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医師がスタートアップにいて思うこと

初めまして、医療系スタートアップのUbie株式会社(Ubie Discovery)で医師として勤務している五十嵐健史と申します。
もともとは麻酔科を志していて、現在は週4日Ubie勤務、週1日麻酔科勤務・研修をしています。そんな1.5足のわらじを履いている自分ですが、Ubie勤続
4年目になろうとしている今、自分の中での振り返りも兼ねて麻酔科、Ubieそれぞれの勤務中に考えていることの共通点や相違点について言語化してみようと思います。

▼ 目次
 ・自己紹介
 ・麻酔科って何してるの?
 ・スタートアップでは何しているの?
 ・両者の相違点
 ・両者の共通点
 ・最後に

自己紹介

もともと私は医療従事者の家系ではなかったため、あまり勝手のわからないまま一番興味を惹かれた科に進もうと漠然と初期研修をしていた折、2年目の4月に麻酔科を回った際に「こんなに面白い科があったなんて!」と感動し、麻酔科に進むことを決意しました。(このときはまさか麻酔科研修を半年でトンズラしてスタートアップに進むことになろうとは露ほども思っていなかったのでした……)
麻酔科としての自分の姿を夢想していた初期研修最後の夏、大学時代の同期である阿部と、その友人の久保に喫茶店に呼び出され、「俺ら起業するから一緒にやろうや!」と突然話を持ちかけられ、内心「正気か?」と思いながらも医療のあるべき姿を模索し、理想へと挑戦していこうという彼等の姿勢に思うところがあり、「まぁ若い頃は多少の無茶をすべきだし、何とかなるだろう」という持ち前の楽観性を炸裂させて同道を決意しました。
その後、麻酔科研修を半年で中断し、Ubie株式会社にジョイン。
Ubie株式会社は「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに、AIによる受診相談や、病院向け問診サービスなどを展開しています。(詳しくは https://ubie.life/ をどうぞ!)
メンバーが少ない頃は慣れない営業やら人材マネジメントやらもヒイヒイやることもありましたが、現在は医療系データの整備を行い、AIをより賢くしていくことを目的とするData Scienceチームに所属し、数多くの疾患と症状のつながりについて思いを馳せながら過ごしています。

麻酔科って何してるの?

さて、そんなわけで現在はUbie株式会社での勤務を主に行っているのですが、週1回は手術麻酔を行っています。
麻酔科というと、あまりピンと来ない方もいるのではないかと思い、麻酔科の知名度アップも兼ねて、麻酔勤務中に何を考えているかについてお話しします。もちろん僕が考えていることなので、あくまでも一例です。
麻酔にも色々あるのですが、その中でも全身麻酔(意識がなくなる麻酔)についてお話しします。全身麻酔で重要な要素が3つあり、鎮静(意識がないこと)、鎮痛(痛みがないこと)、筋弛緩(手術中に体に余計な力が入らないこと)です。
これらの要素を満たす上で、まずはなによりも安全第一を重視します。というのも、体に力が入らないということは自力では呼吸が出来ないということであり、手術中の患者の命は麻酔科にかかっていると言っても過言ではありません。僕が麻酔に従事して4年ほど経ちますが、手術が始まる前に患者が眠りにつき、呼吸が止まる瞬間はいまだに慣れることがありません。
次に、重要な3要素を満たす際に用いる薬剤はなるべく少なく、そして手術中のマネジメントが行いやすい形にしておく。3要素を満たすための薬はこの世にたくさんあるのですが、効能が重複する薬は無理に使う必要はなく、それぞれの薬の長所短所や、患者の背景を踏まえてなるべくシンプルな形での維持を心がけます。
また、麻酔科といえば手術中のイメージが強いかもしれませんが、手術後の患者の痛みがなるべく無いようにも意識しています。手術中は患者の呼吸や血圧などもしっかりとモニターでき、またコントロールもできているので、呼吸や血圧に影響をおよぼすような強い鎮痛薬(例えば、麻薬と呼ばれるものです)も必要に応じてためらいなく使えます。しかし、術後はそういった薬はあまり多くは使えないので、それ以外の薬で如何に痛みをコントロールするかを考えておく必要があります。
最後に、麻酔だけに集中するのではなく、手術中の外科医や看護師さんとの連携を重視します。例えば、手術で難航しているところはないか、出血を起こしそうなタイミングがあるか、といったことは手術をよく見ていないとわかりません。もし何か不測の事態が起こった場合には、お互いにためらいなく率直な意見交換が出来るように、信頼関係を築いておく必要があります。
また、手術の様子に応じて、鎮痛や鎮静の量、種類を変える必要が出て来ることもあるので、そういった場合に臨機応変な対応が出来るように、あらかじめ手術前から二の矢三の矢をイメージしています。

スタートアップでは何しているの?

今度は、医師としてスタートアップで何をしているかについてお話しします。こちらも人々の健康に関わるものなので、データの正確性が大事になるのですが、それに加えてスピード感を持って取り組むことも大切です。スタートアップとはまだ正解のない領域で、如何に正解に至るかが大事となるので、あまり自分たちの中だけで考え込んで仮説を練りに練るのではなく、自分たちの仮説をどんどんと現場に出していき、現場からのフィードバックをもとに仮説を検証していくことが大切だからです。
その仮説検証の後、自分たちがすべきことが大きく転換することも良くありますが、そういった場合には臨機応変に作戦を練り直し対処します。
とはいえもちろん、長期的に大切になりそうなデータセット(取り扱う疾患の粒度はどうするか、どういった情報・データを疾患や症状に付与しておくかなど)に関しては、なるべく将来のマネジメントが少なく済むような設計を意識します。
そして、スタートアップの常ですが、人手が豊富にあるわけではないので、一番自分が組織の中で価値を発揮できるポジションを見つけ、自分がやるべき(+やりたい)ことをやります
しかし、各メンバーが自分のやりたいことをやりたいようにするだけでは局所最適が行われるだけで、組織全体での進捗に上手く結びつかないこともあるので、日頃から全社や他チームとの連携を意識し、定期的に何をやっているかは確認しあうようにします。

両者の相違点

麻酔科としての僕と、スタートアップのメンバーとしての僕で、意識が異なる点について考えてみます。
麻酔科ではとにかくミスがないようにすることが最重要です。そのために準備やチェックを入念に行うようにしています。
その一方で、Ubieではミスがないことももちろん大事なのですが、例えばデータ・情報の持ち方や、その利用法が変わることもあり、また自分たちが考える仮説と、その仮説を世に出すことで得られたフィードバックが食い違うことはしばしばあるので、仮説を寝かせすぎないように、そして時節に乗り遅れないように、スピードを最重要視している点が異なると思います。試行錯誤をしてナンボの世界観で生きている点は、麻酔科の世界観とは大きく異なっていると思います。

両者の共通点

逆に、両者の共通点について考えてみます。まずは、突然の事態に対して臨機応変に対応出来なければならない点でしょう。物事に絶対はなく、麻酔科では不測の事態(例えば出血)が起こることこそ少ないものの、いざ起こってしまった場合にはなんとしても対処しないといけません。一方でUbieでは仮説が上手くいかないことはしばしばあり、あの手この手で課題に立ち向かう必要があります。
また、どちらも将来のマネジメントについて考えながら進めていく必要があることも共通しています。麻酔科では、手術後の痛みを如何に取るかまで検討しないといけません。手術麻酔をかけた麻酔科医が、そのまま手術後まで患者を見ないこともあり、手術後の患者の様子を想像して鎮痛の作戦を立てておかないといけません。一方で、Ubieではスピード感が最重要とはいえ、後々負債と呼ばれてしまうようなデータ構造の歪み、情報の漏れなどはなるべく少なくあるべきです。どんなに初速が早くても、後になって負債の解決に多くの時間が必要となってしまっては元も子もありません。
そしてどちらも、他チームとの連携をとるのが大事なところも同じです。日頃からコミュニケーションを密に取っておき、気軽に相談できるような間柄になっておくことで、計画が立てやすくなり、また不測の事態が起こった際に適切な対処ができるようになります。
最後に、自分がやりたい仕事に取り組んでいるところも同じです。これは何よりも大事(などと、とってつけたように言う)。

最後に

今回この記事を書かせていただくにあたり、医師になってから初めて自分の頭の中身について思いを馳せてみたのですが、スピード感の違いはあれど、実はあまり頭の使い方が変わっていたわけではないのだな、と妙に納得しまいました。
実際の作業自体は大きく違いますが、頭の中ではそれほど思考の方向性が大きく変わる感覚がなく、どちらも地続きで業務をしていたのだなと実感しました。
この記事を通して、医療関係者でない方からすると、謎に包まれている麻酔科医について理解が深まり、また医療関係者からすると、謎に包まれているスタートアップについて理解が深まると嬉しいです。
もし、「スタートアップに興味はあるけど、これまで臨床一本でやってきたから心配」という医療関係者の方がいましたら、この記事を通して(麻酔科に限らず)臨床とスタートアップの類似点について考えてみていただき、「よし、やってみよう!」となりましたら、ぜひ下記採用サイトをご覧ください。
つたない記事でしたが、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。趣味がゲームなので、次回は好きなゲームに関する記事を書こうと思います(書きません)。


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