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『Give Me Take You』★★★★★(4.7)音楽購入履歴#9

Title: Give Me Take You(1968)
Artist:Duncan Browne
Day:2024/2/3
Shop:disk union shimokitazawa
Rating:★★★★★(4.7)

Immediateの至宝

Give Me Take You(1968)

やっと買えた1枚。
紙ジャケの神ジャケ、嬉しおす。
2006年再発CDかな?日本盤。

ダンカン・ブラウンの存在を知ったのはいっても3,4年前で、
以前書いてたブログへのコメントで教えていただいたのが最初だったように思う。

その有難いコメントはビリーニコルスについて書いた回でいただいたもので、
「ビリーニコルス『Would You Believe』と同じく68年にImmediateからリリースされたダンカンブラウンの1st『Give Me Take You』がめっちゃいいんですけどご存知ですか?」
といった感じのものだった。
僕はすぐさまYouTubeで検索してフルアルバムを「お気に入り」に入れ、
それから何度も聴いては感服し、購入の機会をうかがっていたわけで(その3,4年前の時点ではApple Musicに73年の2ndしかなかったと思うんだけど、今見たらありました)。

このビリーニコルスとダンカンブラウンという素晴らしきシンガーソングライターを輩出したImmediate(イミディエイト)というレーベルを作ったのはローリングストーンズの初期マネージャーとして知られるアンドリュー・ルーグ・オールダム

Immediateは英インディレーベルの草分け的存在であるが、だからこそか運営がずさんで財政難に苦しめられ、65年に設立してからわずか4,5年で倒産。

カタログを見たところ、その4,5年でリリースされたアルバムはわずか28枚なんだって。

1番の稼ぎ頭はスモールフェイセス(及びハンブルパイ)で、次点はナイスだろうか。
あとはエーメンコーナークリス・ファーロウP.P.アーノルドTwice As Much、そしてビリーニコルスとダンカンブラウン。
正直全部クオリティ高くて、少数精鋭な感じが気持ちいいレーベルなのよねImmediate。

あと『Blues Anytime』というブルースロックのコンピレーションアルバムをVol.3まで出してて。
ジョンメイオールやエリッククラプトン、ローリングストーンズの面々に、ジミーペイジ、ジェフベック、ニッキーホプキンス、Savoy Brownなどなど。
Twinkとジョンロードとロンウッドが組んだSanta Barbara Machine Headはこのコンピにのみ登場する幻のバンドだったり。
ほんとうにすんごいメンツなんだけど、これが既存の録音を集めたコンピではなく、
このコンピのためにImmediateが録音したもの、というのがまたすごい。

素晴らしい才能を見出し、素晴らしいミュージシャンとアレンジャーを起用してハイクオリティなものばかりをリリースし、
『Blues Anytime』で名だたるミュージシャンを集結させる。
アンドリュールーグオールダム恐るべし。


あとは経営さえ上手くやってれば…
とにかく財政難で、横領もあったとかで、スモールフェイセスですらほとんど金もらってないとかで。さすがにスモールフェイセスとナイスは売れてたはずなんやけどな。
そんなことでビリーニコルスの『Would You Believe』はテスト盤100枚しかリリースされなかったし、
ダンカンブラウンにいたっては倒産の時にレコーディング費用として2000ポンド請求されたとか。笑
Immediateの28枚のオリジナルレコードはどれも高値がついてるみたいだけど、
その中で1番レアなのがビリーニコルスで、
その次がダンカンブラウンだとか。

スモールフェイセスの面々やキースエマーソンはトップミュージシャンの道へと進んでいけたわけだけど、
Immediateのミュージシャンのほとんどは結構キャリアをつぶされた感があったり。

そんなことでビリーニコルスもダンカンブラウンも68年にImmediateで最初のアルバムをリリースした後、次のアルバムを出すのに5,6年かかっていて。
そこからようやくキャリアを積んでいき、やっと少しばかり表舞台に出ていくわけだ。
ビリーニコルスは提供曲がヒットしたり、The Whoのツアーメンバーになったり、
ダンカンブラウンはシングル〝Journey〟がヒットしたり、メトロってニューウェーブバンドで短いながら活躍したり(デヴィッドボウイが『Let's Dance』でメトロの〝Criminal World〟をカバーしてる)。

だからよっぽどのブリティッシュロックマニアでない限りImmediate時代の彼らのアルバムってのは知る由もないくらい長らく埋もれてしまっていたわけで、
ほんっっっっっっとに内容が良くても売れないアルバムってあるんだよなーってImmediate作品を聴くとつくづく痛感するんだよね。

そうなるとImmediateってかオールダム何やってんだよ、って気持ちもあったり、でもほんまに28枚のほとんどが素晴らしいからオールダムすごいな、って気持ちもあったり複雑。

ちょっとねー28枚やろーコンプリートしたいわねImmediateカタログ。エーメンコーナーとかもめっちゃ好きなんよなフェアウェザーロウの声最高すぎる。


まぁとにかくそんなImmediateカタログの中でも高値がついてる2枚、つまりは売れなかった1位と2位が特にしんじられないほど良くて。この2枚がImmediateというレーベルを特別なものにしてると思うくらい。


以前書いたビリーニコルスのブログ貼っときますわね↓


バロックポップ/フォーク
ここに極まれり

裏ジャケ、イケメンでもある

ビートルズが〝Yesterday〟や〝In my Life〟でバロックポップの方向性を示したのが65年。クラシックギターでバロックを演奏するジョンレンボーンが登場したのも65年。
そこから60年代末にかけてロック/ポップ界隈もフォーク界隈もバロックを取り入れていくわけで、特にイギリスで。

ゾンビーズ、プロコルハルム、ハニーバス、ニルバーナUK、数え上げたらきりがないが素晴らしいバロックポップバンドが多数60年代後半に登場した。

定義としてはバロック音楽(1600〜1750)を引用してるか(〝In my Life〟のカノンや〝青い影〟のバッハ)、バロック時代に主に使われた楽器(ストリングス/ハープシコード/オーボエ/ホルンなど)を使ってるかくらいだろうか。ピアノではなくハープシコード、ってのが1番わかりやすい特徴かと。
オーケストラではなく室内楽編成で、ストリングスも3,4重奏くらいでとどまってるのも特徴。
時代的にもロック系はサイケポップと相性がよくて、プログレとなると古典派以降の劇場音楽的クラシックと融合していくことになる。バロックは教会音楽的要素が強くてストローブスの初期とかもかなりバロック的かと。
バロックフォーク系はクラシックギター(ガットギター)でバロック旋律を弾くことが多くてあとはストリングスとかフルートとか足す感じが多い。やっぱりブルースやカントリーが入るコンテンポラリーフォークよりもトラッドの方が相性良いかと。

それでダンカンブラウンはというと、その全てを統括したバロックポップ/フォークを展開していて。
クラシックギターをつま弾き、ハープシコードやオーボエで色づけ、フォーキーでありながらポップ要素も抜群で。
ダンカンブラウンはこの時期のフェイバリットにポールマッカートニー、The Move、ヴァンモリソンを挙げていたようで、クラシカルでバロックな外側が目立つけど根っこにはポップ精神がある、といった最高のバロックポップができあがってるんです。

さらに特徴的なのがコーラル
コーラルはドイツバロック時代のルター派教会で歌われる讃美歌を指す、とのことだが、ルター派教会にはパッヘルベルやバッハも属していたというので、まぁまさにバロックそのもの。
伴奏アレンジとしての室内楽バロックを導入するのがバロックポップ/フォークのほとんどだけど、ダンカンブラウンはこの讃美歌を導入してるのが特徴的。

当時のダンカンブラウンの大きな功績として、ナイスの69年3rd収録曲〝Hang on to a Dream〟でのコーラルアレンジがあって。
ティムハーディンの楽曲である〝Hang on to a Dream〟は当時マリアンヌフェイスフルだったりガンダルフだったりもカバーしてる人気曲だけど、ナイスが特徴的だったのは(キースエマーソンのピアノももちろんあるが)やっぱりダンカンブラウンによってつけられたコーラルだろう。

特に間奏明けのコーラルが素晴らしいんだわ。神聖そのもの。

他のイミディエイト作品でもコーラルアレンジかましてたりするのかしら?しててほしいな


ダンカンブラウンは作曲とギターボーカルに加えてコーラル含めたアレンジャーとしてもクレジットされていて、正直恐ろしいですね。
London Academy of Music and Dramatic Art(ロンドン音楽演劇アカデミー)で音楽理論と演劇を学んだ、らしいけど、それにしても…

これだけできる、というか完成された音楽性を若くして確立してる人間が(47年生まれみたいだから21歳とかか)、どうにか売れるために70年代にシンセっぽいもの入れてハードにしてみたり、80年代にニューウェーブやってみたりするわけだから音楽で生計立てるって大変だわ。
ほんとはこの68年に世に轟いてよかったはずなんだよな、ダンカンブラウンもビリーニコルスも。

ダンカンブラウンは93年に死んでて、どーなんだろ、この1stはいつぐらいから再評価されたんだろうな。酷いぜーーーおれが68年に生きてたら気づいてたで、ダンカン!!

アルバム概要

全体的にダンカンブラウンのガットギターと歌をベースにストリングス、オルガン、ハープシコードやオーボエ等で彩られている。
鍵盤を弾いてるのはWikiによるとニッキーホプキンスとのこと。さすがとしか言いようがないフレーズがたびたび登場する。

作曲してアレンジしてギター弾いて歌って、ほぼ1人で完結してるダンカンブラウンだけど、歌詞だけが書けなかったようで、
学校の友人であったデヴィッド・ブレットンが全12曲の歌詞を書いて、コーラスでも参加。
恋の歌もあれば、ドワーフやアーサー王伝説やギリシャ神話を引用したり、フォーク的な物語風の歌詞を展開したりとなかなかに素晴らしい作詞家。
だけどおそらくは音楽業界に関わったのはこのアルバムのみだろうか。もったいない。

とにかく穏やかなメロディとバロックなアレンジで統一されたアルバム。いちいちメロディやフレーズが美しくて、でも美しいだけじゃなく面白くて。

最初と最後にコーラルを配置したり、〝Waking You〟という曲が2度登場したりと少なからずコンセプトアルバム的な面も垣間見える。68年、一応これも「サージェント症候群」の一枚ということになるか。

1.Give Me Take You

コーラルから始まる1曲目タイトル曲。
名曲すぎる。ガットギター、オーボエ、チェロ、全てのフレーズが美しく絡み合うバロックポップの真髄。
8分で刻んでるハイハット?がずっと妙にズレてるのは気になるが、なんかそれすらも気持ちよくなってくるから不思議。アルバム通してサイケの香りも漂ってるのよね。

2.Ninespence Worth Of Walking

ほぼ弾き語りだけどかすかにあるサイケ臭が抜群の一曲。メロディセンスに満ち溢れとる。
めっちゃ何かっぽいんやけど思い出せん。

3.Dwarf In A Tree

ギターが上手いのが結構特徴でもあって。アレンジに長けてるミュージシャンが楽器演奏でも魅せるってのは結構珍しい気がするんよな。
この曲と2曲目がアルバムではバロック味薄めで、でもめっちゃフックになってるのよね。

6.Chloe In The Garden

アシッド感満載な〝Waking You〟に挟まれた3拍子の庭曲。ドノヴァン味も少しあるのかも。
バロック感満載のストリングスもいいですね。
中世吟遊詩人ですほんまに。

8.On The Bombsite

このアルバムから唯一シングルリリースされた曲(もちろん鳴かず飛ばず)。
アルバム中唯一しっかりドラムが入ってる曲でもある。
全体的に米ソフトロック調でありながらサビが実にクラシカルなメロディで面白い。
ニッキーホプキンスのハープシコードが光る名曲ですね。
アーサー王伝説のランスロットとグィネヴィア(アーサー王の妻)を引き合いに出して、おそらくは不倫の歌になっている。その状況が空襲被災地(Bombsite)に例えられた歌。


11.Alfred Bell

子供のがやがや声のSEから始まるポップソング。ポールマッカートニーを好んでいたのがよくわかる一曲。いや、もう普通に肩並べてるけど。

12.The Death Of Neil

最後は淡々と歌われるギリシャ神話モチーフの物語の後で至高のコーラルが響き渡る。
アコースティックスタイルで、バロック教会音楽を導入してるところはジュディシルと重なるのかもしれない。作る曲自体は全然違うんだけどね。
ええわー


ほんまに全曲良い。捨て曲なし。
73年の2ndもメトロも少し聴いたところ、ダンカンブラウンっぽさみたいなのは感じるんだけど、
やっぱこの1stは特別です。

耳馴染みめっちゃいいのに、独特なんよな。
ぼけーーっと聴いてたら「気持ちええわー」くらいなんやけど、よく考えれば「え、これやってるやつ他におらんくない?」ってなる。

音楽において
「このアルバムからしか得られない感覚とか養分」
みたいなのってあんまりなくって実は。結構代用品があったりするんだけど。
このアルバムはこれでしか満たされない何かを持ってるんだよなー、それってすごいことですほんま。

多分これも僕の人生に傍にいつもある1枚になりそうです!
★★★★★(4.7)!

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