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交通事故治療の基礎知識1、総論「治療の進め方。後遺症。労災。東洋医学という選択肢。など」

交通事故にあってしまった方へ治療や手続きの方法をお伝えしたり、精神的なサポートをしたりする活動を10年以上しております。交通事故治療相談室の代表、白石と申します。これまでの経験を基に「どのように治療を進めればスムーズか?治療に集中できるか?」という観点で書いています。労災保険や自賠責保険は手続きが煩雑になってしまうこともあり、初めての方にとっては迷うことも多いかもしれません。このnoteが参考になれば幸いです。わからない場合はkenjiroushiraishi@hotmail.co.jp、もしくは0424974130までご相談ください。なお参考文献はリンクを貼っております。交通事故の問題は、「被害者の気持ちに寄り添い、被害者が持つ不満や不安を相談できる場所がなく、またワンストップで色々な説明(医学的な説明から法的な説明)をバランスよくしてくれる場所がない」という点にあります。それらのお悩みを少しでも解消できれば幸いです。

1. 事故にあってしまったら、まず何をどうしたらいい?

「事故にあったらまずどうする?」、というような基本的な対応の話は国土交通省の管理する「自動車総合安全情報」にも記載されていますが簡単に流れを説明してまいります。

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1) けが人の救護と道路上の危険除去
負傷者の救護、二次災害の防止、安全確保を最優先します。重傷の場合は、すぐに救急車を呼びましょう。

2) 警察へ届け出る
事故に遭ったら、規模に関係なく、まず警察に電話しましょう。警察への届出を怠ると、保険会社に保険金を請求する際に必要となる「交通事故証明書」が発行されません。加害者には届出の義務がありますが、その届出をしないことがあります。その場合には被害者からも届出る事が必要です。必ず届けるようにしましょう。その際、届出て警察署と担当官の名前はメモしておきましょう。

3) 相手(加害者)と加害車両の情報を収集
加害者の氏名・住所・自宅と携帯の電話番号・車の登録ナンバー、自賠責保険(共済)、証明書番号、他にも勤務先や雇主の住所、氏名、連絡先(※業務中であれば、運転者だけでなく雇主も賠償責任を負う事があります。)をしっかりと確認しましょう。もし可能であれば、免許証と車検証の写真をとっておいてください。時間の経過と共に、相手の話の内容が変わることはよくあることなのです。

4) 事故状況の記録
事故のショックも加わり、事故当時の記憶はどんどん薄れる事があります。必ず事故現場の見取り図や事故の経過、痕跡、ブレーキ痕、壊れた自動車などの部品等、加害車両、被害車両の写真などの記録を、可能なかぎり残しておきましょう。データとして賠償交渉終了時まで残しておけば安心です。できれば目撃者の名前・連絡先を聞いておきましょう。後日、何らかの争いになった際の証拠にもなります。

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5)ご自分の保険会社に事故の連絡をします
乗っていた車の加入している保険会社に交通事故にあった事を連絡して下さい。搭乗者傷害保険を掛けている場合、請求することも出来ます。搭乗者傷害保険は等級に影響しない事故の1つです。等級を下げることなく、保険料を受け取ることができます。

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6)外傷がなくても病院を受診しましょう
救急車で運ばれるようなケガなら当然ですが、後日診察を受ける場合でも、人身事故の取り扱いにしていないと治療費などの支払いが受けられなくなります。事故直後は興奮状態になるため、症状が出ない方もいますが、できるだけ当日に受診しておいてください。たとえその日は何の症状が出なくても、後から何らかの症状が現れることも往々にしてあります。軽微な事故に見えても後で体に異常が出た・・・などということはよくあることです。そして最初に受診した病院での診断(書)は後の治療の判断基準となります。「そのときに痛い場所」だけでなく少しでも気になる部位については、必ず医師にすべて訴えておきましょう。本当は痛くないのに保険金目当てなどの理由で痛みを訴えることは「詐病」といいこれはやってはいけませんが気になる個所を最初に訴えておかなければ後から訴え出ても交通事故によるケガだと証明できなくなります。

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以上、簡単に流れを説明しましたが実は、『自己判断による手続きミス』により治療が受けられなくなりあとで後悔するというパターンがあるのです。

①「たいしたことないから警察を呼ばなくてもいいや」
②「別に病院へ行かなくても平気だろう」
③「痛みはそんなに強くないから、週に1回もリハビリすれば十分だろう」

など自己判断により後悔をしてしまうケースです。順に解説していきます。以下のことに注意をしてください。

①「たいしたことないから警察を呼ばなくてもいいや」

警察を呼ばないで事故証明を取らなければ自賠責保険を使っての治療が受けられなくなる可能性があります。必ず事故証明を取るようにしましょう。 また当初「物損事故」として処理されている事故でも、外傷が見つかった場合「人身事故」に切り替えることも可能です。詳しくは各警察署のHPをご覧になるか最寄りの警察署へお問い合せ下さい。ただ人身事故に切り替えなくても書類を添付すれば治療費などの保険請求が可能になる場合もあるため実際には人身事故への切り替えをしないで治療をしているパターンも結構あります。

②「別に病院へ行かなくても平気だろう」

24時間以内に病院を受診し医師による診察を受けないと交通事故による外傷として認められないこともあるのです。交通事故による外傷は、しばらく時間が経過してから体の不調を引き起こすことが大変多いのです。気持ち悪くなったり、体の各部位が痛くなったりすることもあります。自己判断で手続きを省略したりすることは避けましょう。交通事故にあったらなるべく早く医師の診断を仰ぎましょう。

③治療にあまり通わないという自己判断のリスクについて

また、同じ区自己判断でリハビリに通う頻度を少なくするのもリスクがあります。初期段階でしっかり治療を行えばやはり 回復がとても早い上に、予後(事故後半年以上たってからの体調)がとても良いことが多いのです。交通事故の場合は、『時間差で起きる症状(半年後などに体調悪化)』がもっとも怖いのですが、それもしっかりしたケアにより、起こりにくくなります。

2,まずは治療に集中しよう。~症状固定と後遺症申請まで~

交通事故や労災事故で自賠責保険や労災保険を使って治療を受けられる期間は限られています。「痛みや症状が続けばずっと治療を受ける事ができる。」という性質のものではなくある一定の期間が来れば治療は打ち切りとなるのです。(症状にもよりますが半年程度が一つの目安です。)忙しいから病院に行けなかったという理由も通用しません。我慢できる範囲の痛みだからと無理をしたり、病院に行かずに治療を中止するようなことがないようオススメしております。まずはしっかり回復するように治療に集中しましょう。

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そして回復し「治癒」に至ればよいのですが残念ながら痛みや可動域制限など症状が残ってしまうこともあります。その場合はどうなるのでしょうか?「これ以上治療をしてもよくならない」という判断が下された場合は「症状固定」となり治療が中止となります。症状固定の判断は誰が下すのでしょうか?保険会社の担当者でしょうか?これは医師の判断になります。症状が残ってしまった際にはあきらめる、という選択肢もありますが「後遺症の申請」に移行する事ができます。後遺症は等級があります。後遺症を申請する際には「相手保険会社にお任せ」という選択肢もありますが弁護士等に事前によく相談するのが良いでしょう。弁護士に相談すべきタイミングはその2で詳しく解説しています。

このnoteは「治療」を中心に書いているので詳しくは述べませんが後遺症が認定されると「金銭の支払いが増額される」と覚えておくと良いでしょう。デメリットとしては申請すれば必ず認定されるという性質のものではなく「審査」があるため時間がかかってしまうということなどが挙げられます。交通事故の負傷で症状が残存してしまった後遺症申請は圧倒的に14級、12級の「局部に神経症状を残すもの」または「局部に頑固な神経症状を残すもの」が多いと言われています。まとめは以下です。

①事故があったらまずは医師の診断を受け治療の必要性を確認する → ②出来る限り治療に集中 → ③残念ながら症状が残ってしまった場合は後遺症申請*ただし申請すれば必ず認定される性質のものではない。

3,労災事故と交通事故、労災保険と自賠責保険

労災保険と自賠責保険は管轄は違いますので様々な違いはありますが治療を進めるうえでの基本的な仕組みは共通することが多いです。自分でけがをした場合は、(医師等に相談しながら)自分の好きに治療を進めればよいのですが労災事故や交通事故の場合で保険を使って治療をする場合だと自分でケガや損害を立証する必要も出てきます。また痛みや症状が残った場合に後遺症として申請できることも共通点です。上記2,の①~③までの流れが双方とも治療を進めるうえで基本となるので覚えておくと良いでしょう。

ところで勤務中や通勤途中での交通事故の場合、労災保険と自賠責保険どちらを使って治療をすることになるのでしょうか?一般的には自賠責保険から使うことが多いようですがケースバイケースです。事故の状況によっては治療費を労災保険から捻出するほうが良いケースもあるでしょう。例えば自身の過失が大きいような場合、治療費の枠を使いたくないという理由で「治療費の枠を労災保険で賄う」ということも考えられます。第三者行為災害の届け出を出す必要があるなどの手間もありますのでこれはどちらが良いというよりはケースバイケースでしょう。迷ったら弁護士さん等に相談されることをお勧めします。労災保険は病院だけでなく、鍼灸院や整骨院などでも対応してもらえます。治療費が全額出ます。もしも利用したい場合は必要な書類が病院とは違うので事前に相談しておくと良いでしょう。(次項4,で詳しく述べます)

4,東洋医学や施術所を利用するという選択肢(はりきゅう・マッサージ・接骨院)

労災保険や自賠責保険では基本的には病院の治療を受けることが想定されていますが、国家資格である鍼灸(はり・きゅう)、あんまマッサージ指圧、柔道整復も労災保険や自賠責保険を使って施術を受ける事ができます。投薬や医学的検査、オペなども受けられる病院で行われるいわゆる西洋医学・現代医学的な治療を第一選択にすべきですが、痛みや神経症状で鍼灸などを希望する方もいます。

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鍼灸は痛みに関して効果的で研究も豊富です。海外研究ですとむち打ち症関連の鍼治療システマティックレビューがありますし、国内ではムチウチ鍼治療の症例報告もあります。(ただし社会心理的な因子の影響が強い疾患のため注意が必要です。痛みにだけ、疾患にだけ、注目することはあまり得策ではありません。症状改善には心と体の双方からのケアが必要になってきます。)病院の治療と並行して行うことでよい結果が出ることもあるため選択肢の一つとして検討しても良いと思います。それぞれの特徴や注意点など書いていきます。

①鍼灸・マッサージを受ける場合

労災保険の場合:

最初に医師から「鍼灸(マッサージ)の必要性について」所定の用紙に書いてもらう必要があります。はりきゅう診断書(診鍼様式第1号)・マッサージの場合はマッサージ診断書(診鍼様式第2号)です。また最初と9カ月目のタイミングで施術効果の評価表(診鍼様式第1号 別添)も必要。必要書類を提出すれば鍼灸院等が代理で請求してくれることもあります。

自賠責保険の場合:

とくに書式はないが、できれば毎月医師から「鍼灸(マッサージ)の必要性について」同意を書面でもらっておくのが望ましいです。そうでないと交通事故での治療に鍼灸治療が必要だったかどうか?因果関係など証明できなくなってしまう可能性があります。(結果、治療費が保険から支払われなくなる)

②柔道整復術を受ける場合

労災保険の場合:

特に医師の同意は必要ないです。必要書類を提出すれば整骨院(接骨院)が代理で請求してくれます。。

自賠責保険の場合:

とくに書式はないが、できれば毎月医師から「柔道整復術の必要性について」同意を書面でもらっておくのが望ましいです。そうでないと交通事故での治療に柔道整復術が必要だったかどうか?因果関係など証明できなくなってしまう可能性があります。(結果、治療費が保険から支払われなくなくなる事があります。)

③どんな時に東洋医学(鍼灸・マッサージ)や柔道整復などの施術所を利用すべき?

現代医学的な治療・病院での治療は治る確率が最も高いものが提供されていますが痛みの治療の場合は心理的な因子や患者の好みなどもあるため必ず合う・合わないの問題が出てきてしまいます。これはある意味、仕方ないことなのかもしれません。しかしながら医師の診察を定期的に受けていなければ仮に後遺症が残ったとしても後遺症の申請ができない可能性も出てきてしまいます。ですので、鍼灸・マッサージ・柔道整復などの施術の必要性を必ず医師に確認をとりながら進めるのが無難です。保険請求する場合、後遺症申請を行う可能性がある場合は注意して治療を進めるのが良いでしょう。

また「担当した医師が病院以外の治療を認めない。」という話を聞くこともありますがこれはある意味仕方ないことなのかもしれません。もしも方針が合わなければ病院を変えることはできます。

蛇足ですが慰謝料の自賠責基準では病院・整骨院(柔道整復)は通院日数の2倍で算定しますが、鍼灸やマッサージの施術所への通院だとそれがありません。ただこれはあくまで自賠責基準の話であり弁護士基準だとまた変わってきます。心配ならば事前に弁護士等に質問すると良いでしょう。

5,事故のけがは治りにくい??

交通事故によるケガで治りにくいものの一例をあげるならばTFCC(三角繊維軟骨複合体)損傷脳脊髄液減少症などは一般的に「治りづらいケガ」と言えるのではないでしょうか。特に脳脊髄液減少症は対応してくれる病院も少ないため注意が必要です。事故後から強い眩暈症状などがあるなどの場合、心配ならすぐに専門医の判断を仰ぐのが良いでしょう。東京都内だと山王病院などが有名です。

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それとは別に「痛みや痺れ」など症状の問題で長引いてしまうこともあります。それらは主観的な問題であるため本人が訴えていた場合、治療を中止するわけにもいかず長引いてしまうこともあります。また「賠償が絡むと治りづらいのではないか?」ということも昔から言われてきたテーマです。ここではその考察をご紹介致します。「交通事故による いわゆる“むち打ち損傷の治療期間は長いのか―損害賠償を含む心理社会的側面からの文献考証―」という研究報告です。JA共済の研究であるため「保険会社側の視点」と言えますが重要な指摘もあるので紹介しておきます。興味がある方はリンク先を全文ご覧になっていただいたほうが良いのですが以下に抜粋します。

筆者らの過去の研究結果では、交通事故が受傷原因である患者は、その他の受傷原因である患者(転倒、転落、スポーツ時の受傷、頭部に重量物が落下した等)より約2.5倍治療期間が長期であり、統計学的に有意差を認めた。このような比較調査は稀であり、第三者からの加害行為であるか否かで治療期間に差が認められることを示した)。これは「交通事故や労働災害事故等に遭遇した場合に、その事故の責任が他人にあり損害賠償の請求をする権利があるときには、加害者に対する不満等が原因となって症状をますます複雑にし、治癒を遷延させる例も多く」と示した上記の最高裁の判決のように、損害賠償制度や心理面を含めた様々な要因の存在が関連することで治癒経過に影響を及ぼして治療期間に差が生じたのではないかと考えている。

交通事故の問題は、医学的な知識だけでも法律的な知識だけでも解決が困難な場合があります。

・ 制度の説明

・ 事故発生から解決までの流れの説明

・ 手続き面の説明

・ 法律の説明

・ 保険の説明

・ 医学的な説明(治療の説明)

交通事故被害者が安心して利用を進めるにはこれらの知識が必要になります。また時には、法律家や医療スタッフ、保険会社スタッフ同士のコミュニケーションや情報共有も求められることもあります。ただしその関係性が作為的であってはいけないし距離感はとても大事です。

私はかれこれ10年以上、無料で交通事故被害者の方からの相談に応じております。もしもわからない場合は遠慮なくkenjiroushiraishi@hotmail.co.jp、もしくは0424974130までご相談ください。それでは交通事故治療の基礎知識その2、各論「自賠責保険の仕組み。無料相談機関。弁護士に相談するタイミングなど」につづきます。

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