荼羅とか。

 かと思えば、日本から渡唐し日本に臨済禅を伝えた僧、栄西が同時に中国から伝えたお茶、あの時代はくすりとして活用を考えたのでしょうが、明恵が高山寺(栂尾ーとがのお)という山ですが、そこに茶を栽培して各所に広まったと。その意味で日本のお茶の源流にも属している人のようです。 そもそも明恵上人は華厳宗中興の祖と呼ばれ、そも華厳宗自体が「南都六宗」に数えられる奈良仏教のひとつで、平安末から活動始めた人とはいえ、最澄空海以後ではけっこう古い講座派仏教だと思うんですが、密教にも触れますし、どうやら坐禅もやるし、何なら土地柄神仏混淆、本治垂迹の人でもあり、最初に書いた通り日本で初めて自分の夢日記を赤裸々に綴り続けた人でもあり、そして時の執権の帰依も受けるという。 
 マルチな才能の人、明恵。ーーーなんてその場で勝手な想像を広げてしまいました。 

 ちなみに今回の展示はその後の近代の高山寺に土冝法龍、小川義章といったインテリさんが寺主になりまして、前者は和歌山熊野の植物学者南方熊楠(南方熊楠の書簡が展示されていましたが、小さな字でビッシリ書き込みが。確かに天才の異能ぶりを感じましたー過剰なほどに)と、後者のかたは多くの文化人たちと交流していて、特に多くの仏寺を撮ってきた写真家の土門拳さんはとても高山寺を気に入っていたようです。 

 なかなかいろいろ解りの多い展示会で。非常に楽しかった。もし可能ならば、機会があるならば行ってみたいお寺のひとつとなりました。

PS.今回の写真は、鳥獣戯画甲巻悟りカエルwの写真以外は、高山寺さんのホームページよりお借りしました。(館内は写真撮影禁止です)
 また、現在の展示(甲巻後半部)は7月27日までです。

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