ライチのブランド化で新しい人との関係性を構築! ブランド化の本質とは【一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 高橋邦男さん】
地方で根を張って生きる人たちのホンネとリアルをお届けする「ケンジン」インタビュー。今回は、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(以下、こゆ財団)執行理事の高橋さんのお話を伺いました。
高橋さんは2017年4月にこゆ財団の事務局長に就任し、人材育成事業や視察研修を通じた関係人口を生み出しながら、企業誘致や移住促進に取り組んでいます。
1粒1,000円のライチとして有名な新富ライチをいかに地域の資源として価値づけしてきたのか、また、ライチのその先に何を見据えているのかを教えていただきます。
高橋 邦男さん
宮崎市出身。徳島県の出版社、大阪府の編集プロダクションを通じて地域情報誌や講談社、リクルートなどの大手メディアの企画編集に20年間携わった後、2014年にUターン。行政広報紙のリニューアルにともなう官民連携プロジェクトのチーフディレクターを経て、2017年4月に一般財団法人こゆ地域づくり推進機構事務局長に就任。人材育成事業や視察研修を通じて1万人以上の関係人口を生み出しながら、企業誘致や移住促進に取り組んでいる。2020年4月より執行理事に就任。
地域の資源を「誰に」「どう」売るかを考える
高橋さん
20年前から新富町でライチの栽培はしていましたが、たくさんの方に伝わる機会があまりありませんでした。地域商社としてスタートしてすぐに何らか稼ぐということにチャレンジしていく必要があったので、農家さんと相談してブランド化をしたという経緯があります。
ライチだった理由は、手がけている農家さんがすごく熱心に取り組まれていたということが一番大きかったですね。
ブランド化に取り組まれる以前から熱心にライチの生産に取り組んでいる方がいらっしゃったんですね。
高橋さん
農家さんが10年ほど生産に取り組まれていましたが、希少価値の高い産品ではありますが、売上が上がらないと利益が取れないため持続できないという状況でした。そこで、ブランド化を進めました。
ブランド化を進めるにあたって、何から始められたのですか?
高橋さん
手掛けていらっしゃる生産者さんが素晴らしい技術をお持ちです。すでに糖度は15度以上、サイズは50グラム以上の大粒のライチを生産されていたので、誰にどう売るかということを考えました。
高橋さん
ライチに関しては希少価値が非常に高くて、他の産地ではほぼ生産されておらず、加えて熱心な農家さんのストーリーがあったので、ブランド化するには十分な理由がありました。
ストーリーとは、生産者さんが努力されてきた10年間のことですか?
高橋さん
農家さんの苦労はもちろんですが、ライチを、新富を代表する特産品にしたいという農家さんの想いですね。
当時のライチはいくらぐらいで売られていたのですか?
高橋さん
直売所とだと1粒300円ほどで販売されていました。それでも高いと言われていたようです。
そこからどのようにして認知されて行ったのでしょうか。
高橋さん
カフェコムサ 銀座店でケーキの食材に「生ライチ」を使用してもらったことがきっかけで、千疋屋などの高級フルーツを扱っているお店などからも注目していただけるようになりました。
お客さんにライチの希少価値を理解していただき、購入してもらいたいという想いでやってきました。
ライチをきっかけに新富に関わる人を増やす
高橋さん
実は、2020年に新富ライチはグッドデザイン賞を受賞しています。
ライチでグッドデザイン賞ですか?
高橋さん
グッドデザイン賞というと、見た目のデザインやロゴが云々というイメージをお持ちの方が多いですよね。ライチという新富町に元々あった価値あるものと、それを新たに見出してまちに関わりを作ってくださった方々との関わり方が新しくデザインされたということで受賞しました。
どういうことですか?
高橋さん
関係人口という言葉がありますが、人と人との関わり方には、直接会う、会わないも含めてさまざまな選択肢があります。
少し話が飛躍しますが、僕たちが考える豊かな生き方とか暮らし方の重要なキーワードは、おそらくこの選択肢にあるのではないかと思っています。
目の前のモノ・コト・ヒトも含めて、こういうふうにしかできないのではないかとか、これをやらねばならないとかなど、可能性や選択肢を限定してしまうようなことがあると、幸福になりにくいように思っています。
ライチに関しても同様です。おいしいフルーツということなら、他のものを選んでもらえばいいのです。しかし、ライチの場合は違います。私たちの取り組みやライチ、新富のことを知った方々が「このまちって、もっとこんなふうにおもしろくなるよね」と、新しい可能性や選択肢をいっぱい与えてくれるのです。
ライチをきっかけにしていろんな人の関わりが増えていったんのですね。
高橋さん
ライチのブランド化で話をすると、その商品とか農作物としてのブランド化みたいな言われ方をたくさんされます。結果としてはそういう面もありながら、僕はこのライチという産物は新富町と、もっというとそこにいる僕ら一人ひとりと今まで出会ったことがない方々との関係をデザインし直した産物だと思っていて、ブランド化の価値って本当はそこにあると思っています。
高橋さん
少し飛躍しましたが、ライチをきっかけに新富のことを知ってくださったおかげで、僕たちにも選択肢が生まれました。また、関わってくださる方々が「もっとこんなふうにできるんじゃないか」という選択肢をたくさん増やしてくれました。
大切なのは何が幸せなのかを追求して実現すること
ライチをきっかけに色んな方々とのつながりが増えていったということですが、今はどんなことを目指されているのですか?
高橋さん
まず、人口減少の時代なので、関係人口を増やしたところで定住人口が増えることもおそらくありませんし、僕らも5年活動してきましたけど人口は減っています。人口が減っていく中で、ゴールを人口がちょっと増えるとか、移住定住に設定することにあまり意味はないと思っています。
どういうことですか?
高橋さん
人が増えたら幸せなのかというと、おそらくそんなことはないはずで、東京で生きづらい人も山ほどいるじゃないですか。だからそういうところは全部一回脇に置いて、自分達はどんなやり方だったら幸せなのかということだけを考えて、そのために必要なことを一個ずつやっていくということが、本質的に一番大事なことだと思います。
仮に、すごく高く売れて売上がボンと上がっても、一人ひとりの労働時間が長くて疲弊しているような状況だと幸せではないと思います。結局はそこにいる方が、多少作業的にはしんどくても幸せなのかということが究極の問いです。
僕らの場合は、多様なコミュニティです。いろんな人たちが出たり入ったりしながら、ワイワイやっているコミュニティ。それは数の問題ではなく、どちらかというと多様性ということがポイントで、そういうコミュニティがあれば新しい物事は生まれてきます。
高橋さん
だから僕らは、まちの中とか外とか関係なく、ここに集ったコミュニティの皆さんが幸せを感じられる状況があれば、きっと新しい物事が生まれ、最終的にはそれが行政区分としてのまちも税収が上がったり、雇用が増えたり、そういうことにつながっていくと思っています。
そこをゴールにするのではなく、自分達が「こういうことってすごく幸せだね」と思うことを追求していくことが大事なのかなと思います。
一人ひとりが自分の幸せを追求することが大事なのですね。
高橋さん
ライチを手掛けてらっしゃる農家さんもつらいはずです。10年近く利益が出ない状況で、もうやめようかという話も当然していたと思います。それでも10年続けられていたのは、お父さんのライチを食べて感動して、このライチを自分もこのまちの特産品にしたいという感動があったからですよね。つらいけど、ライチに携わっていたご自身はおそらくどこかに幸せを感じていたはずです。
だから僕らは、これはすごく価値のあるものだと思っていて、生産者さんがこれまで10年されてきたことにこそ価値があると感じて、ブランド化をしたということですね。