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なぜ都庁の若手・中堅職員の退職が増加しているのか(その1)

最近になって、元同期などの都庁職員から「都庁を辞めたいけど、けんじは転職にあたりどういうアクションをしたのか」などと言った相談を受けることが増えてきました。
聞くと、私の体感だけではなく、都庁全体(特に本庁)でも、優秀な若手・中堅の退職が加速化している雰囲気が漂っているそうです。
(政策企画局の大量退職はニュースにもなってましたね。)

実際に調べてみたところ、確かに令和4年度の知事部局の普通退職者数は785人で、前年度の687人・前々年度の686人と比べると約14%程度退職者が増加しております。
出典:令和4年度東京都人事行政の運営等の状況
   令和3年度東京都人事行政の運営等の状況
   令和2年度東京都人事行政の運営等の状況

これだけだと一過性やコロナ時の影響の可能性も否定できないのですが、これ以上調べようにも知事部局の退職者数の暦年のデータが無く、過去との比較はできませんでした。


そこで、総務省が公開している全職員(いわゆる教員や警察・消防も含む)の退職者数のデータについて取れる限り比較してみました。
教員の退職者数増加の影響も否定できませんが、全般的には上昇傾向なことが見受けられます。
意外なのがコロナ禍での減少傾向ですが、部活動休止による教員負担が減った影響等もあるのでしょうか・・・。
(上記東京都のデータを見ると、教員の退職数はR3が864人、R2が940人なので母数にもそれなりに影響を与えてそうです。)

東京都の普通退職者の推移(出典:地方公務員の退職状況等調査)

いずれにしても、体感だけでなく、データから見ても退職者増加が見受けられます。
私も都庁を離れた身ですが、なぜ若手・中堅の退職、しかも特に優秀な職員の退職が増加しているのかを考察したいと思います。
都庁がどんなところか、特に退職者がどんなところに不満を持っているか知ってもらうことで、少しでも都庁職員になりたい人のミスマッチを防げればと思ってこの記事を書いています。
(決して退職を煽ったり、他の業界を積極的に進めたりする意図はなく、あくまでどんなところか知ってもらうことで心づもりしていただき、より都庁での活躍に繋げてもらえればと思っています。)



退職者増加の原因:都庁の相対的な魅力の低下

これはきちんと統計を取ったわけではなく私の実体験や在職者の話をもとにした仮説にすぎませんが、人間関係(特にパワハラなど)でやめていく職員は増えていない(むしろ減っている)と考えています。
ただし、誤解がないようにあえて書きますが、パワハラまがいの上司は根絶されてはいないです。
上層部に上り詰めた人にも一部そういった人材は残っており、ガチャに外れればそうした人が上司になる可能性はあります。
ですが、時代の流れもあり、そうしたパワハラは減ってきているように思います。

それでは、なぜ都庁を離れる人が増加しているのかというと、民間・他組織と比べた際の都庁の相対的な魅力の低下に原因があるかと思います。
相対的といっているのは、「都庁の魅力自体が低下している」以外にも、「都庁の魅力は変わらないが、民間の魅力が向上している」「都庁の魅力も上がっているが、それを大幅に超える民間の魅力向上がある。」といった状況もあるからです。
具体的にどういったところで相対的魅力が低下しているか、待遇・組織風土・成長可能性に分けて私なりの仮説を述べたいと思います。

待遇面ではどんな不満があるのか

給料が安い

人事委員会のHPを参照すると、都庁職員の給与は民間との均衡が図られており、
例えば、25歳係員で年収3,740,000円、35歳課長代理で年収6,206,000円となっています。
ただし、ここに残業代も加わりますし、誰もが35歳で課長代理になれるわけではないので、少し実態とずれがあるでしょう。
openworkによると、25歳で平均429万円、35歳で平均610万円だそうです。

ちなみに、超アバウトですが、私の記憶では月30~40時間程度の残業をする35歳本庁主任で年収700万円強だったはずです。
繁忙期で残業100時間行き、通常時45時間程度の部署だと、35歳本庁主任で800万円強だったような・・・。
(こちらはさらに記憶が怪しいです・・・。)

都庁職員の出身大学は早慶やMARCHが多いですが、日経転職版の年収調査によると、
20代の平均年収は慶応で585.7万円、早稲田で541.2万円、MARCHの中で一番職員数が多いとされている中央で509.4万円です。
30代の平均年収は慶応で856.1万円、早稲田で774.4万円、中央で686.7万円です。
同じ大学の出身者の同期と比較すると、都庁の給料は安いと感じるでしょう。

なお、住居手当も35歳未満で月15000円まで(35歳以上は支給なし)となっており、決して高くありません。
特にここ数年は民間が好調でボーナス等が増えているところも多いので、より格差を感じる若手・中堅が増えていると思われます。

本庁(特に花形部署)の働き方改革が進んでいない

働き方改革により、民間企業では以前ほどの長時間労働はないように思っています。
実際に私もコンサルに転職して周りに話を聞くと、一昔前はタクシー帰りも珍しくなかったが、最近ではタクシー帰りはほぼほぼなくなったと言っています。

一方、都庁(特に本庁)においては、残業時間は減っていないどころか増えています。
実際に、都が公表するライフワークバランス推進プランでも超過勤務(いわゆる残業)は増加傾向と記載されています。

それでも20時間強じゃないかとお思いになるかもしれませんが、かなり分散があります。
都庁では本庁の部別の毎月の超過勤務状況を内部で公表していますが、デジタルサービス局や政策企画局などは平均で60時間以上になっていることが珍しくありません。
(育児で時短の職員やメンタルをやられて静養期間中の職員もいる中でこの平均なので、100時間越えが何人いるのでしょうか・・・。)
一方、残業時間が下位の部署では平均10時間を切る状況ですので、かなり分散が大きいことがわかるかと思います。

なぜこれほどの残業が許されているかというと、公務員が基本的に労働基準法の適用を受けないためです。
(公務員は何時間残業させても法律上は問題ない。)
なお、一時期は特に事務所においてサビ残が横行していましたが、かなり解消されたと聞いています。

感覚的には残業時間の多さ自体を嘆く職員はそこまで多くないと思いますが、
確実にボディーブローのように効いていると思われます。
また、後述の組織風土の不満と相まって長時間労働を不満に感じる人もいるかと思われます。

試験制度もあるが、人事評価は公平とはいいがたい

毎年の昇給はよほどのことがなければ、4号ずつ上がっていきます。
よほどというのは、かなり勤務態度の悪い職員でも無断欠勤等の素行がなければ4号昇給できる一方、かなりの成果を上げても4号昇給で終わることがほとんどという意味です。
特に事務所においてはこの傾向が強いですが、一部本庁の花形部署では5号・6号昇給ができることがあります。
(事務所でも5号・6号昇給はできますが、かなり難しいです。)
また、その基準も基本的には管理職である課長の評価で決まるので、
ゴマすりで評価されることもありますし、あるいは目立つ事業をやっていたり、昇任試験が控えていたりすると評価されることもあります。
なお、ボーナスについては、昇給よりは正当に評価されやすい傾向にあります。(増える金額は微々たるものですが。)
要約するといわゆる年功序列型となっています。

ただ、昇給に不満を覚える職員はそんなに多くないような気がします。
評価で一番、職員が不満を覚えるのは、昇任試験だと思います。
昇任試験は、主任試験と管理職試験の2つがあります。(それ以外の昇給は試験でなく人事考査をもとに行われる。)
これがかなりブラックボックスになっています。

昇任試験の結果は、択一問題・論文問題・面接試験(管理職選考のみ)・人事評価をもとに決まるとされています。
択一は足切りにしか使われない(一定点数以上取ると、論文等の採点をしてもらえるが、択一自体は満点をとっても足切りぎりぎりでも評価は一緒)ので不満は生じにくいです。
また、論文・面接については、採点者の当たり外れがあると言われていますが、試験である以上はある程度仕方のないことでしょう。
(仮に外れの採点者をある年に引いたとしても、真に実力がある人であれば翌年以降で受かるはずなので。)

一番の問題が人事評価です。
なんと、6号昇給・論文の採点がA(最高評価)でも、管理職試験に落ちることがあるのです。
実際に私が勤務しているときにこのような状況の人が実在しました。
この人の場合、考えられる理由として局間異動したばかりで、異動前が事務所だったことが挙げられます。

昇任試験では先に挙げた評価基準とは別に、局別に合格させたい人の順位がつけられていると言われており、この順位が低いとこうした現象が起こります。
おそらくこの人の場合、他局から来たばかりで局内での人事評価が確立されておらず、かつ異動前が事務所だったことから本庁の6号昇給とは格が違うと評価されたと思われます。(あくまで推測です。)
局が違えば会社が違うという都庁ですが、やはり局内できちんと評価された人を局として育てたい等の理由があるのかもしれません。
もちろんここまで極端な例はかなり稀ですが、いずれにしても、このような事態があると優秀な人材がきちんと評価されないという不満を抱くようになります。
民間ではロート製薬、SUNTORY、日本生命などでより能力や成果を重視する制度が導入されており、評価の面でも相対的魅力が低下していると思われます。


待遇面での魅力

マイナス面だけだと都庁の離職をあおるだけになってしまうので、都庁が相対的魅力として良い点も述べます。
ただ、本記事の趣旨とズレますので、箇条書きにすることをお許しください。

・育休(都庁では育業という)は男性職員であってもきちんととれる。もちろん人にもよるが、子供ができると取得を進めてくれる上司も多い。
・女性が活躍できる。特に女性管理職を増やしたいという上層部の思惑もあるので、単に女性というだけで格差を感じることはほぼない。
・事務所はワークライフバランスが整っており、定時帰りのところがかなり多い。
・(民間はテレワーク解消の流れもある中)本庁はテレワークが徐々に拡大してきている。
・一部の激務部署を除き、有休は取得しやすい。
・研修が充実している。(最近ではe-learningも増えている。)


書いてみたらかなりのボリュームになってしまったので、組織風土などは次回にしたいと思います。


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